「何でもいいですか?」
「私が買える範囲のものでしたら」
そう答えつつ私はお茶を飲む。
甘い香りの紅茶、美味しいなぁ。この匂い、バニラみたいだな。
カップをソーサーに置いて、クッキーをつまむ。
「貴方がいいですね」
「う、あ、う、え?」
かじりついたクッキーを落としかけて私は慌てて口元を手で抑えた。
いったい何を言いだすの本当に。
口を押えながら私は恨みを込めた目でアルフォンソさんを見ると、彼は愉快そうに笑っていた。
「冗談ですよ。言ってみたかっただけで」
なんて言って、まだ笑っている。
色々言いたいことはある。だけど私の口の中にはまだクッキーが入っているから何も言えない。
なんだか悔しい。
「十二月十八日が俺の誕生日です。なので一日開けておいてくださいね」
私は頷き、クッキーを飲み込んだ後、口元に手を当てたまま言った。
「それで欲しいものは何かないですか? 差し上げるならやはり、欲しいものを差し上げたいです」
「そうですねぇ」
私を見つめたまま、アルフォンソさんは顎に手を当てて考え始める。
無理難題を言われなければいいけど。
「貴方が、感じられるものがいいですね」
何その高度な要求は。
あまりにも予想外な言葉に、私は思わずきょとん、としてしまう。
感じられるってどういうこと? だめだ、頭の中が真っ白で何にも思いつかない。
しばらく考えた後、私は小さく首を傾げて尋ねた。
「それはどういう……?」
するとアルフォンソさんはにこっと笑い、同じように首を傾げて言った。
「言ってみただけで具体的には何も思いつかないですね」
「他の物にしてください。できれば具体的なものがいいです」
きっぱりと私が言うと、アルフォンソさんは笑いながら、
「そうですよね」
と言う。わかって言ってたの、ねえ。
「貴方が選ぶものでしたら何でも嬉しいですけれど。そうしたら一緒に買いに行きましょうか」
思わぬ提案に驚きつつも私は頷き、
「それでよいのなら」
と答えた。
一緒に買う、という発想は正直なかったな。
「では十二月十八日、朝の十時頃お迎えに行きますね。店には連絡しておきますから」
「は、はい。わかりました」
「そのあと一緒に行きたい所がありますので夜までお付き合いくださいますか?」
「夜……まあ、大丈夫です」
あの殺人事件の事もあって両親には心配されそうだけど、アルフォンソさんがいっしょなら大丈夫だろうな。
何をするのかな。アルフォンソさんの考えることは突拍子も無かったりするので全然予測ができないのよね。
誕生日かぁ。今年の誕生日はたしか、ダニエルにプレゼント貰ったのよね。
ネックレスを。突き返すわけにもいかずしまいこんでいる。あぁ……忘れたい過去だ。
「パトリシアの誕生日は四月ですよね」
「そう、ですけど……あれ、話したことありましたっけ?」
私の誕生日はアルフォンスさんの言う通り四月の三十日だ。言った記憶はないんだけどな……
首を傾げているとアルフォンソさんはにこっと笑い、ただ黙って私を見つめた。
……これはきっと私、言ってないんだろうな。そして、何かしらの手段で調べたんだろうな。
いい加減慣れたけど、その執着心がけっこう怖い。
「貴方の誕生日はふたりきりで静かに過ごしたいです」
「あ、それはありがたいですね。そうだ、春のお祭りがありますよね。ルミルアの」
冬は雪で閉ざされるから、春のお祭りは盛大だと聞いた。それに言ってみたいのよね。
「あぁ、そうですね。ちょうど貴方の誕生日の頃ですからそのように予定を立てましょうか」
「はい、よろしくお願いします」
楽しみだなぁ。
アルフォンソさんといるとたくさんの楽しみが増えていく。
彼の誕生日に新年のお祭り、それに図書館のイベントとルミルア地方の春祭り。
楽しみだなぁ。