「よし、ボクは配信者を捨てて3日目にガチで挑むよ。じゃ、秋城クン、セイんちゅの皆さんと戯れてて!」
と、早くも配信者を捨てて3日目をリトライしたセイラは悲鳴を上げつつもなんとか3日目を潜り抜けて、4日目に辿り着く。
「ふふん、もうね、ボクはね秋城クンと話しながらでもこの4日目をクリアできるってワケ」
3日目をクリアしたことで大分ゲームへの理解が深まったのか、胸を張りながらそんなことを言うセイラ。お、さっき配信者捨ててたの誰だ。
「セイラがそれを言うとフラグにしか聞こえねーな」
「ふ、そんなフラグ、ボクが破壊してみせるよ」
『ここから更にバッテリーの減りが早くなっていく』
『フラグ回収待ってます』
『セイちの悲鳴待機』
『尚、破壊できたことh(ry』
セイラが右の扉をチェックして、左の扉をチェックして、カメラをチェックする。今のところ動きなしだ。
「このゲーム慣れてくると作業ゲーだね?」
「そこは言ってやるな。まあ、なんとなくだが怪物が出るタイミングとかも分かるようになってくるしな」
「ボクはそこまでぎゃあああああああッ」
雑談の合間に悲鳴が挟まって、それらに対してセイラが対応しては雑談に戻ってくるそんなルーティンが出来上がる。だが、異変とは慣れた頃に襲ってくるものである。
「んっ?んんん?」
セイラが首を左右に捻る。
「お、どしたー?」
「扉が、閉まらない?」
『あっ』
『入られましたねえ』
『終わったな』
『4日目終了』
セイラが右の扉を閉めるボタンを連打するが一向に扉が動く気配がなくて。
「え、え、なんで閉まらないのさ⁉バグ⁉」
「あー……これは入られたな。此処から行動次第で即死になるから気をつけろー」
「ちなみに何をしたら即死になるんだい?秋城クン、ちょ、秋城クン、ほんとに助けておくれ、どうしたら死ぬの?」
「……言ったら面白くねえよなァ‼」
「あぎじろぐんんんんんんんんんん‼」
全部教えたら面白くないからな。ちなみにだが、此処で侵入したのは2日目に侵入した熊の化物だ。
化物は化物ごとに侵入してくる方法は一つしかない。熊の化物は音もなく部屋に忍び込み、タブレットを見て、タブレットから視線を外した瞬間に襲ってくる。熊の化物が入り込んだか入り込んでないかの判断は扉が閉まるかどうかで行わなければいけない。
つまり、セイラが此処からカメラを見なければセイラの勝ち、カメラを見たらセイラの負けである。
『まあ、どっちに転がってもおいしいので』
『セイんちゅはどんなセイラでも受け入れる』
『セイ虐はいいぞー』
『クッソ、秋城のチャンネル登録しました』
「お、セイんちゅの皆さんはセイラの悲鳴をお望みだぞー」
「セイ虐文化いけないと思うなー」
セイラは口調は平静を装っているが、何がデストラップになっているか分からないせいだろう、一歩も動けなくなっている。
「秋城クン、せめてヒントをくれないかい」
ヒント。まあ、ノーヒントでこのままセイラが動かないのも面白くないか、そう判断して俺はヒントをセイラに与える。
「んー……お前は1回その死に方で死んだ」
「え、え、えーと」
そうしてセイラがその場で1日目から死んだ瞬間を羅列し始める。
『さあ、気づくかな』
『まあ、流石にセイちでもこれは気づけるはず』
『侵入してくる化物は一匹しかいないからね』
『セイちがんばれ‼』
すると、セイラがもう一回自分の死因を羅列し始める。
「右の扉から入ってくる鳥に、走ってくる狐、カメラ見てたら侵入してきた熊……あれ、でもボクが配信サイトで見た時化物は4匹居たはず……?あれ、秋城クンボクを騙そうとしてる?」
「いや、してないしてない。マジで、鳥、狐、熊の中に今その場に入り込んでる化物がいるんだよ」
『秋城ほぼ正解をいいおって』
『なんだかんだで完全に見放さない距離感』
『これはこれで美味しい』
『セイち気づけ‼』
「んー……入られてる、入られ……あ—————ッ‼」
セイラの俺達の鼓膜への配慮ゼロな叫び声が響き渡る。俺は思わず一瞬ヘッドフォンを浮かせてから、セイラの叫び声が終わったことを恐る恐る確認してからヘッドフォンをつけなおす。
「秋城クンっ、秋城クンっ」
「お、気づいたか?」
「ずばり、入り込んだ化物は熊の化物だね!そして、これは予測だけど……タブレットを開いて閉じたら死ぬ、じゃないかい?」
『正解~~~~』
『セイちよく気づいた!』
『そうだよ、セイち‼』
『ということで此処から監視カメラ禁止ゲーです』
俺が拍手をしながらコメントを読み上げる、すると、セイラが「やった、やった」と喜びで上下に動いてゲーム画面が揺れ———、その動きに反応して開かれる監視カメラ用タブレット。
「あ」
「あ」
『あ』
『あ』
『草』
『wwwwwwwwww』
コメント欄が草で覆われる。まさに大草原である。
「あ、あ、あ、あ、秋城クンッ……これ……‼」
「あー、なんだ。誤操作とかはあるあるだよな」
「……此処から入れる保険ってありますか?」
「ないです。死んで、どうぞ」
「あああああああああああああああッ」
そうして、セイラが泣き声のような声を上げながら、崩れ落ちる。そうして、その声が止めば、覚悟を決めたようにタブレットを下ろし———。
「ひぎゃああああああああッ」
突如目の前に出現した熊の化物によって殺されましたとさ。赤いゲームオーバーの文字が浮かび上がる。
『これこそセイち』
『セイちの神髄を見た』
『いやあ、流れ完璧だった』
『希望を見せてからの絶望、これぞまさにVTuber』
「ひぐっ、うっ、せっかくクリアできると思ったのに……」
鼻を鳴らしながら、両手にVRコントローラ―を持ち、それで頭を押さえているセイラから漂う悲壮感。
『まあ、でも、あと2日間だし』
『いけるいける』
『セイち同じミスしないもんな』
『今の誤操作は仕方ないやで』
こういう時煽ってこないセイんちゅの皆さんにお前らとの民度の違いを感じる。こういう時お前らは絶対煽ってくる。
俺がコメントを読み上げれば、セイラがゆっくりと顔を上げるのであった。
「……よしッ、ボクはこの5日間の勤務、やり遂げて見せるよッ‼ということで、コンティニュー」