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16-4












 二人と別れてすぐにクライトさんを探す。ヴァルターさん達は出迎えに行ったようだし、人が集まってる方にいそうな気がするけど。



「あ」



 人の塊を探して右を向いたら、入口近くになかったはずのものが出来ていた。騎士。騎士の列だ。

 この検査を行う砦にこれほどの騎士がいたのかと思う程に、騎士が並んでいる。大体同じくらいの間隔を空けて列になっているのが、組織だって見せつけられている感覚だ。何だか足がそっちに動こうとしてくれない。



──でも……あれだけ並んでいるっていう事は。



 高い背中が多く並んでいるせいでよく見えないけど、その先には彼らの上の身分である騎士団長のクライトさんがいるはずだ。

 見た時は動かなかった足がゆっくりと私の意思に従ってくれたので、その整列している騎士達の後ろまで来た。この体イルドリの身長は低くはないんだけど、彼らには敵わない。


 ジャンプしたところで騎士の上から覗く事は出来ないので騎士と騎士の合間から覗いてみる。重なったデコボコな隙間の奥には、人の形が見えた。向いている方向的に恐らくクライトさんだろう。



「遠征で疲れているでしょうに……お立ち寄りいただきありがとうございます」



 ついさっきまで聞いていた声が聞こえてきた。違う隙間から覗いてみる。何人かの騎士に混ざってヴァルターさんらしき銀髪がちらりと端から出ていた。話しぶりからして、ほぼ間違いなくクライトさんがいる。


 クライトさんに気付いてもらえるようにしたいけど、ここからじゃ見えなさそうだ。私の方からも見えるのは体の一部くらいだし。



「やけに人数が多いが、何かあったのか」



 騎士の塊を迂回していたら、クライトさんの声がはっきりと聞こえた。検査されていた私達の方も異常のように思っていたけど、騎士団長であるクライトさんにとっても正常な状態ではなさそうな口ぶりだ。



「現段階では……そういう訳では無いのですが……」

「現段階では、という事は何か予見があったのだろう。報告を」

「アイ・アンズ!」



 声がもっと近くなっていくと、ヴァルターさんの声がクライトさんの声を掻き消すくらいに聞こえた。それはもう耳元で話しているのかと思うくらいに。



──どこに居ても見付けやすそうな人だなあ……。



 最初に見た時の真面目そうな印象は変わってないけど、声のボリュームでその印象をぶち壊されそうだ。



「あ」

「何か」



 迂回してきて、列が途切れたかと思えば騎士と目が合った。背中を向けている他の騎士達とは違って、完全に彼はこちらを向いている。騎士団長もいるし、護衛に立っているのかも。護衛の騎士の目は私に向いているけど、何となく背筋がうずうずする。下手な事を言ったら最悪取り押さえて来そうだなあ。



「えーっと……休憩と言われたので見て回ってるんです」

「では今はこちらには近付かないように」



 適当にそれっぽい事を言ったら、彼の視界から消されてしまった。でもクライトさん達のいる方に無理に踏み込もうものならすぐにこちらに向いて来そうだ。



──何とか……何とかクライトさんの視界に入らないかな。



 前の方には行かないでその場で左右に動いてみる。

 見えない時に見ようとする動きみたいだなと我ながら思うけど、私の方からは今はクライトさん達はバッチリ見えている。クライトさんはヴァルターさんと数人の騎士と話をしているみたいだけど、さっきよりは聞こえない。多分さっきよりは声量を落としたんだろう。



「まだ何か」



 声に感情が乗って無さそうな声がまた私に飛んでくる。もちろんすぐ側にいる護衛に立っている騎士だ。彼がいる限りは難しいか。



──クライトさん、様子見にだけ来たのかな。もうヴァルターさん達にも教えちゃったなら、クライトさんにも伝えて良い気がする。

 というか、伝えたらクライトさんなら協力してくれそうな気がするんだけど……。



「あまり怪しい行動をするようなら牢に入れるぞ」

「えっ!」



──え、ここ牢屋もあるの!?



 何かしらの答えを出さなかったからか、護衛の騎士からは厳しい言葉が飛んできた。検査した結果何かしら問題が発覚した人なんかを一時的に入れておくためだろうけど、牢屋なんて聞くと体は自然と引いてしまう。さすがに牢には入れられたくない。



「す、すみません……」



 クライトさんがすぐに立ち去らない事を願って今は離れるようか。足だけが後ろに歩き始めながらも、クライトさんの方を見れば。クライトさんがこっちを向いていた。

 ある程度あった距離が埋まっていく。声も姿もはっきりとわかるくらいに。



「何か揉めている声が聞こえると思ったが……貴女きじょだとは」



 さすがに今回会うのが三回目だからか、クライトさんは私を認識してくれているみたいだった。迷いなく話しかけてくれて、さっきまで話していた護衛の騎士は何度も何度も顔が細かく動いている。私とクライトさんに交互に顔が向いていて、親しいとまでは行かないけど初対面でも業務的なやり取りをしている感じでもないから測りかねているっぽかった。



「団長のお知り合い……ですか?」



 私とクライトさんの関係性を実際に騎士は尋ねてきた。クライトさんに会った回数も少なければ、話した内容も少ない。でも一応お互いに名前は知っているし、知り合いにはなるだろうか。



「ああ、知人だ。警備ご苦労、下がっていい」



 彼女は騎士の質問に、私が考えている間に返事をしていた。その上で騎士にも下がるように言ってくれる。騎士は何の反論もなく、騎士団長であるクライトさんに向かって一礼をしてその場を離れていった。

 クライトさんの後ろを見れば、数人の騎士の姿が目に入った。その中にはヴァルターさんもいて、目を見開いているように見える。私も驚きだ。主に彼女が知人だと断言してくれた事に。

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