目次
ブックマーク
応援する
3
コメント
シェア
通報

第19章 セイラとホラゲーってアリですか?⑤



「っていうことでお疲れ様~隼人っ」

「おう、ちゃんと放送は切れてるか?」


 念のためね?自分の手で切って確認しているわけではないので、確認は念入りにしてしまう。配信切り忘れでバズ———そんなこと考えるだけで震えてしまう。


「もち。しっかり切ってるよ~、マネちゃんと社長にもそれだけはしちゃいけないってしっかり言われてるしね!」

「お、しっかり言いつけられてるんだな」


 他のことに関してもそのレベルに言いつけないのかね。そこまで思ったところでセイラの毎回起こす事故の突拍子のなさに、何が起こるか予測がつかないのか、と思い至る。予測がつかないんじゃ無理ですわ。


「は~あ~……超怖かった!あり得ないぐらい暗いし、BGM不穏だし、自分以外居ない筈なのに無限に気配はするし‼も~1人で6日目とか無理なんですけど~‼」

「でも、動画見てる感じガチ無理ゲーではなさそうだぞ。お祈り部分は変わらないが」

「お祈り部分変わらないとかマジしんど~……て、あれ、隼人6日目やったん?」


 ギクリ。俺は肩を揺らす。そう俺は6日目はやっていない。朝いきなりこの話を振られて、5日目までは急いで踏破したのだが、それ以降は過去のVTuberの配信を見ただけだ。


「いきなりすぎて時間がなかったから、他のVTuberの動画見ただけだな」


 そう、いきなりだったから。決してお祈り部分にクソゲー感を感じて放り投げたわけではない、断じてないからな‼


「へ~え~?」

 へ~↑え~↑じゃない。通話越しに世那がにやにやとしている気配を感じながら俺はなんとなく画面から視線を逸らす。


「これはセイラとのコラボ3回目決まったね」


 決まってないが?勝手に決めるなー。


「……一応話だけは聞いてやろう」

「セイラと秋城のFive Nights at bears 6日目クリア配信‼オフコラボでー、VR機器で、この怖さを隼人にも味わってもらう」

「お、最後の方に本音でてんぞー」


 多分、6日目クリア<<<<<恐怖を味わってもらうという感じになっている。絶対そう。


「ていうか、別にオフコラボじゃなくても。世那のおかげで金回り大分余裕あるし、今後のことも考えてVR機器買ってもいいしな」


 これは本当にそう。毎月10万の返済でよくなっているのが本当にありがたい。おかげで配信機材やゲームなんかも買い控えしないで済んでいる。世那様様だ。


「いーっやっ、オフコラボしたい‼」

「はあ?なんでだよ?」


 オフではこれでもかと顔を合わせているのにその上でオフコラボなんて特に旨味もなにもないだろうに。俺がそう言えば、セイラは少しの沈黙の後口を開く。


「だって、せっかく隼人が同じVって分かったんだもん、仲良くしたいし?うぃんちゃんばかりずるいっていうかー」


 通話越しで表情は見えない。だけど、声だけで照れながらも本音を話してくれていることは分かって。そんな友人としての好意を無碍にすることは流石に俺にはできなくて。


「はいはい、じゃあ、コラボ3回目になるかは分からんがオフコラボはするか」


 するとヘッドフォン越しにガタガタガッと何かを崩す音が聞こえて。


「お、おい?大丈夫かー?」

「だいっじょうぶ!絶対だよ、絶対だからね?隼人‼」


 食いついてくるような世那の言葉に、そんなにオフコラボしたかったのか、と俺は気圧される。


「お、おう……とりあえず怪我とかしてないな?」

「ちょっと膝を打っただけ~痣にもなってないから安心して」


 世那の言葉にさっきの音は何かを崩した音ではなく、机の裏に膝を打ち付けた音だったのか、なんて理解する。いや、それもそれで痛いだろうに。


「一応、時間が経って腫れるようなら冷やしておけよ?」


 喉をやったわけではないから放送ができなくなる、なんてことはないだろうが、怪我も病気もないに越したことはない。


「はーいっ、あ、私そろそろ落ちるね~」

「お、おう」


 忙しないな、なんて苦笑しながらいつものことかと思い至る。世那はいつも忙しない。


「んじゃあ、お疲れ様~隼人、約束忘れないでねっ」

「はいはい、忘れねーよ。お疲れ」


 通話が終了する。時間を見れば21時を回っていて。

 明日は3限からなため、そこまで急いで寝に入らなければいけない訳ではない。だが、健康な体は健康な生活から、それなりの時間に起きてジムにでも行っておきたいことを考えるとそろそろ風呂に入ったりしておくのがいいだろう。


「おし、とりあえず動くか」


 そうと決まれば面倒にならないうちに動くのが吉である。俺はUtubeのマイページを一瞬開いて、登録者数が右肩上がりなのを確認してから、ブラウザの×ボタンを押す。

 そうして、水を1本手に浴室へ向かうのであった。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?