目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

13-9




「う……この光は……!」



 目の前が光に覆い尽くされてしまって、目を刺激してくる。チカチカとして、目を開けていられなくて目を閉じた。



──でもこれは絶対に、検問所で起こったあの光だ!



 カジキがあの少年を押さえてくれているだろうと思うけど、目を閉じている今の状態ではわからない。仮に目を開けたところで、真っ白で見えないだろうけど。でも。今どうなっているんだ。何も見えない以上わからない。

少年はすぐ手の届く場所にいたはず。手で探ってみて、何とか少年から奪っておきたい。



「ぐっ、待て」



 短いうめき声が近くからした。その後に何かが腕に当たる。その何かは近くを揺れ動いていた。何かを探しているように。服が少し引っ張られて、かと思えば腕を掴まれた。締め付けられるようにしっかりと掴まれている。逃さないように。食い込んできて、痛い。


 そのまま前の方へと引っ張られそうになって、掴んできている相手が予想出来てその場に踏みとどまる。



「カジキ、わたし私!」

「イルドリか! 悪い」



 案の定、それはカジキだった。焦っていそうな声と共にカジキの手と思われるものが腕から離れる。圧迫感から来る痛みは、手が離れると共に薄れていく。じんと痛みが若干残っていたけど、短い間だったからかそれもじきになくなった。



──でも、少年を押さえていたはずのカジキが私の腕を掴めるという事は?



「邪魔はあったけど、やっと追いついた」



 瞼の裏の色味が暗くなったのとほぼ同時ぐらいに声がして、声の方に振り向いた。開けた視界から光は消えていたけど、すぐには見える景色に慣れなくて、凝視する。ぼやけているという訳じゃないけど、頭にはすぐに入ってこない。



 でも、それはほんの暫くの事だった。そう経たずに目に入っている景色が何なのかわかるようになる。



 あの少年は、馬車の前まで移動していた。足元には研究所の男性が座り込んでいる。

 少年の手元で何かが太陽の光を反射した。手の中で光っているものは小さくて、よく見えないけど何かを持っていそうだ。



 お城の中へ入っていなかった事は、こちらにとっては不幸中の幸い。少年の姿が目に入った事に若干安心した。



 なのに。

 あの少年の手の中で何かが光ったのが見えた瞬間、嫌な感じがした。



「く……うっ……」



 足元にいる研究所の人は命の危機に瀕しているような、酷い状態という程ではなさそうだ。ただ、さっきの光のせいか目はまだ閉じているようだったけど。


 兵士の一人は頭を押さえた状態で床に突っ伏しているけど、もう一人は今目を開けて現状を見たみたいだった。



「か……返せ……聖遺物、を」



──聖遺物?



 うなされているかのようにして言った研究所の人の言葉は、決して大きな声では無かったけど、私にも聞き取れた。聖遺物、と言ったのを。



──まさか……。まさか、彼の手の中にあるアレが、聖遺物?



 研究所の人が襲撃を受けて逃げてきた。それがあの少年からだったなら。

 先行していたはずの少年は、研究所の方に先に行っていて奪いにかかっていた。そこから研究所の人が『聖遺物』を持って王都まで逃げてきたと考えたら、今までのも納得がいく。



──二つ目の聖遺物もこのままでは奪われてしまう!



 今は考えるより取り返さなくてはと思い立ち、とにかく地面を蹴る。光ってはいたけど、この国の聖遺物は小さい物だろうから、どこかにしまい込まれる前に。



「イルドリちゃん!」



 ソーニャの声が耳に飛び込んできて、一度その場に踏みとどまる。辺りを見回すまでもなく、ソーニャを見つけられた。ソーニャは思いの外近くにいて、両手には何か丸い物をいくつか持っている。バスボムみたいに表面が粗いけど、サイズはもっと大きい。色合いも、人工的な物じゃなくて自然な色味に見える。



「わたしが投げて止めるから、そこを狙って捕まえて!」



 また。という事は、先刻少年に向かって投げつけられた何かはソーニャが投げつけた物なのだろう。見る限りまだいくつかありそうだし、前回と同じように短時間だろうけど、妨害になりそうだ



 少年の元には先にカジキが向かっている。ソーニャが投げつけてくれるなら、そこに私も入ったら少年に当てにくいかもしれない。



「だったら」



 意識は目の前から自分の体へ。自分の体では決してない、異物。その中に蓄えられている力を引き出す。後はそれをどこに放出するかの段階で少年の方に目を向けると、ちょうどカジキの一閃が襲いかかっているところだった。



「やるなら……ここ!」



  少年から感じる鬼気迫る空気を切り裂くように、刃が空間を通って何かが地面に散る。多分服が切れた事による切れ端だ。

 カジキの容赦の無さそうな剣筋のせいだろうか。私の時よりも大ぶりな避け方で避けている気がする。


 それでも完全には避けきれていない訳だから、危機を感じている事だろう。



──そこに追撃でぶっこむ!



 避けて注意がそっちに向いているだろうから、意識が甘くなているだろう足元──それも踵側の方に火のエネルギーを解き放つ。足元に起こった火に、少年の足が不安定に動いた。もつれたりはしていないけど。



「当たって!」



 更にソーニャが続く。当てられるように私よりも前に出たソーニャが腕も肩も大きく回してボール状の物体を投げた。こっちに気付いたようでこちらを見た少年の体が傾く。二発目を浴びないように体を傾けたけど、間に合わなかったようで体に当たった。


 さすがに今度は驚いていないみたいだけど、体に当たった瞬間に弾け飛ぶから飛沫のせいで視界の邪魔にはなったようだった。



──体勢が崩れた……!






この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?