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第121話

 綺麗な景色だ

 こんな光景はあの時以来だな


 僕はかつて勇者だった

 それは間違いない

でも、世界を守ろうなんて気はなかった

 ただ楽しく旅ができて、仲間たちと適度に冒険できればそれでよかったんだ

 でも、それは叶わない夢だった

 僕は勇者だったから

 世界を守るためには仲間を、自分を、常に犠牲にするしかなかった

 犠牲、犠牲、犠牲

 そうしていくうちに、僕は何も感じなくなった

 あの頃の魔人や魔王との戦闘、ヒト族同士の戦争は苛烈を極め、親しくなったもの、家族は死に絶えていた

 僕はただそこに一人、圧倒的な力を持つために、ただ一人、生き残り続けた

 もうどうでもよくなった

 みんなが僕達の犠牲の元幸せになるのなら、僕にだってその権利はある

 ああそうだ、まずはリセットしよう

 世界は一度終わりを迎えて、新しい世界へ、ここに僕のニューワールドオーダーを・・・


 過去を思い出しつつ僕はただいまはこの景色を目に焼き付けた

 それは悔恨だったのかもしれない

 けれどもう迷わないさ。迷いはとっくに捨てたから

「みんなのおかげで進んでいるよ。計画は。そろそろ次の段階へと移行してもいいかもしれない」

「しかし主要都市はまだ残っておりますが?」

「いいさ、どうせ全部終わらせるんだから、それが遅いか早いかの違いでしかないよ」

 メシアはそのまま下がる

 そこにタスクが戻って来た

「申し訳ありませんセイヴ様。あの男の邪魔が入り、ナンドゥーラの壊滅に失敗してしまいました」

「そうか・・・。タスクが無事ならいいんだ」

 そう、彼らは僕と同じ志を持った仲間だ

 今度は失わない

 ・・・なぜ?

 僕にはもうそう言った感情はなくなったはずだった

 彼らだって目的のために拾って来た道具でしかない

 それなのにあの時のような感情が僕の中に芽生えている

 世界を壊し、再臨させるためにこんな感情があっては邪魔になる

「はぁ、はぁ」

 呼吸が苦しくなる

「セイヴ様?」

「大丈夫。ここの所寝ていなかったからね。少し休むよ」

「はい」

 立ち上がるとベッドへと向かう

 計画第二段階

 世界の首脳が集まるフェンリナイトにて首脳たちを全員無き者にする

 そうすることでリーダーを失った国々は混乱し、統率が取れずにより簡単に崩壊するだろう

 そこに僕達が新たな統率者として君臨し、世界を一つにする

 僕達に恐怖してくれればなおいい

 その方がまとまるからね

 ゆっくりと、僕は眠りに落ちた


 それからしばらくし、僕は目を覚ました

 ああ今日もまた変わらず朝日は昇る

 何の代わりもなく、ただたんたんと

 不変なんてないけれど、僕の中でただ一つ変わらないものがあるとしたならば

 それは、世界への怨念、怨嗟、そして恐慌

 ああそうだ、僕は怖いんだ

 いずれまた世界は僕へと牙を向くだろうから

 僕はベッドから立ち上がると、世界に亀裂を入れてあの世界へと戻った

 そしてフェンリナイトへと立つ


「え?」

 リーダーたちのとぼけた表情にいら立ちを覚える

 この期に及んで彼らはまだ、自分たちは大丈夫、きっと誰かが助けてくれる

 そう考えていたんだろう

 自分達だけ安全な場所でのうのうと生きながらえ、結局は何もしない愚鈍無能

「誰からかな?」

 そう問うた

 それで理解できただろう。嫌でもね

 だからこそ、僕は直後に驚きを隠しきれなかった

 一人のまだ幼さの残るような兎獣人の少女

 確かビスティアの女王だったか?

 彼女が剣を抜き、僕に斬りかかって来た

 当然そんなもので僕を傷つけることなんてできないけれど

 そうか、この子にとって僕は、兄の仇でもあるからな

 でもそれは彼女は知らないはずだ

 ということはつまり、彼女はこの場の首脳たちを助けるため、自らの危険も顧みず動いた勇ある者と言うことになる

「気に入った」

 僕は彼女に囁くと、彼女以外を消した

 簡単なこと

 ヒトという枠組みにとらわれているただのヒト風情は、僕が力を振るう必要もないくらいに脆弱だ

 そして彼らが消えたのを目の当たりにしても折れない強い目をしている少女

「君は次の世界にふさわしい。導くんだ君が。次を」

 そして僕は彼女の頭をそっと撫で、その場から去った

 少女は震えていた

 怖かっただろう。得体のしれない圧倒的な強者を前にしたんだから

 それでも、あの心の強さがあれば、きっと改変された世界でもやって行けるはずだ

「さて、次は」

 第二段階をさらに進めよう

 彼女のように勇と才のある者を選別しなくちゃ

 あの男はきっとランスと同じく、僕の目的を理解してはくれないだろうな

 彼はランスと似ているから

 でも理解してほしいなんて思わない

 だから障害となるであろう彼は、カズマという男だけは、僕がこの手で葬らなきゃならない

 でもまだ駄目だ

 彼の力に対抗するにはまだ僕の力では足りない

 彼が彼の世界の神々の祝福を授かっているというならば

 僕は僕以外の世界の神々の呪いを受けよう

 たとえこの身が壊れて砕かれて消えて行こうとも

 僕は世界のためのニューワールドオーダーを実行するまで

 フェンリナイト上空から彼がいるであろう部屋を見つめる

「次に会う時が決着の時だ」


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