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第67話 心配性

 マップ画面の経路に従いながら、三つ目島通りを進む。


 結局、私のことを信用しなかった雨宮が調べ直して。先導するように前を歩いていた。


 本当はちゃんとその店が実在していた時点で私がマップを見て案内したかったけど……。残念ながら、地図を読むのが下手すぎて無理だった。


「お、ここか」


「うわ、列できてる。雨宮がグズグズしてたから出遅れたじゃんか!」


「ぐ、グズグズしてたのはお前もだろ!? 私がマップやるとか言ってその場からしばらく動こうとしなかったのはどこのどいつだよ!」


「うっ……!」


 そ、それを言われると。言い返す言葉が無い。


 だけど、雨宮がグズグズしていたのもまた事実。私が黙り込むとそれ以上追撃してくることはなかった。


「とりあえず並ぶぞ。ここまで来たんだし」


「……うん」


 最後尾に並んで前にいる人数を数えると、ざっと二十人。


 当然全員がおひとり様なわけではなく、テーブル席にまとめて案内される人の方がほとんどだろうから。そう考えたらざっと待ち組の数は並んでる人数の半分。十組といったところか。


 まあカフェやファミレスじゃないんだし? あまり長居する人はいないと思うから、もしかしたら案外時間はかからないのかもしれない。というかかからないで。お願い。


「どうした? なんか落ちつき無いな。まあいつものことだけど」


「ひ、一言余計だよ! 落ち着かなくて当然でしょ? こんな、色んな人から見られる場所で並ぶなんて……」


「ああ、そういうことね」


 私たちの選んだお店、「はなみ」は、いわゆる有名店というやつだ。


 だから多少は並ぶことも覚悟していた。していた、けれど。


「逆に雨宮は落ち着きすぎじゃない!? こんなの、いつクラスの子達が横を通り過ぎてもおかしくないんだよ!?」


「え? あー、まあな。俺は見られることに特になんとも思ってないし」


「そ、そうなの?」


「おう。だって普段の俺の姿を見てたら、お前と付き合ってるなんて勘違いする奴もそうそういないと思うからな」


「……確かに?」


 ふっ、と謎の余裕笑いを見せるその姿に多少動揺しながらも。心の中で、「納得」の二文字が浮かび上がる。


 言われてみれば、その通りだ。


 雨宮の若月先生への好意は、もはやクラスにとどまらず同じ学年の中ならかなり知れ渡っているところ。


 つまり、好きな人を実質的に公言しているようなものなのだ。そんな状態でクラスの女子と二人でいる場面を目撃されたところで……ということなのだろう。


「だからお前も堂々としてろよ。そんなふうに挙動不審だと余計怪しいぞ?」


「きょ、挙動不審なんかじゃないもん!」


「どの口が言ってんだ。目、泳ぎまくってんぞ」


 だ、だって。仕方ないでしょ。


 こんなのやっぱり……落ち着かない。


 雨宮はこう言ってるけど、そうやって他に好きな人がいるからなんて無敵の返しをできるのはそっちだけの話で。私はそうはいかない。


 だから雨宮から私への好意は否定できても、私から雨宮の分に関しては……いや、絶対違うんだけどね!? 私が雨宮をーーーーとか。そういうのはマジで無いし、あくまでここにいるのは友達だからでしかないけど!


 ただ、それを説明してちゃんと納得してもらえるかは分からない。”もしかしたら”なんて恋愛の話題は、私たちのような年代にとっては大好物だから。


「ったく。バカのくせに心配症なのな」


「雨宮が心配しなさすぎなだけだよ! いい? 女子はみんな恋バナ大好きなの! 少しでも匂いを感じたら話題にして、あることないことまで話を膨らませちゃうもんなんだよ!!」


「うわぁ。これだからガキんちょは」


「雨宮も同い年でしょぉ!?」


 さも自分はもっと大人だ、とでも言わんばかりなその態度をとられ、思わず声を荒げる。


 雨宮め。大人の先生を好きだからって自分まで大人みたいにして。調子に乗って……ッ!


「っと。そんな話してる間に何組か呼ばれたな。ほら、列進むぞ」


「……」


 何か言い返せないものか。


 前の人との感覚を埋めるように三歩ほど進みながら頭を回すが、何も浮かばない。


 やっぱりすでに好きな人が周りにバレているというのは強すぎる。せめて若月先生がこの校外学習に来ていたら、雨宮にとって”この状況を見られたくない相手”になって少しは私と同じになるのに。


 ……いや、先生が来ていたらそもそもこんなことにはなっていないわけだから、どちらにせよ、か。


 駄目だ。雨宮をぎゃふんと言わせてやりたいという漠然とした気持ちはあっても、その材料が無さすぎる。


「……ああもうっ! 考えるのやめた! なんか面倒臭い!!」


「そうだそうだ。バカはバカらしく、何も考えず楽しめばいいと思うぞ?」


「ふんっ、だ。そうやって人のことをバカバカ言ってたら、絶対いつか痛い目見るからね! その時は守ってあげないから!!」


「痛い目、ねぇ……」


 結局そんな、どこか負け役の三下みたいな台詞くらいしか吐くことができずに。また一つ、列が進む。


 列に並んでおよそ十数分。気づけば周りをキョロキョロするのをやめてしまっていたから、誰かに見られたかどうかは定かではないけれど。まあとにかく。



 念願の海鮮丼にありつけるまであと、少し。


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