目を使い、セイヴとその部下を探していると部屋の扉が叩かれ、レナ、ミリア、フィルの三人が入って来た
「カズマさん! 私達にも戦わせてください!」
開口一番レナはそう言い放った
「わたくしも強くなりましたのよ? 今は亡き師匠のおかげです」
ミリアの師匠は・・・、アルクで、ルカだったな
ルカの意志は確実にミリアとアネモネに受け継がれている
「ところで敵の居場所を掴む力を手に入れたとか? 相手は今どこにいるのです?」
「ああ今丁度探しているところだよフィル」
俺が探す間大人しく待つ三人
しばらくするとナンドゥーラという砂漠国家に得体のしれない魔力を感じた
傭兵都市国家ナンドゥーラ
蛇人族や蜥蜴人族といった種族が多く住む国で、目だった産業や特産品はないものの、蛇人族と蜥蜴人族には強靭な肉体があり、傭兵として各地で戦って生計を立てているらしい
国家間での戦争がない今は魔物退治が主だ
文字通り肉体を売りにしているというわけだな
そのナンドゥーラを詳しく見ていると、街に向かって巨大なトカゲが走ってきているのが見えた
「まずいな、このままだと都市毎壊滅するぞ!」
すぐに俺は準備を始めた
「私達も一緒に行きます!」
トカゲは多くのトカゲ魔物を従えているようだ
だとすれば三人にもついてきてもらうのがいいだろう
「頼む」
転移の力により、俺たちはナンドゥーラの街前まで飛んだ
ちなみに今回ファンファン、アネモネ、二姫たちはフェンリナイトの守りについてもらった
もちろんレンタロウの護衛も兼ねてある
彼女たちなら問題ないだろう
「うわぁすごい砂漠。あっつい」
確かにかなり気温が高そうだ
50度は超えてるんじゃなかろうか?
そんな街にはすでに魔物が侵攻している通達が入っているのか、傭兵たちが大門の前に集結していた
「あの」
その中に腕章をつけ指示を飛ばしていた蛇人の男性がいたので話しかける
かなり筋肉が発達していて、俺の倍はありそうな大きさだ
「む、観光客か? すまないが今それどころではなくてな」
「分かっています。巨大なトカゲ魔物が向かってきているんですよね」
彼は驚いた顔をし、俺をじっと見る
「冒険者か? それにしては、あまりにも・・・。後ろの三人は強そうだが」
まあそうだよな。俺はいつでも弱そうに見えるよな
だが今はそんなことを気にしている余裕はない
「俺たちで食い止めます。あなた達は念のため街の人の避難を」
「なぜ街の外から来た者にそのような危険なことをやらせられると思う? 俺たちは強い! それは誇りだ」
彼はムキッと筋肉を盛り上がらせ、すでに迫って来ていたトカゲ魔物の内の一体に手斧を投げた
その斧は正確にトカゲ魔物の頭を捉えて真っ二つにする
「す、すっご」
レナが驚いているが、次から次へと弓矢が放たれ、手斧が投擲されてトカゲ魔物が討たれて行く
「なら手伝わせてください!」
「ああ、だが死ぬなよ。お前はなるべく後ろに下がっていろ。俺たちが守ってやる」
「いいや、俺にはこれがある」
俺は大き目のハンマーを背中から抜くと構え、神の力を借りた
「アメノマヒトツ」
鍛冶の神の力
これを攻撃に転じさせる
手に持つハンマーは特別性
これ一つで鍛冶の工程全てをこなせるようになっている
「ふん! どりゃあああ!!!」
巨大なハンマーに形を変え、それを地面に打ち付ける
一瞬砂ぼこりが巻き上がると、地面を衝撃波が走り、トカゲ魔物を大量に巻き込んでいった
そのトカゲたちの後ろからあの巨大トカゲが走ってきているのが見える
「行きます! 鵯(ひよどり)」
レナが俺の知らない剣術で巨大トカゲの前を走っていた大きなトカゲを斬り、さらに返す剣で、恐ろしいほどの速さで、大量のトカゲ魔物を斬っていった
「わたくしも! フレアドライブ、ブーストバーン!」
体が燃え上がるミリア
そして彼女の姿が変わる
「これは、強化魔法なのか?」
「ええ、わたくしオリジナル魔法ですわ。一定時間わたくしの力は竜すら凌ぎますのよ!」
