それなら純度の高い魔石をたくさん集めるのではダメなのか、とか疑問はあるけど。とりあえずは研究所の人から聞きたいことは聞けた気がする。
話を聞き終わったぐらいには、さっきカジキから指輪を受け取った人から袋を渡された。それなりの重さの物を一つ。取り返した場面はこの人も王様も見ていないし、一人分とも思えない量だから好きに分けろという事かもしれない。
お金ももらえたし研究所の人からは話も聞けたので馬車のところで解散しようと思ったけど。今度は私達が呼び止められた。
「僕からのお礼がまだなので……宿の手配をさせてください」
「え?」
──そういえば……お礼に宿代を払うとかどうとか言っていたような覚えがある。けど。
「でも……王様から結構な量のお金をもらっているし……」
「皆さんに馬車に乗せていただけていなかったら、僕は死んでいたでしょうし……この場所での戦いでも、魔石研究所での事を考えると……」
あらゆる場面で、彼には死が迫っていた。彼からすればその危機を何度も救った事になったのでお礼をしたいと考えてくれているんだろう。でも二人はどうか分からないけど、お礼をもらう程の事はしていない。少年を追って聖遺物を盗むのを阻止したい気持ちで、そのために動いていたんだから。善意がゼロという訳ではないけど、自分の思惑が入っていない一〇〇%の善意じゃない。色々とこっちも必死だった訳だ。
──まあ……彼が襲われていた獣との戦いはヒヤッとしたけど。
「買い物とかご飯も食べたいし、それじゃあ宿お願いする?」
ソーニャは受け取る派みたいだ。確かに、このまま出発とはいかなさそうではあるかも。
というか、正直。体を休めたい気持ちがふつふつと湧いてきている。止めるために結構剣を振ったし、腕が重い。
「……じゃあ、そうしたいかも」
なので結局休憩したい気持ちに負けて宿代を出してもらう派に変わる。カジキは「同じく」という意味のこもってそうなハンドサインを私たちに見せていたので、全員一致でお礼の宿泊を受け取る事となった。
馬車に研究所の人を乗せて、お城から遠ざかっていく。研究所の人は御者台の方に座って、宿までの道をソーニャにナビゲートしていた。私とカジキはいつも通り後ろの席に座って揺られている。町の景色が見えていたけど、何となくそそられなかった。買い物や食事で宿から出た時にでも見よう。
──王都は広いから、それはもう宿に着くまで時間がかかるのではと思ったけど、意外とそうかからなかった。
馬車が止まったので降りて見てみると、なかなかに格式高そうな宿だ。年月が経っていそうなのに、小汚さとかは無く古臭さみたいなものを感じさせない。写真に撮りたくなる。
「あの、高そうに見えますけど……大丈夫ですか?」
御者台から二人が降りてきたので、研究所の人に念の為聞いてみる。フェロルトは初めてなので、彼の方がずっと詳しいとは思うが、命の恩人だからと奮発してくれようとしているならさすがに止めたい。
「昔からあって人気ではあるのですが、そこまででは」
地元民の定番のお宿的な扱いなのか、きょとりとしている。私の質問に答えると、さっさと扉を開けて中へと入ってしまった。
「何でも良いから入るぞ」
「カジキはそうでしょうけども」
「入って良いと思うよ。入ろ~」
それに続いてソーニャとカジキも入っていく。二人が入っていったので、私も中へと入った。
中は落ち着いた雰囲気で、清掃が行き届いていた。豪奢な感じではなかったので、ひとまず安心しているとカウンターの方から研究所の人がこっちに歩いてくる。片手が出された。そこには鍵が二つあって、二つとも持ち上げてみる。鍵には何かのマークらしい物が書かれた物がついていた。マークは同じものじゃなくて、別々になっている。
「惜しいですが、僕は研究所に戻らなければならないのでこれで。本当にありがとうございました」
私たち三人の顔を順に見てから研究所の人は立ち去った。彼もこれから魔石研究所周りでしばらく忙しいだろうし、今後そうそう会うことはなさそうだ。
「鍵が二つ……という事は二部屋借りてくれたんだね」
「みたい」
普段であれば所持金の事が脳裏を過ってしまうけど。今回は宿代を出してもらったお陰で部屋を分けて過ごせる。荷物は多くはないし、部屋にはベッドが四つとか詰められているからそこまで大差は無さそうだけど。
二人共慣れているのかあまり一部屋だとか二部屋だとかは気にしていないみたいだし。
とりあえず、あの研究員の人が手配してくれた部屋へと向かった。客室は二階からのようだったから、階段を上がって描かれているマークの部屋を探す。
私たちの部屋はどちらも三階にあって隣同士の部屋だった。
ドアを開けて中を見れば、ロビー同様綺麗に整えられていた。シンプルに纏められていて、必要な家具と、そこに飾りとなる物が置かれている。
私はもう剣を置くのも面倒でそのままベッドに横になった。干したてみたいにシーツはふかふかで、目を閉じたら寝てしまいそうになる。
「金分けるぞ」
「ふぁーい」
横になったまま手に持ったままのお金の入った袋を持ち上げておけば、重みがフッと消えた。さっきまで持っていた袋がなくなったので、ベッドへと手を落とす。あくび混じりの返事になってしまったけど、そこまで気にならない。眠気に負け気味になっている。
部屋の中にあるテーブルの方でコインの音がする。テーブルで分けているらしい。コインを動かしているだろう事がわかる音が何度も何度も鳴っている。その音がどんどん遠くなっていく。
──ああ……結構疲れてるのかも……。