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第73話

「でねぇ。なんか最近苛々したら、すぐに爆散させて殺しちゃうのよ。私にも更年期ってやつがあるなんて思わなかったわ」

「はぁ」


優雅なお見合い。それは、相手方の母親の愚痴を聞くこと……らしい。

本来なら「息子と王女の相性を確かめる神聖な儀式」のはずが、どこからどう見ても「疲れた女性の愚痴相談会」になっている。そして私はカウンセラー。


「貴女はまだ若いからわかんないでしょうけど、年齢を重ねて、『渋み』ってやつが出てきたらきっと分かるわよ。この……なんていうか、倦怠感っていうか?生きる意味を見失うような、でも死にたいほどではない、微妙~~な感じ。何千年も生きると、もう何をしても『あぁ、これ前にもやったな』って気分になるのよ」

「そうですか」


もはや私は相槌を打つマシーンと化していた。

「はぁ」「そうですか」「なるほど」の三種類の返事を順番に繰り出す、エルフ型オウム返し装置だ。


「あ、でも勘違いしないでね?ボケてるわけじゃないの。私だって、昔は殺し殺されて、何度も脳味噌を再生したわ。その度に、新品の脳味噌に構築されるから、たまには自分も死ぬことが大事っていうか。ヘアスタイルを変えるみたいに、たま~に脳を更新するのよ。最近はもう300年くらい再生してないから、そろそろきてるわね」

「なるほど」


普通ならば、肩の力を抜いて聞けるようなしょうもない話なのだが、私の緊張を解いてくれないのは、ひとえにこのカルネヴァーレ女史の言葉の節々に実に物騒な単語がちりばめられているからである。

日焼けした、髪を切った、ネイルを変えた、といった普通の女性の会話に相当する部分が、彼女の場合、人を殺した、死んだ。脳を再生した。に置き換わっている。


「母上、エルミア姫が困っていますよ。少し、エルフの方々に配慮してみては?彼らは我々とは違い、毎日のように死んだり生き返ったりしないのですよ。特に脳味噌の再生という話題は、このような会には避けるべきかと」


私が辟易していることが分かったのだろう、スピラーレ王子(いつの間にか肉塊から戻っていた……がそう助け船を出してくれた。

しかし、その瞬間カルネヴァーレ氏が王子をギロリと睨みつける。口答えした子犬を見るような冷たい視線だ。

王子はビクリと身体を震わせるが、目を逸らす。まるで「雷に打たれたチワワ」……いや、この世界にチワワは存在しないんだった。「雷に打たれた目がでかい小型犬」とでも言うべき反応だ。

