と、まあ、ゲーム内1日目はそんな感じに。ライトをつけたり、監視カメラを見たり、扉を開け閉めしたり、そんなことをやっていれば1日目は平穏に終わりを迎えられた。そうして、始まるゲーム内2日目。
「とりあえず、1日目でこの超不穏なBGMには慣れてきたけど……聞き分けるとこのゲーム、足音とか何かが居る気配とか漂わせてくることに気づいたよ……」
そう、このゲーム自分以外はこの建物の中に人間はいないはずなのに、やたら足音やなにかの気配を強調してくる。まあ、「化物がお前のこと狙ってるよ」っていうことなんだろうけど。
セイラが左右の扉を見ながら、ガタガタと手を震わせて、ゲーム内タブレットで監視カメラをチェックする。
「これさ、監視カメラ見ても意味なくない?相手が動いているのは前提な訳じゃん」
「いや、意味あるぞ」
『あるある』
『初期位置から監視カメラで見られている間は化物は動かない』
『だからカメラを見るのは大事』
『特に狐の位置を見ておくんやで』
うんうん、知ってると色々言いたくなるよなあ。俺は適度にコメントを拾ってセイラに伝えれば、セイラのタブレットを触る手が加速する。
「つまり、カメラ巡回しているだけでこのゲーム勝てるッ……?」
セイラの言葉に此処で芽生えるのは配信者故の悪戯心。このゲーム、基本的に右と左の扉から化物は入ってくるのだが……1匹だけ、音も姿もなく監視カメラ室に入り込み、タブレットを見てタブレットを下げた瞬間に襲ってくる化物が居るのだ。俺は先にプレイしてその情報を知っている、が。
「指示厨する気はねえから、これだと思うプレイをしておくれ~」
セイラはゲーム画面しか見えてないが、秋城のLive2Dモデルは満面の笑みである。
『あっ』
『秋城の思惑が分かった』
『おぬしもワルよのう……』
『秋城氏といい酒が飲めそう』
そうしてセイラがタブレットを握りしめて、監視カメラで各部屋を巡回していく。動かない着ぐるみの化物たちの中、俺は熊の化物だけいないことを確認してほくそ笑む。そうして、ゲーム内時間がAM 5になり———。
「さて、まだ2日目だしもう襲ってはこないだろう」
セイラがそう言って、タブレットを下げる、そうして目の前に現れるのは———。
「ぎゃあああああああああああああッ」
俺が認識するよりセイラの悲鳴の方が早かった。そして、セイラの視界が右に左に揺れる間に……ぐしゃあ、という恐らく人体を裂く音共に画面が暗転し、ゲームオーバーの文字が表示される。
「あ、あ、あ、あ、あ~~~今のなにさ~~~~」
『ずっとカメラ見てるから……』
『そんなん対策されてないわけないやろ』
『セイちはちゃんと期待通りにゲームをしてくれるな』
『秋城GJ』
ゲームの初期画面に戻ったセイラが泣き声を上げる。ちなみに、あの瞬間セイラを襲ったのは熊の化物である。しかも、可愛らしい熊の化物ではない、何故か目が落ちくぼんであちこちが煤けた熊の化物である。それがいきなり目の前に現れて、次の瞬間には熊のドアップ。うん、俺も初見は軽い唸り声が出た。
「……もしかして、秋城クン知ってた?」
「ったりめーよ。セイラならちゃんと回収してくれると思ったぜ」
「そんな信頼いらない~~~指示厨していいからボクのこと守護ってよ~~~~」
『セイちは守護らなくても生きて帰ってくるから』
『もうこりごりだ~って言って返ってくる』
『黒い画面に顔面抜かれてな』
『セイちの安心感』
「ほら、セイんちゅの皆さんもセイラなら大丈夫って言っているぞ」
大分、意訳しているが。
「絶対それ言ってるのセイんちゅじゃなくてお前らだって~~~」
「この間絆を育んだお前らを簡単に疑うな。……さ、コンティニューボタンから2日目再チャレンジ行くぞー」
「ええええええええ、やだああああああ‼ボクの悲鳴ならもう聞いたでしょぉぉおおお⁉」
「セイラからすればヌルゲーなんだろ?」
『言ってたなあ』
『的確に退路を断っていく秋城』
『うぃんたそには見せないドS』
『これは秋城楽しんでますねえ』
セイラは鼻を啜る音と喉のどこから音を出しているのか、ひんひんいう声を届けながら言葉を返せなくなっている。
「さ、2週目行くぞー、ヌルゲーだから余裕だもん、な?」
もちろん、Live2Dモデルの秋城は満面の笑みである。
「うわあああん、秋城クンに意地悪されたってうぃんちゃんに言いつけてやるんだからな‼」
「安心しろー、お前にしかやらない」
「その限定ボク嫌だなぁ!」
そんなこんなで、オートセーブされた2日目冒頭に戻って来て……ぎゃーぎゃーとした悲鳴を上げながら2日目もクリア。さて、コメント欄でも触れられていた、バッテリーの消耗が激しくなってくる3日目が開幕する。
