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14-6









 地理的にフェロルト国から行ける次の国はセルーネとブラックバーンだ。どちらでも行けるんだけど、情報も得られたし、立地的な関係があって次に行くのはブラックバーンだ。セルーネからだと違う大陸に行けるから単なる盗人ならそっちに行くかもしれないけど少年の目的は聖遺物。だとしたら、先にブラックバーンに行くだろう。


 ──そんな訳で、フェロルトで一泊した後はすぐにブラックバーンに向けて出発してもらった。

 若干腕は筋肉痛だけど、道中の獣や虫退治くらいなら出来る程度だ。どのみち、フェロルトにはそういった類は少ないし。



「ブラックバーンかあ……」



 馬車を走らせてくれているソーニャが呟いている。次の目的地を聞いて何だか今ひとつな反応だ。



「あんまり好きじゃない?」

「ううん! 法とかしっかりしてるし、騎士の人たちは強い人が多くてよく町の人達を守っててね。わたしも守ってもらった事があるよ。良い国だと思う」



 何かありげな反応のように思えたけど、ブラックバーンという国が嫌とかでは無さそうだ。むしろ聞いている限りでは好意的。


 私はあまり知らない側で、イメージとしてはやっぱり騎士。ソーニャの実体験もあって騎士が力を持っていて、中心的存在な感じなんじゃないかと思っている。でもその力を無闇に振るうんじゃなくて、自国の民のために使っているらしい。



「今のところ悪い印象はあまり抱かないけど……それにしては何だか思うところありそうな感じじゃなかった?」

「うーんとね……結構売るのにね……ルールが厳しくて。だからかほとんど露店が出てないくらい」

「ああー……それは商人からしたら大変だ……」



 ソーニャの説明でブラックバーンの解像度が上がってきた。

 規律を重んじていて、露店は町にほとんどない。賑やかな感じではなく、町並みはすっきりシンプルな予感がする。


 今のところ各国の法は犯してはいなさそうだけど、ブラックバーンは法が厳しそうだし、些細なミスで捕まるなんて事は避けたい。



「ブラックバーンといやァ……獣系も虫系も鳥系も魚系も網羅してるよな」

「え、なにそれ」



 突然カジキが話に加わって来たかと思えば、何か怖そうな話をしてきた。反射的に聞いてしまったけど、聞いても大丈夫な話だろうか。



「何って、それらがうようよしてるって事だよ」



 うようよ。フェロルトでは比較的遭遇率の低かった魔物的存在のあれらの事だろう。ブラックバーンでは多種多様な生物が襲って来るんだ。見た目はそこまで現実からかけ離れていないのに、攻撃性の高そうな彼らに頻繁に襲われるだろう事を考えるとブラックバーンにまだ入っていないのに気が重くなる。



「海も山もあるからな」

「ああ……それで騎士団」



 多くの種。多くの生物が襲ってくるため、騎士団のように戦える集団が重要だったんだろう。それで、日々訓練とは別に襲い来る彼らと戦っていくから強くなっていくと。わかりやすい。

 でもそれなら、あの少年もなかなか手出し出来ないんじゃないかと思えてくる。



 まあ、とにかくは目的のブラックバーンを目指すまでだ。

 いざとなれば、そんなに強い人達なら協力を頼んでみてもいいかもしれない。クライトさんとか、知り合い程度にはなっただろうし。あの人は案外と話を聞いてくれそうな感じだし。いいかも。



 ──ブラックバーンまでの道のりは、適当に二人と話をしたりして、いつも通り馬車の中で過ごした。


 検問所を無事に抜けた辺りから少し眠気がやってきて。まだどこか町にたどり着きそうな感じではなさそうだったから、少し眠ろうかと目を閉じた。ブラックバーンに入ったのなら、いつ噂の彼らが襲ってきてもおかしくはないし。休める時に休んでいないと。



 幸い、剣を振り回しまくったせいでじんわりと筋肉痛を起こしていた腕はここまでで回復している。何かあれば二人の内どちらかが起こしてくれるだろう。



──馬車の揺れが変わってきてるなあ。本当にもうフェロルトじゃないんだなあ。



 それなりに整備されていたフェロルトの道とは違うというのが、振動で伝わってくる。睡眠を妨害する程ではないけど。眠気の波に抗わず、波に従い漂っていく。



 瞬間。

 大きな振動が起こった。

 体が揺らされて、同時に眠りに落ちそうだった意識が無理やり戻されて目を開ける。



「ソーニャ、何かあった?」

「い、イルドリちゃん……」

「ヤムシでも出た?」



 馬車は止まっていて。何だか焦っているような泣きそうな声でソーニャが振り返った。涙は出ていないけど、表情が強張っている。そんなソーニャは珍しい。早速ヤムシでも出たんだろうか。

 何かに不意に体を叩かれる。そっちを見ればカジキが馬車の出入り口の方を顎で示した。やっぱりヤムシの襲撃だろうか。


 そう思って、外を見る。


 そこにいたのは人だった。ヤムシじゃない。

 でも、何人もいて皆同じ格好をしている。鎧姿にマント。騎士だろうか。騎士らしき人々が私達が乗っている馬車を取り囲んでいるみたいだった。



「サ。そのまま止まっていろ。我々がいいと言うまで決して動かすな。動かせば命の保証は出来ない」



 誰かが耳慣れない単語混じりに物騒な事を言っている。声は大きくてハッキリと聞こえた。人影が馬車に近付いてきて、大声で警告しているその人物だろう人の顔が見えてくる。


 まだとても若そうな男性だった。短く切られたシルバーブロンドの髪で顔立ちは整っている。引き締まった表情だけど冷酷そうには見えないが、温かみも感じない。真面目そうな騎士というのが近いのかもしれない。事前に聞いていた規律に厳しそうなイメージに合っているような人物だ。



「貴殿らを調べさせてもらう」




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