そうして、4日目を悲鳴を上げながらも終えたセイラ、そして来たる勤務最終日。
「ついにここまで来たね、秋城クン」
「最終日は化物がバンバン出てくるから気、張って行けよー」
「りょ」
『ついに最終日……』
『さあ、セイちクリアなるか』
『5日目は多分お祈りになるからな……』
『セイちの幸運値はどうなるかw』
そう、5日目はついに普通に行動しているだけでもバッテリーが尽きるようになる。そんなときどうするか……は、まあ、その時が来たら説明をしよう。そして———。
「ぎゃああああああああッ」
左の扉を見ては兎の侵入を扉をロックして阻み———。
「うわあああああああッ」
右の扉を見ては鳥の侵入を扉をロックして阻み———。
「よし、動いてないね⁉」
熊と狐の動きをカメラを見ることで止める。右見て、左見て、カメラを見て、そんな動きがだんだんルーティン化していく。そうして、悲鳴を上げながらもなんとか生存していくセイラ。
『お、セイち慣れてきた』
『こうなってくると後はバッテリー切れまで暇やな』
『セイちの悲鳴、健康にいい』
『セイちの悲鳴はやがて万病に効くようになる』
そうして、時間はAM 4を回った頃。ぶぅん、という音と共に画面全体が暗転する。バッテリー切れだ。
「お、ついに来たな。セイラ、絶対に動くなよ」
「わ、分かってるよ。最初に前任者が言っていたからね。……足の震えも押さえてるよ。ちなみに、これ待ってれば勝ち確なのかい?」
「ん?そんなことないぞ」
「え」
セイラの表情筋までぴたり、と止まる。それは聞いていない、と言わんばかりの表情だ。
「バッテリーが切れた後は、熊の化物がふらり、と立ち入らないようにひたすらお祈りをする祈祷の時間だな。入られたら諦めて死んでくれー」
「こ、此処まで来て最後運ゲーなの⁉」
『そう、此処まで来て運ゲーなのです』
『理不尽だよなあ』
『その日の運勢が分かるね』
『セイちの今日の運勢占い』
「まあ、前任者も「幸運を祈る」って言ってたし、そういうことだろ」
「なんでボクこのゲーム選んじゃったかなあ……」
動かないまま、鼻を啜る音やら呻き声やらを垂れ流すセイラ。
「下調べしてやるホラゲーも面白くないだろ。ほれ、諦めて祈れー」
「うぅぅううっ、神様神様どうか熊の化物を出さないでください、どうか、どうか、このゲームをクリアさせてください、お願い、此処まで来て運ゲーで何十回もリトライするなんて2020年代のラノベの流行じゃないんだから辞めてくださいぃぃいいぃ」
『早い早いwwwww』
『超絶早口セイちwwwww』
『Re5日目から始めるバイト生活』
『滑舌いいなあw』
そうして、セイラの超早口祈祷が始まる。その祈祷には俺が口をはさむ余地なんて全くなくて。俺は文字通り、見守りに徹することになってしまった。
「神様神様、ここをクリアさせていただければこの間没にさせていただいた、ホラー小説朗読配信をやらせていただきたいと思います、だからどうか、どうか、熊の化物だけは許してください」
『セイちのホラー朗読(ガタタッ』
『そんな企画あったんか』
『絶対途中で描写にない悲鳴が入るやんw』
『終わった後のゆったーが賑わいますね』
「神様神様、これをクリアさせていただいたら、この間のプラモデル組み立ててみた配信以降放置していた1/60のプラモデルの方の組み立ての続きをやる配信をやらせていただきます、放送以降1回も手を付けてなくて本当にごめんなさい」
『ああ、あの腕1本作って終わったやつ』
『プラモって積むよなー』
『段々祈りというより懺悔になってるな』
『今日のセイちの懺悔室は此処ですかー?』
大体こんなノリでセイラが懺悔し続けること数回———、そして、AM 5 から時計がAM 6 になり———ゲーム画面が暗転する。そして、明るくなり給与明細が表示されて、画面の下にはゲームクリアの文字が表示された。
「え、え、終わった??終わったのかい???」
「ああ、本編はクリアだ」
「っ~~~~~やったあああああああッ‼」
セイラの視界ががんがんに揺れる。多分これは嬉しさで全力で飛び跳ねてますね。
『画面を揺らすなw』
『酔うわ‼‼‼』
『セイちステイ』
『視聴者嘔吐配信にする気か‼』
俺は視聴者から届く苦情の数々をセイラに届ける。
「ごめんね、あまりにも嬉しくてその嬉しさをボク全力で表現していたよ。よし、じゃあ、ボクもこんな薄暗いところから脱出して、さっさとそっちに戻るからね」
