どれくらい時間が経っただろうか。
触れた唇がペロリ、と舐められた気がしたとき、すっと、アルフォンソさんが離れていくのに気が付く。
ゆっくりと目を開けてアルフォンソさんを見ると、彼は切なげに目を細めて言った。
「このまま貴方を閉じ込まれらたらどれだけ幸せでしょうか」
「アル……」
なんだかとんでもないことを言われているような気がするけれど、私の頭は今、それについて考える余裕、全然なかった。
アルフォンソさんとまた、キスをしてしまった。
でも今回は恥ずかしいよりも嬉しい気持ちの方が強かった。なんでだろう、最初の口づけから少ししか時間、経っていないのに。
もっと私、ここにいたい。彼のそばにいるにはどうしたらいいんだろう?
これが恋なのかな。
私は彼の背中に回した手に力を込めて顔を見つめ、言った。
「私が黙って閉じ込められるわけないじゃないですか。むしろ私が貴方を捕まえて閉じ込めるかもしれないですよ?」
言ったあと、私、何を言っているんだろうって思う。けれど出た言葉は取り消せない。
けっこうとんでもない事を言ったと思うんだけど、アルフォンソさんは嬉しそうだ。
「あぁ、それもいいですね。貴方と共にいられるなら俺は喜んで閉じ込められますよ」
けっこう物騒なことを嬉しそうな顔して言うのね。
普段ならたぶん私、ひいていたと思う。だけど怪我をして、死んだかもしれない、という事を知った後ではそこまでの事、考えなかった。
あぁ、すっかり私、彼の色に染められてしまったのかも。
今の私はアルフォンソさんを離したくないって強く思う。
あの、ルミルアで見た呪いの遺物たち。司祭様は人の想いが呪いになるって言っていたけれど、じゃあ、私やアルフォンソさんの想いも呪いになりえるのかな。
想いの力が強ければアルフォンソさんを縛る呪いになって、いつでも私の所に帰って来てくれたらな……
何考えてるんだろう。私。けっこうすごい発言しているような気がするんだけど、アルフォンソさんは始終嬉しそうな顔をして私を見つめていた。
「貴方と四六時中一緒にいられたら何をしましょうか。ふたりでゲームをしたり、散歩したり。想像するだけで楽しそうですね」
言いながら彼は本当に、幸せそうに笑う。なんでそんな風に笑えるんですかね。本当にアルフォンソさんの考えることはよくわらかない。
やっぱりこの人、つかみどころがない。そんな人に私、振り回されて沼に落とされた。
「一緒にいたいのはやまやまですけど、ずっと一緒にいても困ってしまいますね、きっと。離れている時間があるから互いの事を考えて想いが募るんだと思うんです」
「それはわかります。会えない時間があるから、共にいる時間は大事ですし特別なのだと思います。それはあちらに旅立っている間に痛く感じました。毎日貴方に会いたくてしかたなかったから」
う……そんなこと、面と向かって言われたら恥ずかしいんだけど?
私はどうしたらいいかわからず、視線がきょろきょろと動いてしまう。だけど視界からアルフォンソさんが消えることはない。当たり前よね。だって目の前に顔があるんだから。
彼は続けて言った。
「だからパトリシア、今日は夕方まで一緒にいられますか? 必要であればご自宅まで伝言を届けますが」
その言葉を聞いて、私の心にじわっと悦びがひろがっていく。だって私も、もっと一緒にいたいんだもの。アルフォンソさんと一緒の時間を過ごしたいって強く思っていた。
考えてみたら、帰りの時間なんて決めていなかったですね
私も午前で帰ろう、とは思っていなかったので家には遅くなる、とは伝えてある。だってできるだけ一緒に痛いと思ったから。
だからまだここにいるのは可能だ。
そして私は彼に抱き着いたままにこっと笑って言った。
「大丈夫ですよ。家の者には夕方前に帰ると伝えていますので」
微笑み言うと、アルフォンソさんはほっとしたような顔になる。
あぁ私、この顔も好きだ。
目を怪我していて痛々しいけれど、それでも彼の魅力は変わらない。
「ならばよかったです。そうですね、お昼は外に参りましょうか。それにどこかでかけましょうか」
「寒いですし、室内がいいですね」
「ではお昼をとりながら考えましょうか」
その提案に私は頷き、アルフォンソさんの顔を見つめた。
視線が絡まりそして、今度はどちらからともなく顔を近づけそして、唇を重ねた。
触れるだけのキスをして、離れてまた、口づける。
もっと欲しいな……アルのこと、もっと感じたいのに……距離は近くてでもどこか遠くに感じてしまう。
あぁ、神様。ふたりの時間が、幸せな時間が長く続きますように。