目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

15-2





 ドッと汗が噴き出したような感覚がする。

 何が疑う材料になったのか分からない。何かの罪人扱いだったとしても、それが何なのかも分からない。ビア国で一度泥棒と間違われた事があるけど、あの時のように取り押さえる感じでは無さそうなのはまだ救いか。というか、本当にそういう事なのか断言も出来ない。



──いや、でも。逃げ出すのは悪手。このまま従っていれば誤解が解けるかもしれないし。私の思い違いの可能性だって全然ある。



「わ……わかりました」



 拒否したところで連れて行かれるのは同じだ。それならせめて協力的な様子を見せて少しでも不信感を抱かせないようにしたい。そのくらいしか出来ないんだけど。



 承諾すると早速馬車に戻る事になった。

 いつも座っている座席に向かうけど、背後には騎士が二人ついて来ていて体が強張る感じがした。脱出のための経路を塞がれている。前にはヴァルターさんがいるし。



「一体どうなるんだろ……」



 一体何がどうなっていて私達はどうなるのか分からないまま私達は馬車に乗る事になった。後ろからついてきていた騎士達も同乗し、座席ではない部分にしゃがんでいく。いつでも動けるような体勢──待機状態だ。


 積み荷と座席の私とカジキ、騎士達で馬車後部はギッチリだ。御者台の方はソーニャがいつもの位置にいるけど、その隣にはいつもは居ない人がいる。ヴァルターさんが隣で見張っていた。

 あちらからすれば、進行方向を変えられる御者はよく見張っておく必要があるんだろうけど、あんな近くにいられたら気が気じゃないだろう。



──こっちもはこっちで、ではあるけど。



 すぐ近くに待機している騎士達に目がいく。普段なら外の景色を見るのに目を向ける方向にいるものだから、おちおち風景も見られない。



「しゅ、出発します」



 騎士達を見ているとソーニャの出発を知らせる声がした。その声の後、馬車は動き出す。

 馬車の中は静かで、車輪が回ったり蹄が地面を打ち鳴らす音がいつもよりよく聞こえた。騎士が出入り口を陣取っていて風景も見れないのと、ソーニャが気になって御者台の方を見る。ヴァルターさんから指示を出されているのか話しているみたいだった。話しているのは分かるけど、内容までは聞こえて来ない。


 でも、恐らくはこれから私達が連れていかれる場所に関して話しているんだろうなと予想は出来る。どこに連れていかれるんだろう。知ったところで何も出来ないので、大人しく馬車が次止まるのを待つしかない。



──敵意やら殺意やらがハッキリわかる訳ではないんだけど……この人達は敵対意識はなさそうな気がする。ただ職務を全うしているだけのような……。だからこそ自分が何かやらかしたのかと思って怖いんだけども。



 どうしよう。息が詰まるこの空間でひたすら過ごすのも苦しい。黙って到着まで待っているのは辛い。せめて何か和らげる何かがあればいいのに。



──隣にいるカジキと小声でも話す? 怒られるだろうか。



「あ~ちょっと」



 カジキに雑談──は雰囲気的に無理でも話し相手になってもらおうかと迷っていたらカジキが声を発した。カジキは私の方を向いていない。向いている先は騎士達の方。騎士達に話しかけているみたいだった。


 声をかけられている事に気づいた騎士達がカジキを見た。それに関わってないはずの私は緊張するけど、カジキの表情は憔悴しているとかでも怒っているとかでもない。緊張もしてなさそうな普段通りの様子だった。



「腹減ってきたんで飲み食いしていいっすかねぇ」



 そう言って、カジキは騎士達の後ろ側に置いてあるリュックを指さした。ソーニャのリュックだが、みんなで食べるようの食べ物や飲み水が入っているリュックだ。騎士達の視線がリュックに向く。数秒ほどリュックを見ていたけど、リュックに近い側の騎士がリュックを持ち上げて、カジキに向かって差し出した。



「そうですか。どうぞ」

「ドーモ」



 拍子抜けする程にあっさりと渡され、カジキも何の動揺もなく受け取った。リュックの中も調べ終わっているんだろうけど。


 リュックが手の中に来ると、騎士達に伝えた通り中から携帯食料を取り出した。乾燥肉の混ぜられた携帯食料二つ取り出して一つを自分の口に入れて、もう一つを私に向けてくる。



「いや……私はいいよ」

「ん」



 携帯食料は味がしっかりついていて、乾燥気味なものが多い。これもだ。今そんな物が喉を通る気がまったくしなかったので断った。そうしたら引っ込めて、口の中の物を咀嚼し出す。私だったらとてもじゃないけど食べられそうにないので少しだけ羨ましい。



「……飲み水だけほしいかも」

「ほら」



 食べられそうにはないけど、水くらいは飲めそうだ。というか、空気を誤魔化すためにも何か口にしてはおきたい。食べ物は断ったけど、飲み水を頼むと渡された。


 それを口に入れて水分補給するけど、視界の端には騎士の姿が映る。さっきの対応からしたら重罪人に対する態度じゃなさそうだし、そこまででは無さそうな気もしてくるけど。



──うーん、落ち着かない。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?