「こちら、チェキ二枚になりま〜す! ありゃあっした〜!」
二人でのコスプレ撮影が終わって。お会計を済ませてから出来上がった二枚のチェキを受け取ると、俺たちは二年四組を離れる。
「へぇ。これがチェキ、か」
知識としては知っていたものの。実はチェキを手に取るのは、これが初めてのことだ。
全く同じ構図で撮ったお揃いのチェキ。そこには、少しレトロな雰囲気の画質で俺たちの姿が映し出されている。
なるほどな。たしかにこれには、写真とは似て非なる魅力が詰まっている。この令和の時代に流行るのも納得だ。
「ほい、三葉。お前の分」
「……ん」
「? まだ恥ずかしがってんのか?」
「い、言わないで。今、必死に余韻と戦ってるところだから……」
本当にいい思い出になった。そう、しみじみとする俺の隣で。未だ三葉の顔は、ほんのりと赤い。
少し乱暴し過ぎただろうか。いやまあ、嫌がられてはいなかったと思うけれど。
余韻……ね。そりゃあ俺だって、もし忍者メイドさんな三葉に同じようなことをされたらと考えると、な。こうなってしまっても致し方ないのかもしれない。
「しゅ、しゅー君はたまに、とんでもないカウンターをしてくる時があるから。ズルい」
「たまにくらい許してくれよ。いつまでもドキドキさせられっぱなしじゃ、いられないからな」
「っ……そ、それって」
「?」
「う、ううん。なんでもない」
三葉は一瞬チラリとこちらを見て、何かを言いかけると。その寸前で口ごもり、視線を逸らす。
一体何を言おうとしたのか。気になるけれど、それ以上問い詰めるのもあれな気がして。結局聞き返すことはしなかった。
ただ、その代わりに。無防備な彼女さんの左手に、俺の右手で。触れる。
指先が触れて、やがて絡み合うように結ばれて。ーーーーぎゅっ、と。繋がれた。
「手、熱いな」
「……それは、私だけじゃない」
「バレたか」
三葉の手も、俺の手も。どちらも、熱くなっている。
それだけ、二人で過ごす時間が楽しくて。ドキドキするもので。身体が幸せに包まれているということだろう。
今日は本当に、最高の日だ。年に一度の文化祭というイベントをフルに活用し、お互いにドキドキさせて、させられて。そんな一日を過ごせている。
「とりあえずいつまでもその格好じゃ目立つし、着替えてきたらどうだ? 汚したりしても大変だろ?」
「ん……そうする」
でも、だからこそ思う。そんな今日が……いつまでも終わってほしくない、って。
分かってる。そんなのは無理な話だ。過ぎていく時間の流れというのは、誰にも止められない。
ただ、いずれは終わる今日を。一生忘れられない、そんな思い出にすることはできる。
「……」
三葉への自分の中の気持ちを自覚したあの日から、ずっと考えている。この想いを告げる″最高のタイミング″とは、一体いつなのかと。
考えて、思いついて。そしてその度に、「今日じゃなくてもいいんじゃないか」と。逃げてきた。
そもそも、好きを自覚したというのにその日のうちに告白するわけでもなく、やれ慣れがどうだの言って一度それを先送りにした時点で。最高のタイミングなんて……本当に来るのだろうか。
「か、彼氏さん。手、繋いでたら……その。着替え、行けない」
「へ? お、おう。すまん」
なんて。柄にもなく考え込んでしまったな。
ただ、これは本当に大切なことだ。三葉のことを大切に想い、これからもずっと一緒にいたいと思うなら。いつまでもこんな(仮)の恋人なんて関係性、続けていてはいけないのだから。
「じゃあ、行ってくるね」
「ああ。ここで待ってる」
階段を目で追えない速度で駆け上がっていく彼女さんを、手を振りながら見送って。壁にもたれかかる。
そして一人、誰にも聞こえない声量で。呟いた。
「告白……か」
告白をするための、最高のタイミング。以前にも言ったことがあるが、それは人それぞれだ。
例えばそれは三葉が俺にした時のように家の中であったり、漫画やアニメでよくありがちな、デート先での遊園地や水族館の中であったり。
「……よし、決めた」
俺も、そんなタイミングを探し続けていた。探し、見つけることを″言い訳″にしていた。
そもそも、思えば認識が間違っていたのかもしれない。
だってそうだろう。最高のタイミングは″いつか″なんて、そんなの。まるで待っていれば必ずその時が″訪れる″かのような言い草じゃないか。
そりゃあ、そういう場合だってあるだろうけど。でも、じゃあ三葉は? 三葉が俺に告白したタイミングは……待っていて、訪れたものなのか?
俺は違うと思う。三葉は待っていたのではなく、″作った″のだ。あの瞬間を、自分の中の最高のタイミングへと″仕立て上げた″のだ。
だとすれば。やはり俺の考えは間違いだということになる。
そしてそれを理解したのなら。すべきことは一つだ。
「俺は今日を……最高にする」
え? あまりにも急すぎるって? はは、俺もそう思う。
けどな。きっとそういうもんなんだ。三葉が俺に告白してきた時だって、俺が三葉への好きを自覚した時だって。どちらも、″突然″の産物だった。
大体、突然じゃない既定路線の積み重ねの中でやがて結ばれる恋をするには、俺たちはあまりに濃密な当たり前を過ごしすぎてる。だから大きく関係性を変えるにはきっと、突然なくらいがちょうどいい。
(台詞、考えとかないとな)
やると決めたなら。あとはーーーー進むだけだ。