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第111話 ラリーに会いに

 以前よりも三十分ほど時間をかけて教会に着く。

 今日は別に休みの日でもなんでもないはずだけれど、教会の周りにはたくさんの人が順番待ちをしていた。

 そんな観光客目当ての出店も出ていて、どこもにぎわいを見せている。

 いや、なにこれ。こんなに混んでいるとしり込みしてしまうんだけど。


「すごい人、ですねぇ」


 呟き私は思わずアルの腕を掴む。


「これは中に入るのは無理かもね。でもせっかく来たし、カフェには寄っていこうか」


「そう、ですね」


 私たちは建物をぐるっとまわり、博物館の出口の方へと向かう。すると、そこで聞き覚えのある声を聴いた。


「皆さん、ありがとうございました! またきてねー!」


「ラリー、ばいばい!」


 という、子供の声が続く。

 ラリーってあのラリーかな。

 そう思い視線を巡らせると、博物館の出口で手を振る熊のラリーの姿を見つけた。


「ラリー!」


 思わず声を上げて走り寄ると、ラリーはばっとこちらを向いてにこっと笑ったように見えた。


「あ! えーと、パトリシアさんとアルフォンソさん! その節はお世話になりました」


 と、深々と頭を下げる。

 ぬいぐるみにお礼を言われる日が来るなんて。

 そう思いつつ私も頭を下げ、


「いえいえこちらこそ。元気そうでよかった」


 と声をかけた。

 するとラリーははにかんだようだった。


「えぇ。おかげさまで毎日が充実しています! 色んな子供たちとお話しできるし、ほら、グッズもつくってもらったんです!」


 そう言って、ラリーは肩に下げたポシェットを見せてくれた。

 それはラリーの顔を模したものだった。

 かわいい。

 ラリーは土産物屋さんを手で示して、


「あちらで売ってますのでよろしければ!」


 と、教えてくれる。


「他にもキーホルダーとか作っていただけて、最近ファンレターなるものも貰いました!」


「すごい、人気者じゃないの」


 私が言うと、ラリーは目を輝かせて頷いた。


「うん! レイチェルもね、毎日じゃないけど遊びに来てくれるんだ! 僕、とっても幸せなんだー」


 そしてラリーは両手を頬にあてた。

 かわいい。


「ところでおふたりはなんでここに?」


 手をおろしたラリーは好奇心旺盛な目をこちらに向けてくる。


「中に入ろうと思ったんだけど混んでいたからカフェに寄ろうと思って」


 そう、アルが説明する。

 するとラリーは頷き言った。


「そうなんですね! 最近たくさんひとがきていて大忙しなんです」


 ラリーがそう言った時、出口からラリーを呼ぶ声がした。


「ラリー、お客様が待ってるよ!」


 博物館のスタッフさんが呼びに来たらしい。

 ラリーはそちらを振り返って頷くと、私たちの方を向いて頭を下げた。


「すみません、お仕事なんでいきますね! じゃあまた!」


 そしてラリーはとことこと走り出す。

 その背中を見送り、私は心底安心した。

 正直、動くぬいぐるみが受け入れられるのかって思っていたけど、案外大丈夫なのね。

 よかった、楽しそうで。

 幸せそうな姿を見ると、私も心が暖かくなってくる。

 ラリーを見送り、私たちはカフェの隣にある土産物屋さんへと向かった。

 以前より売り場面積が広くなっているような気がするけれど気のせいだろうか。

 ラリーが言う通り、熊グッズがたくさんあって、お客さんたちが次々と手に取っていく。


「ここの司祭様が考えてるんですかね、こういうのって」


 小さなラリーのぬいぐるみを手に取りそう私が言うと、アルは笑いながら言った。


「あはは、そうかもね。あの方なら商機を逃さないだろうから」


 そうなのね。前も思ったけど商魂たくましい司祭様だな。

 せっかくだから熊グッズをいくつか購入し、私たちは混雑するカフェに入っていった。

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