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16-5





 さっきまで私を睨んでいた騎士がいなくなってから。「それで」と話を切り出したのはクライトさんの方だった。



「話は聞いた。急遽行われた検査を受けて、貴女もここに連れて来られたのか?」

「あ……はい」



 私達に関しては詳細までは聞いていないみたいだけど、彼らが普段ならやらないような場所で検査をしていた事は聞いたみたいだ。そしてその検査で何かしら怪しまれた者はここに連れて来られた事も。



「酷く驚いた事だろう。騎士団長としてその事に関して非礼を詫びたい。申し訳ない。手荒に扱ったりはされなかっただろうか」



 ブラックバーン式ではなく、ビア国での謝罪の礼がクライトさんから行われた。その礼をしたまま、クライトさんは動かない。もしかして私が何か言わないと元の状態に戻らないつもりだろうか。彼女の立ち振る舞いからスマートだけど、深い謝罪が伝わってきて、なんだか過剰に思えてしまった。



「い、いえ! 手荒な事はされてないです」



 実際、疑いはかけられて驚きはしたしこんな事になったけど。ここまでを思い出してみてもどの騎士もそんな事はしてきていない。圧は感じたし。一人は声のボリュームがおかしかったりしたし。問い詰められたりとしたし。強制力は感じはしたけども。

 馬車から降ろされた時も馬車に再度乗った時も、腕を引っ張られたり突き飛ばされたりとか手荒く扱われた記憶はない。馬車の中でも普通に飲食とかもさせてもらえたし。


 本当にそんな事はされていない。否定すると、クライトさんはゆっくり元の姿勢に戻った。吐息が一つ出てきたのが聞こえた。



「そうか。しかし、それとは別に一つ気になる話を聞いた。話を伺いたい」



──あの少年の件だ!



 見張っていたあの騎士とちょっと言い合いみたいな事をしている間。よく聞こえなくなってきていたけど、ヴァルターさんはクライトさんに共有したんだろう。彼女に証人として私達の身分をある程度は保証してもらえるどころか、騎士団長直々に協力をしてもらえるかもしれない。断る理由はなかった。



「はい! 話させてください」

「私も話を聞いていても構わないでしょうか?」



 むしろこっちからお願いすると、後ろで控えていたヴァルターさんが話に加わってきた。ヴァルターさんはクライトさんをまっすぐ見ている。



「ああ、無論だ。話次第ではどのみち皆に共有する話だ」

「ありがとうございます」



 同席の許可が下りた。ヴァルターさんも引き続き話を聞くらしい。

 話が纏まったので、さっき私たちが尋問された部屋に戻ってきた。中には当然カジキもソーニャもいない。二人は休憩スペースで休んでいるだろうから。



──呼んで来ようかな。いや、詳しい話が一番出来るのは私だろうし、いいか。



 休憩スペースの場所も分からないし、呼ぶ程の事でもない。というか私一人で話せる問題だ。だからこそ二人とは別れたんだし。なので二人を呼び戻すのはやめておいた。



「話に関してだが」

「その前に。話ってどこまで聞いていますか?」



 多分さっきと同じ席に座ると、早速話が始まった。正面にはクライトさん。横にはヴァルターさんが立っている。同席すると言っても部外者的立ち位置だと思っているのか、座ったらいいのに座ろうとしない。あくまで話を聞いているだけで、口を挟まないという彼からのメッセージだろうか。まあ変に横槍を入れられるよりはいいか。


 とりあえずは、クライトさんがどこまで聞いたのかの確認だ。クライトさんとヴァルターさんの話は全部聞けていないし。ヴァルターさんにそこまで話した訳ではないけど、省略出来る部分は省略しておきたい。



「ふむ。聞いた限りでは、貴女らはビア国で盗みを働いた犯人を追いかけている。そのために商人である仲間と路銀を稼ぎつつここまで追って来たと」



 私とカジキが話した内容の大半だ。纏めてしまうと短いし、細かいところは省いているみたいだけど。それでも、話した内容のほとんどは知っていそうだ。これなら続きぐらいから話しても良さそうだ。



「その犯人はビア国でも盗んだあとフェロルトでも……襲撃して盗もうとしたんです。……多分公にはなっていないので、詳細には話せませんが」



 あのあと研究所の人にお礼として宿には泊まらせてはもらったけど、少年を追ってフェロルト国を出たし国が発表したかは分からない。聖遺物自体は戻って来た。でも研究所の方は被害が大きかっただろうから、発表はしてそう。だとしても、こっちの国までは出回ってないだろうけど。



「そこであの少年が盗もうとしたのが……ビア国と同じく国の宝でした。結果的には彼は捕らえられませんでしたが、持っていかれずに済んで。でも、あの少年はまたどこかへ行って……」

「それで、次は我が国だと踏んだか」

「はい」



 ビア、フェロルトと聖遺物を盗もうとしていて。次なる地に旅立った。そうなったら次の国であるブラックバーンが候補になるんじゃないか。私達が来た理由もそれで分かってくれるんじゃないだろうか。


 話すと言っても、それ程話す事は多くはない。ヴァルターさん経由で話もある程度は伝わっているし。だから話すとしたらこのくらいな気がする。




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