だが、私と目が合った瞬間に、何かを逡巡するような表情を浮かべ……そして、カルネヴァーレ氏に向かってキッと表情を直し、言い返す。


「ぼ、僕は……間違ったことを言ったつもりはありません。お気に召さなければ、お好きにおやりください」


スピラーレ王子の声は震えていた。そして、身体も。

一瞬、周囲が静寂に満ちる。ヴァンパイアの従者たちも笑顔のまま固まり、固唾をのんでいる。「また肉塊化の儀式が始まるのか」と恐れているのが手に取るように分かる。


だけど……。


「……」


あの魔王のような……いや、カフォンくんよりは幾分かマシだが、邪悪な魔法使いである彼女に、目を逸らさずにそう言うスピラーレ王子の姿。

震えながらも、自分の言葉を引っ込めない勇気が、この血なまぐさい空間で、なぜか輝いて見える。

震えていても、怯えていても、それでも正しいことを言葉にする——それはとても尊いことなのかもしれない。

そう思った瞬間、私の心のどこかで何かが「カチッ」と音を立てた気がした。


「──ふぅん」


カルネヴァーレ氏の目が細められた。

彼女の左手の爪が、わずかに伸び始める。テーブルクロスに触れた爪先から、布地が溶け始め、灰色の煙が立ち上る。


「……ひっ」


それを見た王子の首筋から冷や汗が流れ落ちた。喉仏が上下に動き、何か言いたげな表情だ。


「あ、いや、今のはですね!何というか、僕の口の再生が上手くいかなかったといいましょうか!つまり僕ではなく……僕の口が悪いといいますか?」


誰かの操り人形のように、ぎこちなく前言を翻そうとする王子。それは母親に叱られた子供が言い訳をするような、みじめったらしい姿だった。

そして、王子が自分自身を否定しようとした、その瞬間。


「!?」


私は、考える間もなく、王子の手を握っていた。

この手は、つい先ほどまで肉塊だった手だ。生温かくて、少し湿っぽい。でも、私はその手を強く握りしめていた。


「……」


カルネヴァーレ氏の顔から、先ほどまでの余裕が消え失せ、驚愕の形相で私を見つめている。

スピラーレ王子もまた、私の手を見つめ、狼狽えていた。


「いいえ」


その一言は、この密やかな空間に、小さな石を投げ入れたような波紋を広げた。

そして、私はさらに両手で王子の手を包み込む。彼の手は思ったより暖かく、先ほどまでの震えがまだ収まっていないのが伝わってくる。

──でも、これは生きている証だ。単なる肉塊の手ではない。


「今のは、紛れもなくスピラーレ王子の言葉。ね、そうでしょう?」


そうだ。今のは、王子の言葉だ。

弱いけれど、弱く在り続けたまま、正しいことを言う。それこそが、王子の言葉。

私の、その言葉に込められた意味を、彼は分かってくれたのだろう、彼は驚愕に染まる表情を、次の瞬間には微笑みに変えていた。

そして、その微笑みを自らの母親──カルネヴァーレに向ける。


「はい。今の言葉は、我が母に向けた敬意と抗議の言葉。エルフの方々の文化を尊重するよう伝えたかっただけなのです」


彼の声には、まだかすかな震えが残っていたが、それでも以前より強い響きを持っていた。

私は、彼と並び立ち、カルネヴァーレ氏に相対する。彼女は、唖然とした表情で私と王子を見ていた。

その口は少し開かれ、赤い瞳は丸く見開かれている。


「あぁ」


彼女がようやく口を開いた。しかし、それ以上の言葉は続かなかった。

ヴァンパイアの女王の雄弁が、ついに途切れる瞬間を目撃したのだろうか。


「あぁ、そうか。お前は、もうそんな歳か」


カルネヴァーレ氏は唖然とした表情を崩し、呟くように言った。

その様子は、悠然としたヴァンパイアの女王、というよりも、疲れ切った「母」を思わせる。


「私も……歳を取るわけだ」


そして、彼女はスラリとした指を王子に向けた。

ゆっくりと指が王子へと向かうが、王子は彼女から目を一瞬たりとも逸らさない。細くて長い指には、宝石のような真紅の爪が輝いている。


「これが『反抗期』というやつかしら?それとも、あれかしら。『恋』?まさか、エルフの小娘一人に気を取られて、実の母親に牙を向ける愚かな子に成り下がるとは。ロマンス小説の安っぽい展開ね」


カルネヴァーレの指が、スピラーレ王子の顎に触れる。まるで愛玩動物を撫でるような仕草だが、その指先からは殺意が匂う。私は思わず息を呑んだ。

その時、横から声が響く。


「恋──なんて言うか、そんな安っぽいパスタみたいな言葉で片付けられるものじゃないと思うよ」


声のした方に首を向けると、そこには父セーロスが立っていた。彼はゆっくりと歩み寄り、私とスピラーレ王子の肩に手を置いている。


「恋だの愛だの……実に単純な単語だけど、それは身近すぎるからさ。カルネヴァーレ、君だって息子に愛情を注いでいるだろう?ま、その『愛情』が他の親とは少々違うとしてもね。若い男女も同じように愛情を育むんだ。それを親が『邪魔する』なんて……なんていうか、ちょっと時代錯誤も甚だしいとは思わないかな?」


父の言葉は、杯を落とした時のように静まり返った庭園に響き渡った。場の空気を一本の針で刺すような、そんな言葉だった。

誰もが、父の言葉に耳を傾けている。


「お父様……」


そして、私は驚愕していた。あのクソ酔っぱらいが、急に素面に戻ったかのように喋っているし、普通にいいことらしきことを喋っている。

もしかして、これはドッキリ番組か何かだろうか?あるいは父の偽物?いや、酔っ払うのが本当の偽物で、こちらが偽物の本物なのか?

