歩けば歩くほどにお酒を飲まされていくアルフォンソ。
さすがに危ないと思い、早々に私たちは城へと戻った。
アルフォンソ、お祝いのお酒なんて断れるわけがないから、どんどんお酒を飲まされていた。
城に戻るころにはだいぶ足取りが危なくなっていて、侍従や執事さんたちが彼を運んでくれた。
「あぁ、だいぶお酒を飲まれて。どうされたんですか?」
執事さんの問に、私は答えた。
「それが、行く先々でいろんな方にお声をかけられて。お酒をふるまわれたんです」
それですべてを察したらしい執事さんは、あぁ、と頷き言った。
「アルフォンソ様の御婚約が発表されたからですね。皆、喜んでいるのでしょう」
そして苦笑を浮かべる。
「そうしたら、杯を断れませんね。お嬢様は大丈夫ですか?」
「はい、私のほうは大丈夫ですけど、その分、アルが」
「とりあえずお部屋でお休みください。お茶を用意させますので」
「ありがとうございます」
アルは執事らの手で部屋に運ばれ、そのままソファーに座らされた。そして深く息をつく。
執事たちが去り、私たちふたりだけになり、私は彼の隣に腰かけてその頭に触れた。
「大丈夫?」
いったい何杯飲んだんだろう。
十杯くらいまでは覚えているけどそのあとも飲んでいたはず。
彼は額に手を当てて、頷きも首を振りもしない。
「大丈夫……なのかもよくわからないな」
と、呟いた。
そんなに酔ってるのかな?
そこに、メイドがお茶を持って来てくれた。
「ありがとう」
「パトリシア様の分もこちらに置いてよろしいですか?」
「えぇ。大丈夫」
メイドはお茶が入ったカップをテーブルに置いて、部屋を出ていく。
すると室内に静けさが訪れる。
でもどこか遠くから音楽が聞こえてくるから、けっこう外は賑やかなのだろうな。
アルは私の方をじっと見たかと思うと、肩に手を回してきて身体を引き寄せた。
「あ……」
こうして顔を近づけると、アルフォンソ、けっこう顔、紅くないだろうか?
だいぶ酔ってる?
「パティ」
名前を呼ばれたかと思うと、彼は私に顔を近づけてきてそして唇が触れた。
すぐに顔が離れてそして、彼は私の背中に腕を回したままもたれかかってくる。
「ちょ……お、重いんだけど?」
そう言っても彼は全く動かない。
耳元で荒く息を繰り返しているのがわかる。
大丈夫、ではないわね、これ。
飲みすぎには気をつけようっていってもあれは無理だものねぇ。
私は彼の背中に手を回し、
「寝ますか?」
と、問いかける。
「いいえ、しばらくこのままでいたい」
熱い吐息交じりの声で言われると、ちょっと変な気持ちになるんだけど?
どうしよう、これ。
そう思っていると、アルがうっとりとした声で言った。
「甘い」
甘いってどういう意味?
不思議に思っていると、彼は私の顔を見つめ、
「パトリシアから甘い匂いがする」
と呟く。
「あぁ、花飾りがたくさんついているからよね」
全身、花の匂いがするんじゃないかってくらい、花が飾られているんだもの。
アルは目を細めて私を見つめ、
「食べてしまいたい」
と、物騒なことを言い出す。
「大丈夫じゃないですね、本当に。ベッドで寝たほうがいいんじゃないの?」
すると彼は首を横に振った。
「君と一緒にいられる時間を、そんな無駄にしたくない」
「なら私もここでいっしょに寝たらいいの?」
そう尋ねると、彼はまた首を振り、
「いいや……しばらくこのままがいい」
と、甘える声で言った。
う……そんな声で言われると、私、ちょっと心が乱されてしまうんだけど。
初めてこんな姿を見るからかな。私、ときめいてるかも。
酔った姿見て、心が揺れ動くのもどうかと思うけれど。
どうしようもなく、私の心は彼に囚われているのかも。
私とアルは抱き合ったまま、ソファーでうたた寝をしてしまった。