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第82話 イチャイチャビデオ通話3

(にしてもコイツ、マジで可愛いな……)


 カメラ越しに、おおよそお腹あたりまで見えている三葉の全体像を改めて眺める。


 正直、両鼻に詰められているティッシュなんてなんのデバフにもなりはしなかった。やっぱりそれくらい郡を抜いて、可愛い。


 俺のことを歩く鉄毱なんて言ってくれたけどな。破壊力で言えば、間違いなくコイツの方が上だ。


 ただでさえ普段から可愛く整っている顔に、ギャップを誘う髪型。そして何より俺に刺さったのは、このもこもこパジャマだ。


 色は茶色でくまさんモチーフだろうか。あまり三葉が自分で選ぶような服装ではないし……多分おばさんのチョイスだな。


 流石は三葉を誰よりも溺愛するあの人だ。輝かせ方ってものをよく理解している。


 確かに三葉はどちらかと言えば可愛い系よりもスポーティー系とかを選びがちなんだけどな。しかしだからこそ、このチョイスは素晴らしい。


 髪の話と同じだ。普段着なさそうな服を実は家でのみパジャマで着ていたというのは、まさに″ギャップ″そのもの。そしてそれが可愛さ全振りのもこもことあればもう文句のつけようがない。彼氏さんが満点をプレゼントします。


『そ、そういえばまだ聞けてなかった。このパジャマ、どう? やっぱり……変?』


 しかし、そんなふうに心の中でベタ褒めをする一方で。三葉は髪をいじいじしながら、どこか不安そうに。俺に問いかける。


「へ? なんだよ、やっぱりって」


 変なことを聞いてくるもんだから。思わず質問に質問で返してしまった。某奇妙な冒険のサラリーマンさん相手にやったらブチギレ確定だな。


 でも仕方ないだろう。「やっぱり変?」なんて言って。いつもは自信満々に「どう? 可愛いでしょ?」とでも言わんばかりに私服を見せつけては誘惑してくるコイツからは考えられない自信の無さだ。そりゃ聞き返したくもなってしまう。


『だ、だって。こういう格好、しゅー君の前だとしたことないから。好みじゃないかも、って』


「……わざと言ってんのか?」


『? な、なんのこと?』


「ああいや、すまん。んなわけないよな」


 俺の反応にきょとんとしてしまった三葉に慌ててフォローを入れて。ごくっ、と唾を飲む。


 どうやら、見せ方を分かっているのはおばさんだけではなかったらしい。とはいえコイツの場合は完全に天然だろうけどな。


「か、可愛いよ。めちゃくちゃ……似合ってる」


『っ!? そ、そう? なら、よかった。えへへ……』


 はい反則! もう一から十まで何もかも反則ですよねコイツ!!


 ただでさえもこもこパーカーを着たってだけで充分ヤバかったのに。そこに様々なギャップ要素×恥ずかしそうな表情×褒められたら頬を赤くしてえへへだと??


 駄目だ抑えろ。今は我慢だ。確かにあの窓の向こうたったの数メートル先にコイツはいる。だけど今直接顔を合わせたら終わりだ。絶対にこの部屋に招き入れてしまう。なでなでしまくってしまうッッ!!


 お、落ち着け? クールダウンだ。もしそんなことをしてしまったらもう色々と問題過ぎるぞ俺。


 とと、ととっととっとりあえずだ。一旦そんな不埒な考えは忘れなければ。


 ほら見てみろ、目の前の純粋無垢な顔をした彼女さんを。そうだ、もうとてもじゃないけど現実には存在しないはずの可愛さしてるし、いっそのこと佐渡三葉さんは今だけ二次元の住人だと割り切ってしまおう。端から画面の中から出てこれない女の子だって思ってしまえば直接触れたいなんて考えには至らないはずだ、うん。


 コイツは二次元のキャラクター。三次元にはいない、架空のーーーー


『ど、どうしよう。いつもよりかっこいい彼氏さんに褒められて、心臓が凄い音してる。直接会って聞かせてあげたいくらい……大きい』


 画面から今すぐ出てきてくんねえかなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああっ!?!?!?


 クソッ、駄目だ。この程度の認識改変じゃコイツに今すぐ会いたい気持ちを中和するなんて到底無理だった。


 もう心が叫びたがってるなんてもんじゃない。とっくに叫んじゃってるんだよ。油断したら本気で口に出しちゃいそうな勢いで!


 直接会って聞かせてあげたいだぁ? 上等じゃねえか。今すぐ聞きに行ってやーーーーって、待て待て待て。落ち着け。マジで落ち着け俺。なんかもうキャラ崩壊しそうなレベルでとち狂い始めてるぞ。


 自分でもはっきりも分かってしまうくらい。興奮で息遣いが荒くなっていく。


 このままでは、本当にまずい。


 何がまずいって、俺の方から会いたいと口走ってしまいそうなのは言わずもがな。それよりもっとヤバいのは……


(もし今、本気で会いたいって言われたら。俺、絶対断れないよな……)


 そう。向こうから迫られた時に、断れないことだ。


 そしてその展開が訪れる可能性は十二分にあり得るわけで。もはやいつ言葉にされてもおかしくない。


 だってそうだろう。そもそもこの通話は、甘えんぼな三葉がどうしても俺の声を聞きたくなってしまったからと始めたもの。しかも結果的にはビデオ通話まで提案してきて今に至るわけだから、俺の顔を見たいと思ってくれたのも事実。


 ならもう、このまま直接会いたいってなるのは自然な流れなわけで。


『ねえ、しゅー君』


「っ……!?」



 そんでもって、俺のこういう悪い予感は……大概、当たるのだ。

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