「そ、それって……」
「ああ、間違いない。最悪だ全く」
雨宮から昨日の出来事を全て聞いて。同様に、俺も全てを察することとなった。
中山さんの友達が悉く一緒に勉強するのを断った理由。それはおそらく、″勘違い″からだ。
発端はやはり校外学習の一件か。大方二人でいるところを誰かに見られて噂でも広がったんだろう。
どおりであの雨宮がこんな面倒なことを引き受けるわけだ。たしかにこうなってしまっては、よほどの人でなしでもない限り中山さんを放っておくことなんてできないもんな。
「まあその、あれだ。よかったよ。とりあえずお前の中にはまだ良心が残ってるみたいで」
「……うるせぇ」
元々二人が一緒に校外学習を回ることになった原因は、雨宮が若月先生と校外学習を回れないショックから意気消沈してしまったことにある。
だからきっと、本人なりに責任を感じている部分もあるのだろう。なにせ中山さんは雨宮を元気づけようとしてくれたわけで、結果的にそのための行動が噂を呼び、今回の出来事を引き起こしたのだから。
「ん。口ではそう言ってても、ちゃんと面倒見ようとしてるから偉い。たまにはやる男」
「褒め……てるのか? なんか言い回しが絶妙なんですけど」
「褒めてる。ただ、面倒見るならちゃんと最後までね。ここに置いて行ったら怒る」
「う゛っ。あわよくば、なんて思ってたんだけどな……」
「おい待て。そんなこと思ってたのかお前」
コイツ、実はしれっとここに中山さんを置いて行く気だったってのか。
前言撤回、やはりただのクズかもしれない。なんかコイツなら気付かれないうちに一人でこっそり帰宅……なんてこともやりそうだ。まあ、うちの彼女さんの前でそれが通用するとは到底思えないけども。
「えぇ〜。そんなこと言わずにみんなで勉強しようよぉ〜。ほら、せっかく四人揃ったんだよ? ここは知恵を出し合ってーーーー」
「あなたに私たちに提供できるほどの知恵があるとは思えない」
「(´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥̥̥̥`)」
うわ、バッサリ斬ったなアイツ。
三葉に無垢の刃で貫かれ、加えて冷徹な斬撃までモロに喰らった中山さんのライフは、どうやらとうとう尽きてしまったらしい。
何よりトドメの一撃の方がかなり効いたのか。机に突っ伏した彼女の目には、じんわりと涙が浮かんでいた。
「ぐすっ……冷たいよぉ……」
「つ、冷たくなんてない。ほんとのことを言っただけ……」
「ぴにゃぁぁぁあっ!! みんなで勉強したいのぉぉぉおおっ!!!」
「「っっ!?」」
そして、少し可哀想に見えてきたな……なんて。そんなことを考えた刹那。中山さんがフルバーストした。
恐ろしく素早いチャージからの一斉放出。唐突なそれに思わず俺たちは目を丸くし、店内の他のお客さんたちも驚きのあまり振り向く始末で。
この場で驚いていないのは唯一、隣の世話係さんだけだった。
「あーあ。佐渡さん泣ーかせたー」
「な、泣かせっ!? ちがっ、そんなんじゃーーーー」
「三葉ちゃんに泣かされたぁぁあっ!!」
「っあ!?」
あっという間に、地獄絵図の完成である。
高校生の駄々泣きというのはここまで見ていられない光景になるものなのか。もうとにかく今すぐ他人のふりをしてこの場から離れたいくらいには恥ずかしくて仕方ない。
しかし、当然そうもいかないわけで。
(仕方ない……か)
思えば、中山さんと雨宮がこのファミレスに来た時点でこうなるのは必然だったのかもしれない。
だってそうだろう。三葉はそれでも俺と二人きりでの勉強がいいと言ってくれるけれど、中山さんは見ての通り。元々藁にもすがる思いで雨宮を捕まえていたのだから、更に網にかけられる獲物が増えたなら総取りを狙うに決まってる。
そして雨宮はそれに便乗するはずだ。コイツにとっては、俺たちに部分的にでも中山さんを押し付けられる絶好のチャンスなんだからな。
加えて、極め付けは……
「分かったよ。勉強、俺も手伝う」
「しゅー君!?」
「ほんと!? やったぁ!!」
他の誰でもない。俺が……彼女を見捨てられそうにないのである。
当然俺も三葉と同じく、できることなら二人きりで勉強したいとは思っている。
だけど、こうなってしまってはな。泣き落としが効いたわけではないが、俺は中山さんを″心配″だと感じてしまった。
そうして一度芽吹いた種はそうそう頭から消えてはくれないだろう。そんな状態じゃとてもじゃないが集中なんてできそうにない。
なら、取れる選択肢は一つ。
「俺たちが帰るまでの間だけでよければ、三葉と一緒に中山さんの分も勉強見るよ。まあ自分の分もあるし、付きっきりってわけにはいかないけど」
そう。その不安の種を近くに置くこと。これが現時点で俺の考える最善だ。
特に俺たちが帰るまで、と時間制限をしっかり設けておくのがミソである。流石に明日まで勉強を見てあげるわけにはいかないからな。
どうせ切り捨てられないならいっそのこと、だ。なに、たったの数時間生徒が一人から二人から二人に増えるってだけの話。それくらいどうにかしてみせるさ。
「神様ぁっ!!」
「よっ、頼りになるぅ! 流石は俺らの先生!」
「何言ってんだ? お前にもちゃんと教える側やってもらうからな?」
「……へ?」
とまあ、こうして。結局というかなんというか。
たった一日限りの、四人での勉強会が幕を開けたのだった。