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第113話 祭りの後に

 歩けば歩くほどにお酒を飲まされていくアルフォンソ。

 さすがに危ないと思い、早々に私たちは城へと戻った。

 アルフォンソ、お祝いのお酒なんて断れるわけがないから、どんどんお酒を飲まされていた。

 城に戻るころにはだいぶ足取りが危なくなっていて、侍従や執事さんたちが彼を運んでくれた。


「あぁ、だいぶお酒を飲まれて。どうされたんですか?」


 執事さんの問に、私は答えた。


「それが、行く先々でいろんな方にお声をかけられて。お酒をふるまわれたんです」


 それですべてを察したらしい執事さんは、あぁ、と頷き言った。


「アルフォンソ様の御婚約が発表されたからですね。皆、喜んでいるのでしょう」


 そして苦笑を浮かべる。


「そうしたら、杯を断れませんね。お嬢様は大丈夫ですか?」


「はい、私のほうは大丈夫ですけど、その分、アルが」


「とりあえずお部屋でお休みください。お茶を用意させますので」


「ありがとうございます」


 アルは執事らの手で部屋に運ばれ、そのままソファーに座らされた。そして深く息をつく。

 執事たちが去り、私たちふたりだけになり、私は彼の隣に腰かけてその頭に触れた。


「大丈夫?」


 いったい何杯飲んだんだろう。

 十杯くらいまでは覚えているけどそのあとも飲んでいたはず。

 彼は額に手を当てて、頷きも首を振りもしない。


「大丈夫……なのかもよくわからないな」


 と、呟いた。

 そんなに酔ってるのかな?

 そこに、メイドがお茶を持って来てくれた。


「ありがとう」


「パトリシア様の分もこちらに置いてよろしいですか?」


「えぇ。大丈夫」


 メイドはお茶が入ったカップをテーブルに置いて、部屋を出ていく。

 すると室内に静けさが訪れる。

 でもどこか遠くから音楽が聞こえてくるから、けっこう外は賑やかなのだろうな。

 アルは私の方をじっと見たかと思うと、肩に手を回してきて身体を引き寄せた。


「あ……」


 こうして顔を近づけると、アルフォンソ、けっこう顔、紅くないだろうか?

 だいぶ酔ってる?


「パティ」


 名前を呼ばれたかと思うと、彼は私に顔を近づけてきてそして唇が触れた。

 すぐに顔が離れてそして、彼は私の背中に腕を回したままもたれかかってくる。


「ちょ……お、重いんだけど?」


 そう言っても彼は全く動かない。

 耳元で荒く息を繰り返しているのがわかる。

 大丈夫、ではないわね、これ。

 飲みすぎには気をつけようっていってもあれは無理だものねぇ。

 私は彼の背中に手を回し、


「寝ますか?」


 と、問いかける。


「いいえ、しばらくこのままでいたい」


 熱い吐息交じりの声で言われると、ちょっと変な気持ちになるんだけど?

 どうしよう、これ。

 そう思っていると、アルがうっとりとした声で言った。


「甘い」


 甘いってどういう意味?

 不思議に思っていると、彼は私の顔を見つめ、


「パトリシアから甘い匂いがする」


 と呟く。


「あぁ、花飾りがたくさんついているからよね」


 全身、花の匂いがするんじゃないかってくらい、花が飾られているんだもの。

 アルは目を細めて私を見つめ、


「食べてしまいたい」


 と、物騒なことを言い出す。


「大丈夫じゃないですね、本当に。ベッドで寝たほうがいいんじゃないの?」


 すると彼は首を横に振った。


「君と一緒にいられる時間を、そんな無駄にしたくない」


「なら私もここでいっしょに寝たらいいの?」


 そう尋ねると、彼はまた首を振り、


「いいや……しばらくこのままがいい」


 と、甘える声で言った。

 う……そんな声で言われると、私、ちょっと心が乱されてしまうんだけど。

 初めてこんな姿を見るからかな。私、ときめいてるかも。

 酔った姿見て、心が揺れ動くのもどうかと思うけれど。

 どうしようもなく、私の心は彼に囚われているのかも。

 私とアルは抱き合ったまま、ソファーでうたた寝をしてしまった。



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