ブラックバーンに入って早々、何故か騎士達に囲まれてしまった。
あれよあれよという間に私達は馬車から降ろされて、馬車の中に騎士が二人程入っていった。積荷を調べているらしい。降りる事を命じられた私達は馬車から離れた場所で並んで立っているけど、両サイドには数人の騎士いて完全に挟まれてしまっている。
さすがのソーニャも青い顔をして心配そうに馬車を見ている。カジキは余裕があるのか単に眠いのかあくびをして手出しも口出しもしない。
ふたりもそんな感じだし、騎士に包囲されてしまっているので私も何も出来ない。ただ調べ終わるまで待つしかなかった。
「……ソーニャ、ブラックバーンってこんな感じで抜き打ち検査? みたいな事あるの?」
何も悪い話はしていないんだけど何だか悪い話をしているようで、こっそりとソーニャに訊いてみる。
「ちゃんとした場所でやっているのを見た事はあるけど……こんなの初めてだよ」
ソーニャ曰く抜き打ち検査自体はしているみたいだけど、道中でいきなりっていうのは無いみたいだ。
普段やらない騎士団の行動だけど、これは騎士団長であるクライトさんの指示なんだろうか。いつからなのか分からないけど、指示だとしたら大分前から出している事になる。通信機器なんて物はないし、遠方への連絡は手紙を運んでもらうとかだ。クライトさんとは度々道中で会っているけど忙しそうだし。
かといって、あの再会の後帰国するにしても、どこかでもう一度会っていてもおかしくはないからまだ帰ってなさそうだ。
──クライトさんはまだ帰国していない……? 各隊長の指示とか? それとも国王の命令…?
「ヴァルターさん、積荷なんですが……」
騎士の一人が馬車から出てきてシルバーブロンドの青年に駆け寄る。あのヴァルターと呼ばれた青年が隊長だったりするのだろうか。それにしては身に着けている物が他の騎士達と同じような気がするけど。周囲にたくさんの騎士がいるから、好きなだけ見比べられるけど違わないように見える。
ブラックバーンの仕組みはわからないけど、隊長だったら何かしら特別な装いをしていそうだけど。違うんだろうか。
「積んである荷物の事で聞きたい事がある」
呼ばれた時に何を言われたのか、ヴァルターという騎士が今度はこちらに問いかけてきた。積荷を先程から調べられていたけど、何か問題でもあったんだろうか。
全部を見てはいないけど、いつでも見られる位置にあったし、買っているところも見ているけど問題のありそうな品物はなかったはずだけど。
「は、はい! どこで買ったかとか言えます!」
「そうか。では一つずつ話してもらおう」
若干声が裏返りながらもソーニャがいの一番に出てきた。わたしに任せて、とばかりのジェスチャーを私達に向けて出して、ヴァルターさんについていく形でソーニャは馬車に向かっていく。全然先が見えなくて不安だ。
ただ、ヴァルターという人は声の大きさや表情が変わらないところから圧はあるけど不快さは不思議とない。ソーニャに対しても乱暴な振る舞いも見られないし、悪い人では無さそうに見えた。
──でも、それはそれとして……この状況はとても困るなあ。少年はもうブラックバーンに入ったんだろうか。私達と同じように騎士に捕まっていたらまだいいんだけど。
かといって、ここから逃げ出そうものなら怪しまれてしまう。怪しまれるだけならまだしも、相手はこの人数だしすぐに捕まって罪人として扱わたら目も当てられない。
「時間……かかるかなあ。荷物のチェックをされているだけっぽいけど……」
「ただの旅の御一行じゃなくて商人である嬢ちゃんが混ざってるからな」
独りごちたら、カジキが小声で返してくれた。
馬車自体はそんなに多くはないけど、そんな中に積んである荷物は度々仕入れている物達だ。売るための物と、旅のためのもの。座席を圧迫する程は積んでないけど、売るために数はあるはず。それを一つ一つ確認するとなると、かなり時間が取られそうだ。
「そもそも、なんでこんな事を……」
さっきソーニャから聞いた話ではこんな検査をこんな所でしないらしいし。何のためにこんな事をしているんだろう。道行く人みんなを止めているんだろうか。
──何かを探している、とか?
「メンドーな事になったが歯向かったり疑われるような事はしなきゃ解放されるだろ。ちょっとの辛抱だ」
「まあ……そうですね」
今は解放してもらう事だけを考えた方が良さそうだ。何せ武装した騎士達に周りを囲まれてしまっている訳だし。
と言っても、ソーニャが話に行ってくれたから私達は待つくらいだ。ソーニャだったら商人として話し上手な面を発揮してくれるだろう。ちょっと緊張はしていたっぽくはあるけど。
──とりあえず話しが終わるのを待っていたら、騎士が一人私達の前に立った。ヴァルターさんではない。その上、サイドには相変わらずいる。
「失礼。お二方の旅券を拝見しても?」
「旅券……ですか」
すぐそこ──という程とても近い訳ではないけど──で旅券を使って通ってきたのに、旅券を再び見せるように要求された。見せられないような物でもないし、ここはカジキも言っていた通り無闇に歯向かう必要もない。
旅券を取り出して、騎士に差し出した。横を見れば片腕でカジキも旅券を渡している。その無気力感を感じる振る舞いの方は大丈夫なんだろうかと若干思わないでもないけど。
「拝見します」
旅券を受け取った騎士は、私達の旅券を交互に見ている。かつ隅から隅まで目を通しているみたいだった。
何だか緊張する。今まで通れて来ていたし大丈夫だとは思うのに、どこかおかしかったりするかもなんて急に不安になってきた。
「……靱魔国に……ビア国ですか」
「は、はい。ビア国から来ました」
私達の旅券を見た騎士はそのまま馬車の方に向かっていく。今のはどっちの反応なんだろうか。ただ出身国を読み上げられただけなのに、緊張は増していった。
「だ、大丈夫ですかね」
「どうだかなァ。俺にはわからん」
騎士は馬車の中にいる他の騎士達にも旅券を見せて話している。その中にはヴァルターさんもいた。
そのヴァルターさんが、馬車から降りて私達の方に近付いて来る。一定の間隔を空けて、立ち止まった。
「馬車に。このままご同行願う」
「え……」
それは、とても良い知らせのようには思えなかった。つまりこれは。連行なのでは。