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第62話 会議のあと

 その日の会議は、イベントで何をするかについての具体的な詰めと、担当決めだそうだ。

 事前に各参加者から意見を募り、企画書を作成しているという。

 イベントの名前は「本と魔法の不思議な冒険 〜五つの謎と囚われの姫〜」で、国会図書館を巡り五つの謎を解いて、魔法のアイテムと姫の居場所を捜す、というものになった。

 魔法のアイテムで姫の居場所を見つけることができ、そのアイテムが鍵になる、という。


「魔法のアイテムですが、ある特定のキーワードでかけられた鍵を開ける為の、『鍵開け』の魔法を使えるようにします。そのアイテムの形状ですけれど、どんなものが子供の心を掴むのか」


 そう言って首を傾げたのは、宮廷魔術師補佐のアベル=バーランドさんだった。

 彼はアイテムに魔法を付与することができるらしい。


「ネックレスや指輪はお決まりよねぇ。でもインパクトにかけるというか」


 そう言ったのは、短く切りそろえた金色の髪に、晴れた青空のような瞳をした女性、ステファニア姫だった。

 鎧の一部と思われる青色の金属でできた胸当てをしているし、足にも金属のすね当てをしていて、とても姫には見えない。

 服は普通の黒いシャツやズボンで背も高く、部屋に入ってきたとき一瞬男性かと思った。


「そうなのですよねぇ。もっと心ときめくアイテムが良いのですが」


 心ときめくアイテムって何だろう。

 呪いの宝石とか? 夜中に踊り出す人形とかかな。うーん、それは私が心躍るだけよね。

 子供たちには魔法使いや勇者に仮装してもらって謎解きをしてもらいらしい。

 といってもマントや杖、玩具の剣などを身に着けてもらう位だろうだけれど、それは王宮付きのデザイナーさんたちが張り切って用意すると言っていた。


「子供が喜ぶものといったら光るものや音が出るものでしょうか。男の子なら見た目がかっこいいもの、女の子なら身につけられる可愛いものとかかな。いつまでも持っていられるものがいいかなぁ。うちの子、大事なものは宝箱にしまっていて私にも見せてくれないの」


 王宮付きの衣装係の男性、エリックさんが言う。


「宝箱、私ももってます! 今でもタンスの中にしまってますよ」


 そういえば私も子供の頃宝箱つくっていたっけな。川で見つけたふしぎな石とか、押し花とか。大人からみたらガラクタにしか見えないものでも子供の頃ってきらきらと輝いて見えるのよね。

 あーだこうだと意見を出し合い、それぞれの役割が決まって会議が終わる。

 私は当日の受付係になった。

 ステファニア姫は自分が囚われの身になることを嫌がるかな、と思ったら意外とノリノリだった。


「ですので、ステファニア様、その日はドレスでお願いいたしますね」


 そうロラン様に言われた時、彼女は大きく目を見開いて驚いた顔をしたけれど、


「そうね、そうだよね。どうしたら姫として認識されるかなぁ。ねえ、エリック!」


 悩んだ後に衣装担当のエリックさんを呼び、何やら話しこんでいたっけ。

 外に出るとすっかり日が落ちていた。

 今日は遅くなるとアルフォンソさんに伝えてあって、迎えはいいと言ったのだけれどどうしても迎えに来ると言って聞かなかった。

 もしかしてお父様が言っていた娼婦連続殺人事件のことを気にしているのかな。

 でも私、娼婦じゃないし……

 殺人事件なんてどこか遠い世界の出来事で、そうそう身近で起きるわけがない。

 だから大丈夫だと思うんだけどなぁ。


「パトリシアさん」


 ロラン様に名を呼ばれ、私は振り返る。


「はい、何でしょうか」


「今日はお疲れ様でした。当日はよろしくお願いしますね」


 ニコニコとした顔でそう声をかけられて、私は軽く頭を下げつつ言った。


「こちらこそ、私の提案を企画に盛り込んでいただきありがとうございました」


 正直、姫が承諾するとは思っていたなかったのよね。だって、姫だし。

 ロラン様は、はは、と笑った後頷き、


「彼女なら『楽しそう』と言って、喜んで囚われてくれると思ったので。当人が当日退屈しないよう、参加者たちの動向を見守れるようにしようと思っていますけれど」


「そんなことできるんですか?」


 水晶玉でのぞくとか小説で見るけれど、あれって本当にできるのかな。


「えぇ、まあ、そういう鏡があるのですよ。あまり持ち出しはできないものだし、遠距離は見えませんが館内くらいなら見ることができるんです」


 そんな鏡あるんだ。なにそれ面白そう。

 ってことは、不倫現場とか見ることが出来たりして、その相手を特定することも可能だったりするって事? なにそれすごい。

 私の表情が明らかに変わったのだろう。

 ロラン様が楽しそうに笑って言った。


「貴方はとてもわかりやすいですね。ご興味があるとは思いますがあまり外に持ち出せるものではないんですよ。悪用もできますからね」


「悪用、ですか?」


「えぇ、例えば、警備の様子を見張って盗みに入ることができてしまったりします。基本は術士が行ったことのある場所しか映せませんけれど」


 あぁ、そうか。盗みとかって考えはなかったなぁ。憎い相手の動向を見張ってすきをうかがうとかそういうこと以外にもつかえてしまうのね。

 私はどうしても、推理小説でよくあるネタにばかり考えが及んでしまう。とりあえず死体がころがっているような状況が思い浮かんでしまうのよねぇ。

 でもそうじゃないのね。そうか、殺人は重罪だけれど窃盗ならそこまでの罪にはならないんだっけ?


「そうなんですか……でもそこまで考えてらっしゃるんですね」


「えぇ、まあ、やる側も楽しまないとですからね」


 確かにそうだな。

 次の会議は年が明けてからになる。その時には具体的経路やストーリーが決まっているだろう。

 楽しみだなぁ。


「今日も、アルフォンソが迎えに来るのですよね」


 そう声がかかり、私は頷き答える。


「はい。毎日迎えに来るとおっしゃって。今日は遅くなるからいいと言ったんですけどね」


「そうでしたか。よほど貴方との時間が楽しいんでしょうね」


 言いながら、ロサン様は口元に手を当てて笑い、私は恥ずかしくなり思わず俯いてしまった。

 そういう感情はきっとあるんだろうけれど、人に言われるとなんだかむず痒い。


「では早く図書館に戻りましょうか。もうだいぶ暗いですし」


「そうですね」


 王宮の外で馬車に乗り、私たちは国会図書館へと向かう。

 そこでアルフォンソさんが待っている。

 今日はなにを話そうかな。

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