い、いや……それは今考えることじゃない。自分の脳内で開催されている「父親の正体を巡る謎解き選手権」は一旦中断だ。

どうやら父は王子の……そして私たちの「若くて純粋な愛の芽」なるものの守護天使になってくれるらしい。


「セーロス……」


カルネヴァーレ氏もまた、父の「素晴らしい」言葉に感銘を受けたのだろうか、殺気を完全に消し、戸惑うような表情を浮かべている……。


「お前さぁ、大戦の時はヴァンパイアの女も、エルフの女も、人間の女も、種族問わず右から左へとっかえひっかえしてたじゃない。見かける度に、隣にいる女が違ったけど。そんな『恋愛遍歴豊富』な男が、愛だの恋だの言うのは実に説得力があるけれど、なんていうか何も響かないっていうか……」

「あ゛ーっッッ!!ま、若かったよねぇ!みんな若かったよねぇ!ところでカルネヴァーレ君!この庭園の植物たちは素晴らしいだろう!?特にあの木!あの木はなんていう木か知ってる!?僕は知らないけど!」


どうやら単に呆れていただけらしい。

カルネヴァーレ氏は父の隠された過去……というかほとんど隠されていない過去を知っているようだ。

やっぱり父は、酔っ払っていようが素面だろうが、「使えない荷物」カテゴリの存在だらしい。

あぁ、知ってたよ!


「ん……?」


そんな狼狽する父を他所に、今度は反対側からまたもや援軍が舞い込んできたようだ。ぬっと現れた影が、私の視界に現れた。

ここで颯爽と登場したのは、私の兄──。


「ぴぃ」


──ではなく、ロイヤルモスキートのヴァスカリスだった。

もう何を言っていいか分からない。次に味方してくれるのは、お兄様とかそういう展開が普通だよね?

でも、この蚊が来るあたり、この世界はもう駄目なんだろう。

背後に目をやると、我が麗しのお兄様はヴァスカリスに吸血されまくったのか、干からびた姿で地面に倒れ伏していた。

反対に、ヴァスカリスは超越種の上質な血を吸ったからか、小さな体が、宝石のように光を反射していた。


「……」


王子を守るように、横には私と父が。頭上には羽音を響かせるヴァスカリスが佇む。

この「寄せ集め勇者パーティー」のような陣容に、どれほどの戦力があるのかは甚だ疑問だが、少なくとも形だけは整っている。

私たちの目(と複眼)に射抜かれたカルネヴァーレは、暫くの間、無言で私たちを見返していたが……。

不意に、大きな大きな、溜息を吐いた。それは、悠久の時を連想させる溜息だった。


「──そうかもね」


そして、言った。


「息子の言葉を制限するのも、行動を抑制するのも、母親として失格……か」


カルネヴァーレはそう言うと、顎にやっていた指を、そのままスピラーレ王子の頭に置いた。

一瞬ビクリと身体を震わせる王子だが、その手は彼の頭を爆発させることもなく、そのまま撫でている。


「……」


母親が、子供にする当たり前の行為──だけど、王子は今どんなことを思っているのだろう。


「爆発させない?なんで?」「もしかして千年に一度の『優しい日』?」「あるいは『ママ、今日血糖値高め?』」とか思っているのだろうか。

しかしそれは確かに驚愕の光景だったのだろう。ヴァンパイアの従者たちは、一様に手を口に当て、中には泣き出している者もいる。それこそが、この光景が尋常ならざるものだという証左だ。


そして王子を一通り撫でた後、カルネヴァーレ氏は後ろを向いてそっぽを向いてしまった。

これは……もしかして、恥じらい……?まさか千年以上生きた血液愛好家の女王にも、少女漫画の主人公レベルの恥じらいが存在したとは。世界の謎がまた一つ増えた。


「……」


そして王子も、顔を赤らめたまま俯いている。

ヴァンパイアの従者たちは皆「悪役が改心する映画の最終シーン」を見るかのように感動の涙を流しているが、私はどう反応すべきなのだろう。

喜べばいいのか?拍手すればいいのか?「おめでとう、あなたは普通の母親に合格しました」と祝福カードを出せばいいのか?

