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第112話

「始まりはまあ、うまくいってるんじゃないかな? さすが僕が見込んだだけのことはある」

 二人共元の世界に絶望していた

 かたや抑えきれない破壊衝動

 かたや孤独

 どちらも取るに足らない悩み?

 いいやそれは違う。人一人一人に違った悩みがあり、それが自分の世界の全てとなる者もいる

 そうなれば心は壊れる

 世界はヒトに厳しいからね

 あの世界ではその悩みは決して解決せず、いずれ彼らは壊れていた

 そんな者が数多くいる中、あの二人を選んだのには理由がある

 あの世界の者は、潜在的に力を秘めている

 だがあそこでその力は開花しない

 別世界だからこそ彼らは輝く

 この世界は再生する

 もはや滅びるしかないこの世界は、僕によって再生するんだ

 フフ、フハハハハ

 楽しみだなぁ、僕は再生した世界で神になるんだ

 この世界にいない神に

「セイヴ様、メシアからの報告です。敵も動き出したようです」

「だろうね。想定内だから放っておいていいよ。どうせこの世界の住人じゃあの二人にかなわないし」

「かしこまりました」

「スクイも少し休んだら?」

「いえ、セイヴ様のより良い世界作りが終了した後に、私は休息をいただければ、それでいいのです」

「真面目だね。タスクは?」

「アルエマノエラにおります」

「ああ、タスクの故郷だったね」

「未練、でしょうか?」

「いや、あれに未練はないだろうね。ただ単にこの世界の変わる様子を、自分のいた場所から見たいだけなんだろう。彼らしいよ」

 スクイは僕に一礼し、去った

「ふーむ、僕の部下達は皆真面目だなぁ」

 女神が消えて一万と数千年。その女神の後継であった神獣たちも一人残らず消えた

 残るはこの世界にいる力ある者達だが、あの二人に勝てる者は皆無

 イレギュラーなのはあの男か

 まああれは僕が相手をすれば問題ない

 あの気配は気になるけれど、僕に立ち向かえるほどの力はない

 あと少し、あと少しで僕の願いは叶う

 その時、ああ、アハハ

 どれほどの悲鳴が聞けるんだろう?

 世界を変えるのは、僕が物心ついたころからの夢だったんだ

 夢をかなえるのは人間の当然の責務だろう?

 だからこそ、ずっと準備してきたんだ

 ヒトの身を捨ててまで、ずっと

 想いに浸りながら世界地図を見る

「もう少しなんだ」


 時を同じくしてフェンリナイト城内

「突如として国が二つも、消えた、だと・・・。もはや世界の終りが、始まっているということなのか」

 フェンリナイト王は頭を抱える

 消えた国はフローレンス王国とアルトロ空国

 いずれも商業拠点や運送拠点などなくてはならない国々だ

「おのれセイヴめ。まずは物流を攻めて来たか・・・。生存者は?」

「アルトロに約二万。国民の八割以上が犠牲に。アルトロ王もじゃ」

「フローレンスの方は、誰一人として生き残った者はいないとの報告。あれは災害などという生易しいものではない。厄災と言っていいだろう」

 王たちは今更ながら敵の兄妹さを知った

 次は自分達の国かもしれない

 そう思うといかに王と言えどもその身が震えた

「私の仲間も襲われました。幸いにもハッカが尾を犠牲にして分体を作ってくれていたおかげで、二人共無事でしたが、彼らの話だとあの力はその場から何もない状態を作り出す力、だそうです」

「魔王殿のお仲間まで・・・。力が強い魔人でも歯が立たないとなると」

「うつて、無しじゃな」

「いいえ、それは違います!」

 そこに現れたのはシュエリア王の護衛として来ていた騎士、レナだった

「王様方の不安もわかります。ですが、カズマさんがいます! あの方は自身が強いだけではなく、私達も強くしてくれました。希望はあるのです!」

 そのレナの言葉に答えるかのように、空間転移で何者かが現れた

「お待たせしました。少し時間がかかりましたが、これを」

 そこに現れたのはカズマだった

 王や魔王に言われ、カズマがひそかに作り出していたもの

 それが強化薬

 神々の力を使い、制限なく作り出した薬

 錬金、料理などのスキルを複合させ、神々の力を混ぜることで、短期間での大幅身体強化を可能にする夢の薬品だ

 当然ながらこの戦いが終わればカズマがこの薬品を作ることはなくなるが、この薬品によりこの世界の者は一段階進化する

「兵や騎士、冒険者に配ってください。世界中にいきわたるよう際限なく作り出していますので」

「作り出している? 現在もなのか?」

「ええ、自動量産体制は整いましたからね」

 カズマはこの時のために短期間で全ての段階を整えていた

「これがあれば、勝てるのか?」

「勝てる勝てないかではありません。勝つしか、生き残る道はないのです」

 カズマの言葉に王たちは口をつぐんで考え込む

「カズマ殿。我がシュエリア国はそなたを全面的に信頼しておる。その薬品、是非とも買い取らせていただきたい」

「いえ、これは私からの無償提供です。世界がこんな状況の今、お金に何の意味もない。世界は一つにならなければなりません。だからこそ、世界中にこの薬を、王様達の力で届けてほしいのです」

 シュエリア王の同意により、世界の王たちはカズマの薬品を受け入れた

「世界を守る」


「世界を壊す」

 セイヴは柔らかに笑った


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