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16-6






「……そうか。それで私にどこにあるか聞いたのだな」

「あ……そうですね」



 フェロルトでクライトさんに会った時、聖遺物の場所を聞いたけど。あの時聞いたのは正解だったみたいだ。お陰で納得するための材料にまでなってくれた。



「その人物が騎士団本部に盗みに入りに来る可能性はあるな」

「あの、騎士団本部って……もっと騎士がいるんですよね?」



 ブラックバーンの聖遺物の場所は騎士団本部。騎士たちの大勢いる中へと入らなければならない。

日々鍛錬していて、ブラックバーンという国の立地的に害をなす生物達と日や戦っている人達がいる真っ只中にだ。だけど、あの少年は戦いが上手い訳じゃない事がフェロルトでの戦いでわかった。

 ビア国は王城だし見張りの兵士だっていたけど少人数だったはず。フェロルト国だって、研究所の中だったから人はいれど戦いに慣れた人は多くはなかったんじゃないだろうか。


 そう考えると、あの少年だって簡単には盗めないはず。



「……確かに、我が騎士団の本部にはまだ騎士がいる。今は普段よりはこちらに割かれてはいるが」

「だったら、あの少年から盗まれるのは防げそうですね!」



──問題はあの少年の持っている魔石かな。広範囲に効くみたいだし、屈強な騎士団でも、視界を塞がれたら抜けられてしまう気はする。

 それでも、慎重に動かないと戦いになる。だから自ずと少年も慎重に動きそうだ。



「ヴァルター・デイビーズ」

「はっ!」



 今まで静かだった室内に声が木霊する。途端にヴァルターさんの存在感が増した。増したどころかこの一室を支配したまでありそうだ。

 漸くスポットライトの当たったヴァルターさんは良い返事をして、敬礼だろう礼をクライトさんにしている。



「私は急ぎ騎士団本部へと戻る。私が不在であるからと混乱するような団員達ではないが、団長として指揮をとらねば。ここで網を張っているのは悪い手ではない。このまま、度の過ぎぬ程度に怪しい者は検査を続けるようにと他の騎士達に伝えておいてもらいたい」



 クライトさんからしたら、相手が各国で盗みを働いている少年である事しかわかっていない。だからか、万全を期してすぐさま騎士団本部の方にクライトさんは戻ると決めたみたいだ。それなら私たちも向かった方が良さそうだ。



「あ、それなら私たちも……! 中までは入れないとは思いますが、それでも本部の前とか外で捕まえます!」

「……ああ。私たちはその盗人に関する情報を持たない。ご助力いただけると助かる」



 確かにクライトさんの言う通り、ブラックバーン側にとってはあの少年に対する情報は少ない。私が出した情報で知ったくらいだろう。受け入れてくれるどころか、協力者として扱ってくれるようだ。

 それなら、私も二人を呼んで早速騎士団本部に向かいたい。誤解も解けただろうし、これでやっと少年を追える。



「急いで呼んでくるので、私たちも一緒に出発していいですか?」

「可能ならばそうしてもらいたい」



 聞いてみれば、すぐに許可して貰えた。二人がいるだろう休憩室に急ごう。



「団長」



 先に出ようとしたクライトさんが呼び止められている。騎士同士の話かな。それなら邪魔をするのは悪い──とは思うけど気になってしまう。

 ドアが閉まる音がしていないから、私がまだ室内に留まっている事は二人共気付いているだろうに、こちらを見ない。聞かれても困る内容ではないのか、それとも少年の捕縛に

関係する事なのかもしれない。


 ヴァルターさんが大きく息を吸った。意を決したみたいに。



「私も同行させていただけませんか」



 真剣な顔でヴァルターさんが願い出たのは同行だった。同行。つまりは、彼も今からあの少年を追うのに加わるという事だ。彼には詰められて、良い思い出が今のところ一つもないけど──彼の立場からしたら正当ではあった。


 冤罪でもあるけど。

 複雑な気持ちがありはしても、悪い印象は抱いてはない。

 だから戦える人が一人でも増えてくれるのならば、むしろこちらからお願いしたいくらいだ。



──ただ、ちょっと距離を取るかもしれないけど……。物理的に。



「戦力は一人でも多い方が良い。私は構わないが……貴女きじょはいかがか」

「えっ」



 空気になっていたら、クライトさんがくるりとこちらを向いた。突然だったので、すぐに返事が出来ず。ヴァルターさんをチラッと見る。

 ヴァルターさんまでも、こちらを見ていた。成り行きを静観している。ただこっちを見ているだけ、ではあるんだけど。向けてきている目が私が頷く事を期待していそうな。圧を感じるってほどではないけど。



「私も……大丈夫です。その方が私も助かりますし……」



 すごく見られているので言いにくくはあったけど、言った。ヴァルターさんは何だか見れないので、クライトさんの方を見る。クライトさんは私の意思を確認すると、深く頷いてからヴァルターさんの方を向いた。



「という事だ。準備が出来次第、馬を出せるようにしておくように」

「許可してくださりありがとうございます、騎士団長。すぐに用意します」



 一礼して、ヴァルターさんが一番に出ていった。休まずそのまま出発の手筈を整えるつもりなのかな。横を通っていったのに私には目もくれなかった辺り、そうかも。



「では失礼する」



 クライトさんの方は一言言ってから出ていった。

 結局最後に出ることになった私は、急いで休憩室だ。二人を呼んで説明もしないと。

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