私が、母と子の奇妙でいて、どこか不器用な「感動的なシーン」を、どう反応すべきか分からずに眺めていると──

不意に、スピラーレ王子が私の方に向き直った。彼は、まだ顔をほんのり赤らめ、恥ずかしそうに口を開く。


「エルミア姫。その、今日は、お見合いとしてここに来ましたが……」


彼はちらりと、お見合い会場である中庭を見る。そこには、さっきまで優雅だった面影など微塵もない、それはもう見事なまでに凄惨な光景が広がっていた。

エルフの従者たちは芸術的なまでに倒れ伏し、そこらかしこには血しぶきと謎の肉片が散らばり放題。

そして我が兄も、哀れにも干からびた姿で地面に倒れ伏している……むしろ兄が倒れているのは、この混乱の中で唯一の救いかもしれない。


これでは「お見合い」という単語が似合わない光景の極致だろう。彼もそう思っているのか、乾いた苦笑いを浮かべ、言葉を続けた。


「……お見合い、とは呼べませんね、これじゃあ。ええ、どう考えても」


しかし、彼はその自虐的な言葉を吐いた直後、太陽が雲の切れ間から顔を出したように、あどけない笑顔を私に向けて言ったのだ。


「でも、僕にとっては、紛れもなく──お見合いでした」



──その瞬間、彼は。


私に、抱き着いてきた──。


「!?」


空中で踊っていた時とは違う、本格的な抱擁。

私の脳内では、緊急会議が開かれた。エルフ王女情緒安定センターのアラームが鳴り響き、「何が起きているんだ?」「これはプロトコル違反だ!」「対応マニュアルはどこだ!?」と、パニックが広がっている。



でも。


──温かい。それが最初に脳に届いた感覚だった。


私の身体に馴染む彼の腕の感触。胸の奥に響く、彼の鼓動。それは規則正しく、しかし少し速い。


周囲からは、吸い込むような息を呑む音が聞こえた。それは一斉に、この場にいた全員から発せられた集団的驚愕の音だ。


従者たちは顔を真っ赤にし、目を丸くしている。父は口を大きく開けたまま固まっている。

カルネヴァーレ氏は──彼女は口元に手を当て、困ったように苦笑していた。おそらく「息子よ、やり方が下手すぎる」とでも思っているのだろう。


「……」


時が止まったかのように、誰もが動きを止めて私たちを見つめている。前代未聞の歴史的瞬間を、目撃しているかのように。


「姫は、僕の心に火を灯してくれた」


彼の声は、耳元でそっと囁くように響く。


「王子らしからぬ臆病者の僕を受け入れて、僕と踊って……そして今、母さんの前で本当の自分を捨てようとしていた僕を、踏みとどまらせてくれた。姫は……僕の弱さを、価値あるものだと教えてくれたんです」


その言葉は、古い詩のような響きを持っていた。ヴァンパイアの貴族の口から紡がれる言葉とは思えないほど、素直で、ありふれていて……。

彼の腕の中で、私は自分の体が少し離れていく。それは彼が私との距離を取るためだった。そして、私たちは互いの顔を見つめ合った。


「そ、そんな大層な、ことは……言ってない……けど……」


そして私の心臓は、今にも破裂しそうなほどに激しく鼓動していた。私の頬は熱く、手のひらには汗が滲み、膝はかすかに震えている。

これは単なる「社交的パニック」?いや、違う。これは……。


「初めて会った時に、分かりました。姫は私にとって、特別な人だって」


あぁ、もう何も考えられない。通常、私の頭脳は幾つもの考えを同時に巡らせることができる。「王国の将来」「お兄様の次の暴走」「カフォンくんの正体の考察」etc……。

でも今は何も思い浮かばない。ただ、目の前の彼の存在だけが、私の全感覚を奪い取っている。

周囲では、ヴァンパイアの従者たちが「キャー!」「素敵!」「王子様が大人になった!」などと騒いでいるらしい。人間の少女漫画に出てくる「黄色い悲鳴」というやつだろうか。