『さて、此処までがチュートリアル』
『化物共にも慣れてきた頃合い』
『セイちの喉もあったまってきたかな』
『1日目からほっかほかだった気が』
「お、セイラー。コメントで喉あったまってきたか、だって」
「放送をするときは開始時点から超あっためてあるよ。あー、やだーやだー……秋城クンなんか化物に襲われない裏技とかないのー」
「はは、裏技使ってプレイなんてしてみろ、非難轟々だぞ。……つーか、今更だがなんでこのゲームやろうと思ったんだよ」
ふ、とそんな疑問が思い浮かぶ。そんなに怖いのなら無理にやる必要はない。というかセイラ単独の放送ではあんまりやらなかったホラゲーを何故今更。そんな疑問に、セイラは少し口籠ってから口を開く。
「……秋城クンに可愛いところ見せたかったから?」
俺に可愛いところを見せてどうなるんだ、そんなツッコミが出そうになる。だが、まあ、狙いが秋セイというのなら理解できなくもなくて。
「……今のところギャグセイラ7割ぐらいだけど大丈夫そうか?」
「ぐすん、駄目そう」
まあ、可愛いと思うところがないわけではないのだが。それはそれで調子に乗りそうだから黙っておこう。
セイラは監視カメラをぽちぽちとしながら各部屋を巡回しては、両端の扉をちらちら、と見ている。
「そんなチラチラ見てると化物見落とすぞ」
「ふ、居たらもうほぼアウトだからね‼見落としは諦めるよ‼」
『潔い』
『クリアまでどれだけ時間かかるやら……』
『是非、セイちには最高難易度に挑んでほしい』
『最高難易度は最早リズムゲーだからな』
「最高難易度なー、動画で見ただけだがアレは確かにリズムゲーだったな」
俺が見たのは某アヒル系VTuberの最高難易度踏破アーカイブだったが。右扉見て、左扉見て、カメラを一瞬チェックしてをマジでリズミカルにこなしていていた。あれは音ゲー。
「はい!ボクリズムゲーなら自信あるよ‼」
「じゃあ、とりあえず五日間踏破しような」
『手厳しいwwww』
『秋城、お前はS‼‼‼‼』
『秋城のチャンネル登録してきたわwwww』
『秋セイの方向性が見えてきたぞ』
セイラがゆっくりと右扉のライトをオンにする。当然だがそこには何もいない。いや、居ても嫌なんだが。
「うわーん、この中に監禁5日間って病むよ~超病む。しかも、コメント見れないから秋城クンが喋ってくれないと本当に孤独」
「じゃあ、このゲームの小ネタを話してやろう。5秒間だけライトもカメラも扉も触らずにバッテリーゲージ見てろ」
「ん?分かったよ」
そうして、セイラが俺の指示通りなにもしなくなる。その中で唯一動くもの、———なにもしていないのに減っていくバッテリーゲージ。
「え⁉ボク何もしてないのにバッテリー減ってないかい???」
「さあ、なんで減っていっているか分かるか?」
「え、えー……?」
『部屋内を見ればすぐわかる』
『そいつの電源を落とせないか何度試したことか』
『命かかってるんだからんなもん切れ‼ってなるよなあ』
『ほんとにいらん子』
セイラが周囲を見渡す。部屋の中にあるのは、ゲームに関わりのないものだと回り続ける扇風機に受話器を乗せた机。
「もしかして、電話も扇風機もバッテリーを食べて動いている……?」
「電話は不明だが、扇風機は正解だ。だから何をしなくてもバッテリーが減っていく」
「え、しかもこれ止まらないじゃないか‼」
セイラが扇風機をつつきまわす。だけど、扇風機は止まらずに回り続けるのだ。
「え、え~~~命かかってるんだから扇風機ぐらい我慢してくれよ~~~」
『それはそう』
『妥当な悲鳴』
『このゲーム1回やると絶対思うこと』
『扇風機が回ってなければ助かる命があるというのに』
セイラが扇風機相手に格闘をしていると、左のヘッドフォンからだっだっだっだっ、という走る音がしてくる。
「え、え、なに⁉今度は何⁉」
セイラが音の方向に反応して、左の扉を見るとするとそこには、狐の化物。つまりはゲームオーバー。
「く、来るなッ、来るなぁああああああああ‼」
セイラの悲鳴と共にゲームオーバ―の文字が表示される。ちなみに狐の化物は走っている音がする時点で侵入を防げない、アウトである。それ故にゲームのファンの間では盗塁王と言われたりしている。
『カメラをチェックしないから……』
『敗因:扇風機』
『セイち迫真の叫び声wwwwww』
『今日もええ叫び声や』
俺がセイラにコメントを伝えれば、セイラがゲームの初期画面を上下に揺らす。頭を揺らしてますね、これは。
「秋城クンが扇風機に誘導したから見忘れたんだよ‼これは策略だ‼」
「まんまとハマったのはお前なんだよなあ」
『セイち全てを素直に受け取るから』
『分が悪いよ』
『ほら、セイち次のゲーム』
『ネクストゲームッ(イケボ』