ミリアは元々後方職のはず。それが今彼女は炎を纏った拳でトカゲ魔物を殴り飛ばしていた
「僕も負けていられないな。フェーンルーン」
今度はフィルが片手槍フェーンルーンを抜いた
以前俺が作って渡したものだ
「槍術秘技、トワイライトガル!」
赤く光る槍
そのままフィルは走って行き、なんとあの巨大なトカゲに突撃し、その足を一本吹き飛ばしてしまった
「そらそらそら! こっちもいただきますわ!」
その直後ミリアがもう一方の前足を殴って潰し
「とどめです! 海猫!」
レナは上に飛び上がると、水の中の獲物に向かって飛び込む鳥のように、優雅に巨大トカゲの頭を斬り落とした
「な、あ、なん・・・」
蛇人の男はあっけにとられ、目を見開いて驚いている
「あんたら強かったんだな! ありがとう! おかげで一人も犠牲者が出なかった」
ひとまずは片付いた。だけど、まだ終わってない
「カズマさん・・・」
「ああ、本命のお出ましだ」
巨大トカゲの背から白い少年がおりてきた
彼は常に笑顔を浮かべているような顔をしており、それがまた不気味だった
「崇高、至高。世界、次代、未来。これはそのための聖なる行いだ」
「何を言ってるんだ?」
少年はハァとため息をつく
「分からないからダメなんだ。分かろうとしないから、子供が涙を流すんだ」
「一体、君は」
「僕はセイヴ様のしもべ。白き世界のタスク」
「白き世界?」
「この世は黒い。真っ黒で真っ暗だ。救いのない希望もない深い深い絶望と闇。いつも泣きを見るのは子供達だ」
タスクは手をフィルに向ける
「フィル! 危ない!」
俺は風を起こしてフィルを数メートルほど横に吹っ飛ばした
そこに見えない力が走り、地面がえぐれる
「あ、ありがとうございますカズマさん」
少し遅れていたらフィルはこの世にいなかっただろう
なんだこの力。まるで、あの時、暗殺者のアジトで会ったあの男のようじゃないか
「だめだよ、世界を救うにはまず何もかも真っ白にしなくちゃ駄目なんだ」
タスクはその貼り付けたような笑顔をさらに醜く歪ませて笑い、俺たちにゆっくり迫る
その時頭で声が響く
「そいつはヤバいです! 私が出ます!」
どの神様かは分からないが、女性の声から女神様なのは分かる
彼女に体を預けると、俺の体に変化が起きた
「な、え!?」
声が高い
胸が張ってきてあるべきものがなくなる
「ちょ、これなに!? これなんなの!?」
「カズマさん女性になってますよ!」
レナの剣に写る俺の顔は、レナと同い年くらいの少女になっていた
「さてと、いきますよーーー!」
俺の口から俺のものじゃない声が出る
「私は月の女神ツクヨミ。正直戦闘は苦手だけど、お姉様やスサは手が離せないみたいだからね」
ツクヨミ様は俺の体でグーンと伸びをしてタスクを見る
「なんだ、それ、セイヴ様の力に似た、その力の形・・・。そうか、お前がセイヴ様の警戒している」
「それ!」
ツクヨミ様は瞬間移動のようにタスクの前に来ると、拳でいきなりタスクの顔面を殴った
「何処が戦闘は苦手ですか!」
「苦手とは言ったけど、出来ないとは言ってないもーん」
ごろごろと転がってタスクは口から血を垂らしながら立ち上がる
「なんで、なんでお前みたいなのがいるんだ! 僕は、僕は世界を救わなきゃダメなのに!」
タスクは苦し紛れなのか力を使い、周囲を爆散させた
だがツクヨミ様はすぐに結界を張ってそれを防ぎ、その場にいた全員を守った
「無駄だよ。こう見えて私も主神の一人だからね。強いよそれなりに」
「く、くそぉおおおおお!!」
タスクは地面に手を付けると、そこから蛇魔物が現れ、彼はそれに乗り脱兎のごとく逃げて行った
「ふぅ、お仕事完了、いつでも呼んでね!」
ツクヨミ様はそう言うと俺の中から消えた
途端に体が元に戻る
「あ、嵐のような神様でしたね」
「あ、ああ」
突如女体化したことに気持ちの整理がつかないまま、俺たちは倒した魔物の処理を手伝うため、蛇人たちの指示を仰いだ