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第82話 お休みを貰った

 十二月十二日金曜日。

 お休みを貰った。

 というか、来週いっぱいまで休むよう、ロラン様の遣いの方が手紙を持ってきた。


『いろいろと重なって疲れているでしょう。一週間お休みしてください。アルフォンソにもしばらく休むよう伝えていますので』


 と、手紙には書かれていた。

 そんな事言われて、アルが大人しくしているとは思えないんだけど。

 一緒に過ごしたい、と言われたけどあれ、本気だったんだろうか……いや、本気か。彼がそんな冗談を言うとは思えないもの。

 別の部屋、とは言っていたけど……大丈夫かな。

 頭の中に、半年も前の出来事がよみがえる。

 酔った勢いで、裸で一緒に寝ていたあの時。

 本当に忘れたい思い出だ。


「あら、お仕事お休みになったの。今日宝石商が来るから、年始用のネックレスやイヤリング、貴方も買ったら? 少しなら出すわよ」


 と、お母様に言われた。

 新年用のアクセサリーねぇ……

 そんなもの、今まで買ったことはない。でも厄払いに買おうかしら。そして全額は出してくれないのね、さすが商人の妻。


「そうねぇ……」


「せっかく彼がいるんでしょう? 新年に新しいアクセサリーを用意して自分を着飾りなさい」


「彼は自分でプレゼントしたものを身につけてほしい人だと思うのよね」


 そして自分の色に染めたい人だと思う。まあ、私の意思をある程度は尊重してくれるけど。

 いや、くれるってどういうことよ、私。私が身に着ける物なんだから私の意思が尊重されるのは当たり前じゃないの。


「あら、一緒にアクセサリーを選んでくれたりするの? いいわねぇ。あの人はそんなに亜くせさr-に興味なかったから一緒になんて選んでくれなかったわね。でも新しいアクセサリーには気が付くし、服も誰のデザインか当てるのよ」


 言いながらお母様は幸せそうに笑う。

 お父様らしい話だなぁ。お父様は服には深い興味をもっているけれど、アクセサリーはそこまで興味ないんだろうな。


「それじゃあイヤリングでも買おうかな」


「いいじゃないの。そうしなさい。宝石は御守りにもなるんだから」


 それは昨日痛感したし経験しましたよ。

 そう思いつつ私は、


「そうね」


 と、頷いた。




 その日の午前中、アルフォンソからの遣いが来て手紙を置いていった。

 どうやら明日からホテルを押さえたらしい。

 あれ、本気だったのね。日にちは今日からじゃなくって明日になったけど。

 場所は海沿いにある観光ホテルだそうだ。部屋は別々と書いてあって心底ほっとする。

 遣いの人に私は了承した旨を書いた手紙を託し、そして迎えたお昼過ぎ。

 応接室でお母様が呼んだ宝石商から私はイヤリングを見せてもらっていた。

 お母様の趣味だろう、ダイヤモンドばかりだ。

 ブルーにイエロー、ピンクダイヤもある。

 これ、いくらするんだろう……

 いくら半額、お母様が出してくれるとはいえ、これは値段が張りそうだ。

 宝石商の男性は、お母様にネックレスを見せている。


「あら、このピンクダイヤのネックレス、デザインが素敵ね」


「はい、こちらは最近売出し中のデザイナーであるフェリシアの作品になります。揃いのイヤリングもございますよ」


 そんなやりとりを横で見ながら、私は宝石商と一緒に来た若い女性からイヤリングを見せてもらっていた。

 どれがいいかなぁ。


「どれも綺麗で迷ってしまいますね」


「ありがとうございます。こちらのピンクダイヤのイヤリングはとても希少性が高く、ファンシービビッドピンクと呼ばれるダイヤを使用しております」


 初めて聞く言葉に、私の頭の中でハテナマークがたくさん浮かぶ。

 私、宝石に興味が余りないから、希少性とか詳しくないのよね……

 私がきょとん、としてしまったからか、女性は説明を続けた。


「ダイヤモンドの価値を決めるにはいくつかの要素があるのですが、その中で色の濃さ、透明度によってグレードが決まります。カラーグレードと呼ばれるのですが、何段階もありまして、その中で……」


 つまり、ファンシービビッドピンク、というのはとても希少で珍しい色、ということなのね。

 言われて私はそのピンクダイヤのイヤリングを見つめる。


「ピンクダイヤは産地が限られておりまして、一カラット以上のものが発見されることはまずありません。なので小粒ではありますが、大変珍しいのですよ」


 そんなものきっと高いでしょうし、私には買えないわよ。

 そう思いつつ、私は愛想笑いを浮かべ、別のイヤリングを見せてもらった。

 結局、私はイエローダイヤモンドのイヤリングを選んだ。

 小さなダイヤモンドが四つ連なった先に、大き目のイエローダイヤが揺れるイヤリング。

 ダイヤの周りが雪の結晶のような形をしていて可愛かったからそれを選んだ。


「いいの、イエローダイヤで。ピンクダイヤのそれ、可愛いじゃないの」


 なんてことをお母様に言われたけれど、とてもじゃないが私に買える金額じゃなかった。

 買ったとしても怖くて身につけられないわよ。

 パーティーに行く予定はしばらくないし、お出かけの時につけていけるくらいのお値段がいい。

 これ、いつしよう。

 大みそかに会う時にしていくのがいいかな。

 そうだ、その日に着ていく服も考えなくちゃ。今度買いに行こう。

 先の事を考えると自然と心が弾み、私は機嫌よく部屋に戻っていった。







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