そうセイラが言えば、画面が暗転する。VR機器をオフにしたのであろう、そうして、暗転した画面がオフになり、秋城のモデルとセイラのモデルが中央に寄せられる。
「さて、おめでとうボクッ‼よくホラゲーを走り切った!ほら、セイんちゅの皆さんも秋城クンもボクを褒めて、褒めろ」
そうやって頭を差し出してくるセイラのモデルから微妙に上半身を反らして距離を取る。
『セイち踏破おめでとー!で、最高難易度は?』
『セイち、勢いで切ったけどまだ終わってないんやで』
『こういうゲームはクリア後があるのが板』
『まだ、完全踏破じゃないやで^^』
「え?」
セイラがぴしり、と固まって恐る恐る秋城を見上げてくる。まるで見捨てられた子犬のような顔に笑いを噛み殺しながら俺は口を開く。
「5日目までが本編で、クリア後コンテンツとして6日目があるな。それをクリアすると自分で難易度を調整できるモードがでるから……まだ、お前は完全クリアしてない」
「ええええええええええええええッ、やっ、やっ、嫌ァ———————ッ‼嫌っ、嫌だっ、ボクのFive Nights at bearsは此処で終了!いやっ、いやああああああああああッ」
お、本当に嫌なんだな。その証拠にセイラのモデルは険しい顔をしながらも涙を瞳に浮かべ、全力で上半身を振っている。俺は憐れむものへ送る生暖かい視線をセイラに向けながら、カフェイン飲料を飲む。
「セイラ、次は単独6日目頑張れよ」
「い———————やっ、やっ、やっ‼やぁッ—————‼」
「あと、ホラー小説朗読配信とプラモ組み立て配信に、お化け屋敷レポに激辛3連チャンだっけ?超期待してるわ」
「うわああああああああああああああッ」
『自分で蒔いた種だからなあ』
『もうないと思ったんだろうな』
『今日イチいい悲鳴で草』
『セイ虐が捗りますねえ』
そうして、セイラが画面の端で膝を抱えてのの字を床に描き始める。
「終わらないなんて聞いてないよ……ボク最後だと思って、必死に祈ったのに……」
「はっはっはっはっ」
これぞ愉悦。これぞセイ虐。やっている側の気持ちよさは半端ないモノだ。愉悦愉悦。
「うっ、うっ、うぅうう……よし、泣いてても仕方ないので切り替えていこう。でも、ありがとうね。秋城クン。今日の見守り配信の依頼急だっただろう?」
切り替えて、俺の隣に戻ってきたセイラがきらきらとした流し目エフェクトを漂わせる。
「まあ、朝メッセージ来てて驚きはしたが。つか、俺でよかったん?@ふぉーむ同期とか同僚とか居ただろ」
「ネタバレに触れたくないから、とみんなに振られたよ。全く、悲しいね」
それは悲しい。が、分からなくもなかった。1回公に見てしまったゲームというのは新鮮なリアクションを届けられなくなるので、配信に採用しにくくなる。まあ、俺は家にVR機器がないのでリメイク版は触れられないのでこのコラボ配信受けたわけだが。
『ということは次の@ふぉーむの流行はこれか』
『イルとかいい悲鳴を上げてくれそうな』
『うぃんたそなら雑談片手間にやってくれる』
『レイル様の悲鳴待機』
「おや、……これは後でマネちゃんに怒られそうだ」
セイラが言った瞬間、ヘッドフォンから聞こえる端末のメッセージ受信音。
「……怒られたよ。ネタバレ厳禁って」
早いなあ、怒られるの。流石セイラのマネちゃんっていう感じの速度感でのお怒りである。
「お前は1放送で1回怒られないといけない縛りかなにかをしているのか?」
「そんな縛りしてない筈なんだけどなァ‼」
「まあ、ほら自覚なしにそういう運命なのかもしれない」
「そんな運命はお断りだよ‼」
『怒られの運命wwwww』
『怒られしものセイち』
『憤怒のセイち』
『↑それはセイちが怒ってないか?』
そんなこんなで。セイラの運命が決まったところで、時間をチェックすれば、1時間を大きく回っていた。まあ、あれだけゲームリトライすればそうもなるか。その旨をセイラのチャット欄に送れば、セイラからOK!の絵文字が送られてくる。
「さて、こんな長時間付き合ってくれたセイんちゅ、お前らの皆さん、秋城クン今日はありがとうね」
「いえいえ、また気軽に呼んでくれ~」
『今日も面白かった』
『フラグ回収完璧だったな』
『秋城さんもまた来てください~』
『秋セイフォーエバー……‼』
「じゃあ、最後の挨拶行くよ?せーのっ」
「「おつセイラ~~~~‼‼」」
『おつセイラ~~~』
『おつセイち~‼』
『おつセイラ』
『乙』