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第112話 春の祭り

 祭りの初日がやってきた。

 城の窓から町を見下ろすと、花の大きな塔が町の中心にそびえたっているのが見える。

 それに音楽が聞こえ、とても楽しそうだ。

 祭りの日、女性は皆華やかなドレスを着るらしい。

 私も例外ではなく、青いドレスを着ることになった。

 さすがにパニエで膨らませるようなドレスは動きにくいので、身体にフィットしたスレンダーなドレスだ。

 それに花飾りを頭やドレスにつけると、かなり派手になる。

 やりすぎじゃないかなって思うけれど、城内の女性たちも皆同じ感じで着飾っていたからこれが普通なのだろう。

 春の訪れを祝うお祭り。

 たくさんの山車がでて、あの復活の十字架の劇もあるらしい。

 雪の季節が長いから、春の訪れは派手になるとは聞いていたけれど人もこんなに着飾るものなのね。

 準備ができて廊下に出ると、アルフォンソとばったりと出会う。

 彼もまた、赤いタキシードに白いスラックスを穿いていてなんとも派手な色合いだ。

 でも赤って褐色の肌にとても似合っている。


「アルフォンソ」


「パトリシア、準備出来た?」


 その問いかけに私は頷く。


「えぇ。こんなに花を飾るのね」


 おかげで全身から花の匂いが漂っている気がする。


「祭りだからね。じゃあ町に行こうか。馬車は出せないから歩きになってしまうけれど」


 でしょうね。だって人が多くて危険よね。

 外に出ると、どこかでパーン、となにかが弾ける音が響いた。

 こんな明るい中で花火を上げることあるのね。

 空を見上げていると、アルが言った。


「あれは始まりの合図だよ」


「あ、そういう事なのね」


 あれだけ大きな音なら、どこにいても聞こえるからかな。

 町へと向かっていると、どんどん人が増えていて、通り山車が運行されていく。

 花で飾られた山車の上から、花で着飾った子供たちが周囲に花びらを散らしている。

 その光景はすごい、の一言だった。

 道は花で埋め尽くされて、人々が歌い、踊っている。

 それは前に見たお祭りと変わりはないけれど、華やかさが段違いだった。

 お酒も入っているのかな。顔を紅くした男性が楽しそうに声を上げて笑っている。


「パトリシア、祭りだから外で飲んでも大丈夫だよ」


 そうからかうような声音で言われ、私はぶんぶん、と首を横に振る。


「の、飲みませんから」


 外でなんて飲まない。いや、中でも飲まない。

 どうも私はある程度以上飲むと人に絡んでしまうらしい。

 だから私、外では飲まないと決めたんだ。

 私はアルの顔を見つめて、


「飲むならアルの前だけにするわ。だって、アルになら何しても大丈夫じゃないの」


 と答える。

 すると彼は頷き言った。


「そうだね。たとえ服を脱いでも俺相手なら問題ないからね」


 とさらっと言い、私はまた恥ずかしい想いをする羽目になった。

 うぅ、勝てない。

 私がアルに勝てる方法って何かあるのかな?

 うーん、ベッドで待ち伏せるとか?

 私らしくないことしたら絶対に驚くよね。

 そんな機会あるかなぁ。

 ひとり、アルフォンソを驚かせる計画を考えていると、目の前に山車が現れた。

 その山車は巨大なドラゴンがのっていて、そのドラゴンに立ち向かう騎士の姿の山車が続く。そして、白い羽の天使の山車が続き、それが復活の十字架の物語を表していることに気が付く。

 見ていると、ドラゴンが火を吐いた、ように見えた。

 その時人々の歓声が上がる。


「火、吐くんですかあれ?」


 驚きすぎて私は思わずアルにしがみ付く。

 大丈夫なのあれ。火事にならないのかな。


「あれは、灯りの魔法の応用だよ。だから大丈夫、燃えたりはしないから」


 そう言って、アルはしがみ付く私の肩に手を回した。


「そう、なんですね」 


 そんなことできるのね。

 ちょっとどころじゃない。驚いちゃった。

 しかもドラゴンの首とか騎士の腕とか動いてる。どういう仕掛けになってるんだろう。


「すごいですね、あれ、動いてる」


 指さして尋ねると、


「そうですね。歯車で動くようになっていると聞いているけれど、中の仕掛けについてはっきりとは」


 なるほど。手動なのか、ねじまきみたいなやつかはわからないけれど、中にはすごい仕掛けがありそうね。

 山車を見送り、私たちは町を歩く。

 大人たちは皆酔っているのだろうか。楽しそうに踊り、歌い、花を撒いている。

 綺麗だな。


「あら、アルフォンソ様」


「アルフォンソ様おめでとうございます!」


 歩いていたら、ご婦人やお年を召した男性などから呼び止められて、そう声をかけられた。

 その度にアルは礼を言い、杯を渡されてお酒をいただいていた。

 ……これは大丈夫、なのかな。


「すてきなお嬢様ですね、お綺麗ですよ」


 私もそう声をかけられたので、微笑んで礼を言う。


「ありがとうございます」


 私はお酒をすすめられなかったものの、アルの方はすごかった。

 量が少ないとはいえ、何杯飲んだんだろう。

 さすがに心配になって、私は彼に声をかける。


「大丈夫?」


 顔色からは全然分かんないのよね、酔っているのかどうなのか。

 彼は苦笑を浮かべて肩をすくめ、


「早めに帰ろうか」


 と言い、私の肩を抱いた。 



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