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第118話

 龍人は鬼人と並び肉体的に強い種族で、有名な冒険者も多い

 だが今目の前にいるこの男は、この世界でどれだけ強かろうとも、その枠組みすら越えなければ敵わらないだろう

「俺は破壊の北島廉太郎だ! セイヴに壊して言って言われたから、全部壊すんだ」

「破壊? 何故そんなことを! この世界に何の恨みがあるって言うんだ!」

「ねぇよ恨みなんか。俺はな、暴れてこわせりゃ何でもいいんだ。だからこの力、最高だぜ! 壊せる。街も、国も、人もな!」

 北島という男は恐らく同郷だろう

 あの平和な世界にいてなぜここまで歪んで・・・

 いや分かっている。いかに平和であろうとも、闇ってのはどこにでもあるんだからな

「じゃあ壊すぜ。ザ・デストロ!」

 手をこっちに向けると、何かの衝撃が俺たちを襲った

「な、なんだ、これ」

「あ、ぐ、イタイイタイイタイ! あああああ!!」

 ハク姫とクラ姫、そしてカガミの肉体が裂け、血が噴き出す

 俺以外にダメージはあったが、切り傷程度のようだ

「え? おいなんだよお前ら! なんでグチャグチャになんねぇんだよ!」

 恐らく俺は神々の加護、ファンファンはその加護を受けたであろう薬の力か?

 他三人は恐らく自身の肉体が強いからだろう

「三人ともこれを」

 俺は薬を取り出して三人に飲ませた

 国々に配るもの以外にも大量に作っておいたからな

 あの力を受けても無事だったこの三人、恐らくこれを飲めば劇的な変化があるはず

「薬ですか? ありがとうございます」

 三人は薬を飲み干す

「うっ」

「ハ、ハク!? どうしたの!?」

「おいしい~」

 よく見るやり取りをしてるあたり余裕はありそうだ

「これは、ハク、クラ、この薬、ものすごい効果です!」

 カガミの体が変化していく

 それにつられるように二姫も変化していった

「やっぱりだ。三人ともうまく力が強化されたみたいだな」

 傷はすっかり癒え、少女の容姿から大人の姿に変わる

 あれ? なぜかハク姫だけ縮んだ気がするけどまあいいか

「こ、これは! 進化、ですか?」

「力が溢れてきます」

「すごい、これがカズマ殿の力」

 恐らくイザナミ様の力だろうな

 俺は三人の状態をアマテラス様の力で確認してみた

 ハク姫とクラ姫は、童子という種族だったのが鬼神になり、カガミは憐業から憐獄に変わったようだ

「今ならあんな男、そしてあの少女ですら倒せます! ただ、なんで私だけもっと小っちゃくなってるんですか!? 姉様なんてこんなにばいーんっておっきくなってるのに!」

 地団太を踏む姿が子供そのものだ

「おいお前ら! どうなってんだよそれ! まさかお前も、セイヴと同じような力が使えるってことなのか?」

「セイヴと? 奴も俺みたいな力を使うのか?」

「私達が話した通り、少女を甦らせ、更なる力を与えていました」

「ああそう言えばそんなこと言ってたな」

「ちっ、まあいい、俺より強くはねぇだろ。ぶっ壊してやるよ! デストロ・ヴェンデッタ」

 なんだ? 雰囲気が変わった

 体に黒いものを纏い、目から憎しみが伝わってくる

「まずい! ファンファン避けろ!」

「うおっ」

 ミサイルのようにまっすぐ飛んできた北島を大剣で防ぐが、そのまま弾かれ腹部に拳を受け、吐しゃ物を吐き出すファンファン

「ぐ、ゲホゲホ」

「ファンファン! この、ミカズチ!!」

 俺は神の力を発動させる

「ガァアアラァアア!!」

 北島はその力に反応したのか、こっちに狙いを定める

「旦那様!」

 まずい、ファンファンはこっちに間に合わない

 いや大丈夫だ。俺には神様から借りた力が

 そんなことを考えているうちに距離は一気に詰められ拳が迫った

「あなた戦闘素人ですか!?」

 クラ姫が刀で難なく北島の拳を受け止めていた

「カズマ殿は後ろへ。私達が戦います」

「すまない」

 情けないな。自分で戦うと決めたのにこの体たらく

 力はあっても使いこなせないんじゃ意味がないじゃないか

「鬼剣術、白縫い!」

「鬼剣術、黒あげは!」

 二人が剣術で俺を守ってくれる

 俺は立ち上がると、もう一度力を発動した

 そうだ

 俺は冒険者の才能がなかったが、努力はしてきた

 基礎的なことは体が覚えているし、戦えるはずだ

 俺は収納から包丁を一振り取り出した

 戦いのために作り上げた最高傑作の一つ

 剣や刀ではだめだ。俺の、俺だけの、手に馴染んだもの

「神宿り」

 包丁の名は神宿り

 空間すら捌く俺専用の武器だ

「刀、いえ、柳葉包丁のようですが、幾重にも包丁が重なっているようです」

 俺の任意で姿を変える神宿り

 今は柳葉のようだが

「戦闘形態」

 その包丁は姿を変え、刀となった

「料理術、三枚おろし」

「ぐ、が」

 言葉すら失った哀れな同郷の男

 その姿はまるで獣のようになり果てていた

「その罪も、俺が裁いてやるよ」

 その技名通り、北島は三枚におろされ、どさりと倒れた

 北島を覆っていた黒いものがぐずりと崩れ落ち、その姿が元の人間の姿に戻る

「な、嘘だろ? 何でおれがやられてんだよ。おかしいだろ! 力があったのにおかしいだろ! 俺はただ、間違った世界を壊したかっただけなのに」

「ただすのはこの世界か? お前が憎むのはこの世界か? その憎しみは分かってはやれないが、理解はしてやる。お前に何があったのかは分からん。辛かったんだろう? だったらお前を辛い目に合わせたような奴らのようにはなるな。お前がそいつらに思い知らせることは復讐のための怨嗟でも力でもない。理不尽を跳ね飛ばし笑ってやれる強さだ」

「・・・。んだよ面白くねぇ、面白くねぇよお前。くそが! くそが! お前らがいなきゃ壊せてたんだ! 全部全部全部!」

 北島は倒れたまま悪態をつく

「でもよ、なんかスカッとはした」

「そうか」

「おう」

「お前のしたことは許されない。償うつもりはあるか?」

「負けは負けだ。好きにしろよ」

 こうして北島は大人しく囚われた

 まあ力は俺が裁いてもう使えないだろう

 もう北島からあの嫌な気配がないからな

 取りあえず一人

 まだ一人、か


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