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16-3







「……仮に、それが真実だとして。何故追ってきた? 我々が聞いた限りでは、盗まれたものは貴殿らのような個人の物ではない。国の物だ。もしくは、他にも盗んでいたと?」



 あの少年の事を話に出すと、ヴァルターさんの対応が変わった気がする。視線がかち合った。

 だけど、詰められている事自体は変わらない。矢継ぎ早に質問責めにされる。しかも投げられるそれは追い詰めるように鋭い。イスに座っていて下がれないのに、後ろに引きたくなってしまう。



「あーそれに関してはこっちっスわぁ」



 目の端で何かが左右に揺れ動いた。それはカジキの手だった。ヴァルターさんの視線もカジキに流れているみたいで、さっきの返答で目で射抜いて来そうな程こちらを見て来ていたのに、今は目が合わない。



「さっきも言ったように何でも屋みたいな事してるんで。あいつ捕まえたら報奨金貰えるってんで追いかけてきたっつう訳で。それが結構な額だし、依頼もそんな多くないから、ならそいつ追いかけて捕まえりゃァいいやってね」



 カジキの方を見ると、指が目に入った。思い切りこちらに向けられている。



「んで、今から就職っつう感じのコイツと手ぇ組んだわけだ。暇そうだし、人手が欲しいしな。そっちの嬢ちゃんとは後で出会った。追いかけるにも路銀がいる。だから嬢ちゃんと一緒に働きつつ……ってこんだけ言えばわかるか?」

「……ふむ」



 機転を利かせてくれたみたいで、私と手を組んだ理由はそれっぽい──というか、さすがにあの少年と話したいからというのは理由としては納得させづらそうだし──嘘をついてくれた。カジキの調子は嘘をついている時ですら一貫しているからか、特にヴァルターさんは引っかかりを覚えた様子はなかった。心の中でだけカジキに親指を立てておく。



──これなら信じてもらえるんじゃ?



 今のところはヴァルターさんから否定や疑いの言葉は出て来ていないし、考えているみたいだった。



 良い方向に傾きそうだと思っていたら。軽い音が一定のリズムで数回聞こえた。ドアの方だ。ノックされたらしい。振り向いてドアの方を見てみたら、ドアが空いて騎士が入ってきた。



「ここにいたのか、デイビーズ」

「どうかしたか」



 入ってきた騎士は同僚に話しかけるような調子で声をかけてきた。デイビーズ。そう呼ばれて返事をしたのはヴァルターさんだ。ファミリーネームがデイビーズなのかも。


 ヴァルターさんをデイビーズと呼んだ騎士は、どうやらヴァルターさんに用があるみたいだった。



「まだ聞いてないのか。今来てるらしいぞ」

「……来ている、とは?」

「団長」



──団長? ……って騎士団長の事? クライトさんが来てる?



「何っ、団長が来ておられるだと!? もう帰って来られたのか!」



 何かが破裂でもしたのかと思った。落ち着いていながらも突き刺すような言葉でチクチク刺して来ていたヴァルターさんから出てきたとは思えない大きな声が室内を独り占めしている。


 馬車に乗っていた時、声を張っているなと思ったけれども。あの時は馬車だし呼び止めだし、意識的に大声を上げていそうだから特に気にしてなかったけど──この人、力が入ると共に声が大きくなるタイプなんじゃなかろうか。



 まあそれは一旦置いておくとして。クライトさんがこの場所に来ているって入ってきた騎士の人は行っていたな。

 クライトさんとは数度話した程度だし、二回会っただけだけど証人になるかも。今良い兆し自体見えてはいたけど、少しでも誤解が解けるならその方が良い。出来れば、クライトさんに会いたいところだ。



「あの」

「こうしてはいられない。出迎えねば。貴殿らの話は後ほど聞く。休息をとっているといい。話の途中のため、旅券はもう少し預からせてもらう」



 何か言う前にヴァルターは席を立った。忘れずにテーブルの上にある私たちの旅券も持って、目で動きを追っていたらすぐに見えなくなる。見張りに立っていただろう騎士も、礼をして部屋から出ていった。



「……行っちゃった」

「休息っつう事は、この部屋から出ていいって事だし出るか」

「そうですね」



 休憩スペースも一応あるみたいだし──今私たちがいる階層には見当たらなかったけど──見張りの騎士もいなくなったっていう事は再開まで自由にしていいって言う事なんだろう。旅券はヴァルターさんが持っていってしまったし、騎士達がたくさんいるし、疑われるだけだからここから出るような真似はしないけど。


 カジキには同意したけど、カジキは恐らく設けられた休憩スペースで休むつもりだろうけど。私はむしろクライトさんに会いたいので、ヴァルターさん達が向かった方に行きたい。



「私はクライトさんに何とか声を掛けるけど、カジキ達はどうする?」

「騎士団長サマに? へー」



 一旦部屋を出て二人にどうするか聞くのと同時に、私がやりたい事を伝えておく。

 クライトさんの知っている限りの私達の動きや印象を説明してもらうため、クライトさんと接触したい事を伝えるとカジキはジロジロと見てきた。あんまり声に感情が乗って無さそうなのに薄っすら口元が横に開いているような。



──あ。そういえば。



 成人の儀の日。一緒に成人の儀に参加したアイリスが、クライトさんに向ける眼差しを思い出す。アイリスだけじゃない。他の人が何人もクライトさんを見ていた。


 つまり。クライトさんに憧れる人は多いんだろう。しかも、そういう人が多い事は周知の事実っぽい。



──と、なると。



「あの。一応言っておきますけど、個人的な目的じゃないですから」

「ふーん」



 信じてくれたのかいないのか。カジキからは何とも読み取れない反応が返ってきた。とても疑いが晴れたとも思えない。晴れてないとも思えないけど。なんだろう。この覚えのある感じ。でも嫌な感じ。

 ──ああ、あれだ。本当に違うから否定しているのに本当のところは分かってるみたいな反応してくるアレだ。あれみたいな気配がして嫌な感じがするんだ。



 アレは否定すればする程余計にそう思われるから、これ以上言いたくないけど。誤解もされたくなくて言いたい気分になってくる、けど。我慢だ。



「ソーニャは? どうする?」

「うーん……どうしよう。あの子達のご飯とかもあげたいけど、今馬車に近付くのは良くないよね。でも悪い人達じゃないし、お世話お願いするだけお願いしてみようかなあ」



 馬車は所定の場所に置かれているから、逆に騎士達の見張りがある。話も途中だし、馬車に近付くのは逃亡と見られかねない。

 それをソーニャは分かっているようだけど、馬達の事も気になるようだった。ソーニャはしばらく馬の事とかその辺の事してそう。



「じゃあ……みんな一旦バラバラだね。またあとで」

「うん。あの子達の水とかご飯何とかあげさせてもらえたら、わたしも休憩スペースに行ってるね」



 それぞれの行動も決まったし、一度部屋を出たところで解散した。

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