と、まあ。なんやかんやありまして。
「ほら、これでいいだろ。頼むからもう揉めないでくれな」
「「……」」
二人の喧嘩からおよそ数分後。結局肉と野菜を綺麗に半分ずつ直焼き用と串刺し用に分けて用意することで、俺たちは仲裁を成功させたのだった。
「で、なんでお前もちょっと不機嫌そうなんだよ」
「……私のお料理シーン、カットされた」
「おい、メタいこと言うなよ。ちゃんと俺は見てたって。凄い包丁捌きだったぞ、三葉」
「むぅ」
仕方ないだろ。二人の喧嘩シーンのせいで思ったより尺取っちまったんだから。
しかし実際のところ、三葉の包丁捌きは本当に凄かった。お料理……って感じの切り方ではなかった気がするが。とりあえず今本人は頭なでなででまんざらでもない表情してるし、これ以上深掘りはやめておこう。
とにかく、これでようやくバーベキューを始める準備が完全に整った。肉だ肉!!
「ねえ、周りからずっといい匂いしてる。私たちも早く食べよ」
「よし。それじゃあ焼いてくか!」
お魚さんの匂いはどこへやら。既に肉を焼き始めた奴らがいることによって、ここら一帯はもうジューシーな匂いで溢れている。いい加減俺も我慢の限界だ。
そしてそれは雨宮と中山さんも同じなようで。「じゅるっ」と分かりやすい腹減りの効果音を鳴らすと、トングを手に取った。
「肉を前に……喧嘩なんてしてらんねえよな」
「だね! 焼こ焼こ!!」
雨宮は肉をそのまま豪快に。中山さんは三葉と作った肉と野菜を交互に刺した贅沢串を丁寧に。網の上へと乗せていく。
じゅうぅぅぅぅっ。網が肉と野菜に触れ、力強い音を立てる。
こんなに食欲を掻き立てる音もそう無いだろう。それに匂いも。煙に乗せて鼻腔をくすぐる肉の焼ける香りは、もうこれだけで白ごはん一杯平らげてしまえるほどの破壊力がある。
「わくわく。わくわくっ」
「まだ生焼けだぞ。もうちょっと待ってろって」
しかし、限界を超えた空腹状態の俺たちにとってそれは、ある意味毒でもあって。
特に気合を入れて腹を空かせていた三葉は、油断すると今にも生焼けの肉に齧り付いてしまいそうだ。
「ふふっ。お腹ぺこぺこで苦しいけど、このお肉が焼けるまで待ってる時間も醍醐味だよね〜。これだけ我慢した後に食べるお肉は絶対美味しいよぉ!」
「お、なんだお前分かってんじゃん。バカにもちゃんと待ち時間ってやつを楽しめる心はあったんだな」
「なんでいちいち鼻につく言い方するかなぁ!? 素直に褒めてよ!!」
「はは、雨宮のくせにな」
「……おいちょっと待て。なんか今急に後ろから刺されなかったか??」
「じゅるっ。じゅるるるるっ」
なんか生意気なことを口ずさんでイキる雨宮に思わず笑ってしまいながら、肉を裏返していく。
いい焼き色だ。綺麗な網のおかげで引っ付かないし、火の通りも早い。これなら案外すぐに完成しそうだな。
バーベキュー串に焼肉、焼き野菜にアルミホイルで作った即席容器で作られていくバターコーン。まずは何から食べようか。やはり最初は焼肉か? いや、串にかぶりつくのも悪くない。
なるほど、待ち時間が醍醐味というのはこういうことか。この贅沢な悩みに振り回される時間は確かに良いものだ。
なんて。恐らく俺と同じように全員がワクワク感に包まれ、テンションを上げていく中で。一番分かりやすい人が、一番分かりやすい形で声を上げる。
「そうだ、今のうちに写真撮っとこーよ! 学校のカメラマンさんが回ってるけどそれとは別で、なんかこうエモいやつ!!」
「お、いいなそれ。食べ始めたら止まらなくなりそうだし。特に三葉」
「ひ、人を食いしんぼみたいに言わないで!」
「ったく。しゃーねえなぁ」
エモい写真、と言われ、全員が意図せず無意識に。手元のジュースが入った紙コップを手に取る。
中山さんや雨宮はともかく、生憎と俺と三葉には友達と呼べる相手がほとんどいない小中学校生活を送ってきた。それ故に分かりやすく″青春!″って感じの写真がどんなのだとか、そういうのは分からないけれど。
やはり友達とご飯となればこれしか無いだろうと思う気持ちは、同じだったようだ。
「こういうの、初めて。ちょっと……恥ずかしい」
「えへへ、恥ずかしがらなくていいよ三葉ちゃん! 私たちもう友達なんだし、これからも何枚も撮っていくことになるんだから!」
「っ!? そ、そう」
「だってさ。よかったな、三葉」
「……ん」
微かに三葉の頬が紅潮し、ぎゅっ、と俺の服の裾を摘む。
「うわ出た。距離感バグ女め」
「ば、バグってないもん! それより雨宮! 自撮りのやり方教えてよ!!」
「あぁ? ったく。どんだけ音痴なんだよ……」
突然あんなことを言われて、やっぱり恥ずかしかったのか。でもそれ以上に……とても、嬉しそうだ。
きっと中山さんにとってはそれは普通のことで、特段意識もしていない当たり前の台詞だったのだろうけれど。それをこうやって簡単に言えてしまえるような人は今までただの一人も、三葉の近くにはいなかったから。この人がクラスメイトで、本当によかった。
「よぉし! それじゃあ二人とも準備して! せーので撮るからね!」
雨宮が隣から間接的に操作し、インカメラに切り替わったスマホを限界まで伸ばした腕の先で構えながら。中山さんは、叫ぶ。
「せーのっ!!」
そして、それと同時に。俺たちは手に持っていた紙コップを前に突き出してーーーー交わした。
「「「「乾杯!!!!」」」」