でも、その声は遠く、まるで水中から聞こえてくるように、ぼんやりとしか届いていない。

今この瞬間、私の視界には彼の赤い瞳だけが広がっている。それは、血のように赤く、でも決して恐ろしいものではなく、むしろ夕焼けのように温かい色をしていた。


そして──


「──がはぁ!?」


──その瞬間、スピラーレ王子の身体が、何かに弾き飛ばされるように宙に舞った。

投げ飛ばされる野良猫のような軌道を描いて、彼の体は中庭の片隅にある古樹へとビタンと激突した。


「!?」


衝突の瞬間、彼の口からは赤い液体は噴き出した。そして、その特大サイズの人体スプラッシュアートを残したまま、木の根元へとずるりと崩れ落ちる。


「……はい?」


私の脳は未だにロマンティック・モードから切り替わっていなかった。つい今しがた、私と王子はまさに「王子様とお姫様」的な、あるいは「吸血鬼と獲物」的な──いや、それは違う。

とにかく、かなりいい感じの雰囲気だったはずだ。「今キスしたら、エンドロールが流れる」くらいのタイミングだったのに。


──一体、何が起きたのか?


もしかして、あのカフォン君が「やっぱり、気が変わったらみんな殺しにきました!♡」と言って戻ってきた?

それとも、カルネヴァーレ氏の「ヴァンパイア更年期」が再発して「やっぱり息子、爆発させるわ♪」となった?

あるいは、干からびていたはずの我が兄が、復活して「妹を守る!(建前)/邪魔したい!(本音)」と割り込んできた?


しかし、私のあらゆる推測は──儚く崩れ去った。


「はぁ、はぁっ……」


見ると、息を切らしている父セーロスの姿があった。

まるで一世一代の大仕事を成し遂げた英雄のような顔をしているが、どう見ても酔っぱらいのおっさんが全力で青年を殴った後にしか見えない。

静寂が辺りを包む中、私は目を何度も瞬きさせ、父を見て、呟いた。


「お、お父様?な、ななにを……?」


カルネヴァーレ氏も、ヴァンパイアたちも目をぱちくりとさせる中──父は言った。

その顔は、今この場にいる誰よりも真剣で、誰よりも威厳に満ちていた。その姿は、正真正銘の「王」の風格を備えていた……

なんて冗談はさておき、単に酔いが覚めて正気に戻った野良犬のような目をしていた。


「お……」


お……?


「お見合い……はいいんだけどさぁ……!抱き合うとか、キスとかは、エルちゃんには……ちょっと早いんじゃないかなぁ……!!!だってエルちゃんは、つい昨日まで僕のひざの上で『お父様、大好き~♪』って言ってた女の子なんだよぉ!!」


痛々しいほどの静寂が、辺りに満ちた。

鳥のさえずりも止まり、風の音も消え、庭園の花々さえも恥ずかしそうに俯いているようだ。


「うっ……」


その中で、スピラーレ王子はゆっくりと、まるで映画の中のスローモーションのように、ガクリと気を失った。

「ロマンティックな展開」という名の建物が、一瞬にして崩壊する瞬間である。

それと同時に、私は言った。


「お父様……何年前のこと、言ってるんですか!?それとも父様は時空の歪みに閉じ込められて、私が五歳だった頃からずっと抜け出せないんですか!?ていうか、お見合い勧めたの、アンタだよね!?」


カルネヴァーレ氏は呆れたように首を振り、ヴァンパイアの従者たちは慌てて気絶した王子を介抱し始めた。私の兄は相変わらず地面で干からびたまま。


──そして、この前代未聞の「お見合い」は、シュプレヒコールのようにして幕を閉じたただの「幕」ではなく、大喜利の「オチ」のように。


「ぴぃ」


ヴァスカリスの複眼だけが、この光景をただただ冷静に見つめていたのであった。


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