これは一度だけ使えるサイラの秘術だ
二人のおかげで妹を弔うことが出来た
俺は、妹を、カガミを守れなかった上に、この二人に守られた
あれほど美しかった二人の姫の死体の前で俺は自分の無力感にさえなまれる
見る影もなく残忍な殺され方をした二姫
俺は全ての、魂をかけての力を使い、秘術を施した
これで俺は消えるが、二人にせめてもの恩返しだ
二人に力がいきわたり、魂の輪廻を始める
「すまない。俺は間違っていた。この里さえ守れればと・・・。だが今はもう、何も残っていない。二人に託す。どうか、生き延びてくれ」
ああ、魂が崩れる。だが、悔いはない
私はハッと目を覚ました
確かに顔を踏み砕かれた感触が頭をよぎる
「なんで、生きて」
すぐに横を見ると、姉様が無事な体で倒れていた
「姉様!」
姉様が起きあがる
「あ、あれ? 姉様、その姿」
「ハク、私達は」
姉様も不思議そうな顔で私を見た
「ハク、その角」
私達の角が、いえ、姿が変わってる?
「一体どうなってるの?」
そこで姉様がハッとした
「サイラの秘術。まさかミズキが!」
探知で周囲を探るけど、ミズキの気配はない
あれからそこまでたってないから、まだ近くにいるはずなのに
「サイラの秘術は、魂の輪廻・・・。自らの魂と引き換えに、死者の魂を輪廻させるという」
「彼の力量なら三人が限界。ということは」
周囲に気配はなかったはず
それじゃあカガミは
「ハク姫、クラ姫」
後ろで声がした
カガミ?らしき女性が立っている
カガミの角はなくなり、人間族になってる?
いいえこれは、角がないだけでサイラの系統で間違いない
「あ、兄様が・・・」
状況を理解し、ポロポロと涙を流し始めるカガミ
私も、姉様も、ミズキに感謝した
恐らく、輪廻を巡って私達は進化した
新しい力、そしてその力によって状況がよりよく理解できた
私と姉様は鬼人から童子へ
サイラだったカガミは憐業という種族へ至った
「今までとは明らかに違う強さ。ハク。私達はこの強さに見合った行いをしなければなりません」
本当なら今日はフェンリナイトへと発つ予定だった
恐らくあの得体のしれない者達のことについてかな
油断もしていなかったし相手の力量も見極めていた
あの少女は確実に格下だった
それにもかかわらず、突如として出て来たあの男
あの男が突然少女を復活させたかと思うと、私達よりも圧倒的な力を持って蘇っていた
恐らくあの男の力によるもの
この事を世界に報告しなければ
「姉様、カガミ、フェンリナイトへ行きましょう。きっとこの情報が、ミズキが私達を命がけで蘇らせてくれたおかげで得れた情報が、世界の役に立つはずです」
「ええ、行きましょう」
姉様と私の力を合わせて、フェンリナイトへの転移門を開く
すごい、今まで転移門を開くだけで体の力をほぼ持っていかれていたのに、全く疲れない
こうして、滅んだ国の姫三人は、王族の集まるフェンリナイトへと向かった
転移門をくぐると、すぐに兵たちがやってきて私達を案内してくれた
きっと探知系の魔法使いか何かが察知してくれたのだろう
さっそく会合の席に着くと、見慣れない者が数名紛れていた
あの気配は、魔の者の・・・
「よくぞ来てくれた、白宝珠殿、黒宝玉殿」
「その呼び方はやめてくださいフェンリナイト王」
そんなやり取りはともかく、私達は国で起きたことを全て話した
この会合はやはりその男に関することで、奴の名前はセイヴ
闇の勇者セイヴと言う者だった
奴が、私達の同胞を
「許せません。私達も戦いに出ます!」
「姫たちは確かに強い。ですが、かの魔王や勇者ランス、果ては神獣様までも敵わなかった相手。とてもヒト族が立ち向かえる相手では」
「いえ、私達はヒトの枠を超えました。今の私達は童子。初代鬼人国王のシュテンが成ったと言われる童子になれたのです」
「なんと!? かつての勇者の仲間であったあのシュテン様と同じ!?」
遥か遥か昔だけど、かつての魔王を倒した勇者の仲間、鬼童子シュテン
その強さは勇者以上だったと聞いている
私達の力なら、あの男にだって通じるはず
「いいえ、それでも無理でしょう」
「あなたは?」
「私は魔王オレガ」
「な!? 魔王!? 何故そんな者がここに!?」
「落ち着くのだクラ姫。彼女は味方じゃ」
「味方? 魔王が?」
「私達魔王や魔人は、勇者ランスの仇を討ちたい。彼は、恩人だから」
それから私達は魔王と勇者のいきさつを聞き、驚いた
それと
「そのカズマさん? でしたっけ? その方がこの戦いの鍵だと?」
「うむ。彼はセイヴに匹敵する力を、別世界の神々から授かっておる」
「別世界の!?」
そんな話聞いたことがない
それじゃあその人は別世界から来たってこと?
別世界の住人なんて、子供のころに聞かされた御伽噺の話だと思っていた
けれどもそれは現実だったってことか
「私もその方たちに力を貸したいのですが」
「彼なら上の階におるじゃろう。会ってみるといい。きっと良き友になれる」
私と姉様はうなづいて、会議室を出るとその男の元へ向かった