研究員を先頭に私達三人と兵士が六人ついてお城の中へと入った。その中に門番をしていた兵二人は、交代で同行している──と思う。みんな鎧で包まれているから、呼ばれてやってきた人達と混ざってしまったから分からない。だけど説明のために居そうだ。
報告が目的とはいえ、王との謁見だから、何かあった時に私達を取り押さえるためだろうけど、六人も兵が同行しているのはさすがに緊張する。
そうこうしている間に、王のいる謁見の間へと通された。
部屋の中には何人か人がいたけど、一番奥に男性が立っていた。その人を見て研究所の人が頭を垂れたから、それに倣って私も同じように行う。
──じっくりとは見られなかったけどまだ若そうな男の人だった。代替わりしてからそう経っていないのかもしれない。
「報告します」
研究所の人がつらつらと報告を述べていく。それを私はよく磨かれた床を見ながら聞いていた。内容としては、ほとんど私達が把握している事だった。
研究所があの少年に襲われた事。
あの少年は『聖遺物』を狙っていた事。
偶然出会った私達と一緒に逃げてきた事。
私達があの少年と戦い『聖遺物』を取り返した事。
そういった一連の事を王に話してくれた。一見部外者そうな私達の事の説明もそれで済んだ。お陰で、害意は薄そうだとは感じてくれるだろう。
「魔石研究所の正確な被害はどうなっている」
話を一通り聞き終わった王の声は淀みなく、むしろ淡々としすぎている印象だ。私は答える側ではないけど、何だか聞いているこっちも緊張してくる。
「命からがら逃げてきましたので、正確には……。ただ、数名は死亡しているかもしれません。防犯用の剣で何人かが刺されていました。あそこには最低限の薬は保管されていますが、取りに行ける状態の者もいませんでしたし」
──やっぱり少年は、研究所で既に人を……。
あの魔晶術は広範囲で、しかも、目をやられただけじゃなくて、兵士や研究員がやられたみたいに痛みを伴うものだったら傷の手当てなんて出来なさそうだ。彼の言うようにもう亡くなってしまっているだろう。
「研究所内の道具やサンプル、完成品などへの被害はどうなっている?」
「チェックするような状況ではなかったので、細かい確認は取れていませんが……ただ……」
研究所の人が一呼吸置いたので、顔を伏せたまま横目で見てみる。自分の髪で見えづらいけど、当時の事を思い出しているのか考えているような仕草をしていた。
「襲撃してきた犯人は聖遺物にしか興味がないようで、壊して回っている様子はなかった気がします。一目散といった様子で」
「そうか。至急、研究所に向かう準備を。引き続き研究が出来るように人数を割け」
報告を聞いたフェロルトの王が命を下す声が聞こえる。
何だかこのまま話が終わりそうな雰囲気だ。少年が言っていた言葉の意味がわかるような事情を聞きたかったんだけど。
「では我々はこれで失礼致します」
研究所の人のその言葉で立ち上がる。視界に少し前に見た王の姿が映る。王様の地の色そのままのように見える色の髪と、顔の皺の少なさ。眉間にはシワが薄っすらと跡になっているようだけど──やっぱりまだ若そうな人だ。
こちらを見ているみたいだけど、目の焦点が合っていない。眉間のシワといい、国務に追われているのかも。こんな何十連勤もした挙げ句、睡眠時間足りてなさそうな人にあれこれ聞くのはさすがに忍びない。研究所の人と話せそうなら直接聞いてみよう。
「聖遺物を」
カジキが兵士では無さそうな服装の人に声をかけられている。少年に返された指輪はカジキが持ったままだ。
ぼくのを狙っているの。お姉さんも帰りたいんだもんね。そんな、少年の言葉が頭の中で木霊する。帰りたい。帰りたいけど。例えば、今ここで隣国の王様や兵士達の前で、カジキの手から『聖遺物』を奪えるのかと言うと────奪える気がしない。
「確かに」
少年は使えないと言っていたけど、使えても奪えなかっただろうそれは返却された。あっさりと。一切渋る事なく。カジキにとっては当たり前の事なんだけど、私だったらなかなか返せなかっただろうな。
「褒賞の品をお持ちしますので、城の入り口でお待ちください」
ビア国が通達を出していたように、聖遺物を取り返した事による褒賞を出してくれるらしい。それは有り難いが、あの研究員をしている人は先に帰ってしまいやしないだろうかの方が気にかかる。
それ以上は私達に用はないようで、話し掛けられなかった。ただ、その場は慌ただしく動き始めている。王も指示に忙しそうだったので、私達も退出の挨拶のみで何も言わず静かに出ていった。
「……あの。聞きたい事があるんですが」
「何でしょう?」
謁見の間から退出したら、すぐに研究所の人に声をかけたけど急ぎどこかへ向かう様子ではなかった。
「あの少年は……聖遺物の事を使えない、と言っていました。それに聖遺物は国で保管する物だから、てっきり城内にあると思っていたんですが……その辺りが関係していますか?」
「ふむ……。古代の遺物は保管と共に昔から研究に使われています。近代の歴史書でもそう記されています。他の国は現在もそうしているかはわかりませんが……古代の遺物の中でも特に重要な『聖遺物』は研究に今も使われていますよ」
──ビア国で読んだ本の中に、研究もしている……って書いていたんだっけ? さすがに、たくさん読んだ上に一回読んだだけだから、ところどころしか覚えていないなあ。
「え、でも、じゃあ使えない……というのは?」
「さあ……。あれは聖遺物と呼ばれるだけあって純度の高い魔石晶以上のパワーはあるようでしたけど。だからこそ、その力を調べてはいましたが……」
──聖遺物に魔石晶以上の……? うん? なんだろう、何か引っかかる感じが。
「ああ。でも、確かに最初の頃より減少しているという話は聞いた事がある気がします。今はそこまで聖遺物自体を調べたりとかはしていないので」
「減少……使えないって、その力の事だった?」
──じゃあ……帰るために必要なのは、聖遺物の中にある魔石晶以上という話のパワー? でも一つじゃ足りないから、他の聖遺物も集めているの?