「それじゃっ、次はセイちだね。セイち喉の準備とエコーの準備おけ?」
「おけ。ボクの準備はいつでも準備万端さ」
セイラの言葉に適当な返事をうちつつ、うぃんたそがわたあめを貼りだす。そして、セイラのマイクのエコーがオンになり———。
「ん……?ああ、起きたのかい?まだ寝ていても大丈夫だよ、まだ、夜だからね。……え?朝になったらボクが消えてしまう?……そんなことないさ、星は確かにそこにあるんだから……見えないだけで君の傍に居ない訳じゃないよ。だから、安心して目を閉じておくれ」
そうしてエコーが切れる。
『これは綺麗なセイち』
『イケセイち』
『真面目なセイち』
『セイちこんなイケボやったんやな』
「ひ、久しぶりに綺麗なセイち見た気がしたよぉ」
「1年に1回のイケセイラの日今日だったか」
「え、ちょ、酷くない⁉常にボクは綺麗だろう?」
うーん。
『常にかは怪しい』
『黙ってれば綺麗』
『喋るな』
『動くな』
「うわーんっ、せっかくかっこよく頑張ったのに~~~~」
セイラがうぃんたその胸に泣きつく。まあまあ、視聴者の言いたいことはよく分かる。
「まあでも実際、黙ってエフェクト漂わせてれば綺麗なのはそうだよな、流石元星」
「そうそう、黙って何もしなければ10人が10人振り返るよね、セイちビジュ最高だし?」
俺とうぃんたその言葉に黙って、カメラに目線を寄越すセイラ。もちろん、キラキラエフェクト付きだ。その透き通った綺麗なメロンソーダのような瞳を伏せたり、逆に見開いてみたり……顔面の良さをゴリ押してくる。
「うーん、顔はいい」
「顔は最高」
『顔「は」』
『含みがありますねえ』
『今日のセイ虐会場はこちら?』
『でも、顔はいい』
「どうだい?秋城クン、ついつい推し変したくなるだろう?」
「いやならんが」
『即答wwwwwwwwww』
『ならんがwwwwwww』
『なれ』
『お前もセイんちゅになるんだよォ!』
「え、秋城さん推し変するの?」
「しないが⁉」
まさかのうぃんたそ参戦。え、この流れうぃんたそ切り込んでくるの?俺はまるで浮気現場を押さえられた夫のような心境になってくる。……現実では浮気どころか恋人もいたことがないがな!
「ボクに推し変をすると、ボクが1日1枚超美麗な自撮りを送って上げよう」
「いらんわ」
「え、え、秋城さん取られちゃう⁉え、秋城さんっ、うぃんたそ推しのままでいてくれるならうぃんたそ毎朝モーニングコ―ルしちゃうよ⁉」
「マジ⁉」
「なんかボクのときと食いつき方違くないかい⁉」
「おま、当たり前だろ⁉推しのモーニングコールだぞ⁉」
『うぃんたそのモーニングコール……?』
『今すぐ秋城を刺し殺して秋城に転生するしか』
『お前を殺す(デデドン』
『↑それ死なない奴なwwwww』
コメントがちょっと過激だが、それを置いておいて、だ。推しが毎朝モーニングコ―ルしてくれるとか全ヲタクが羨んで羨んで仕方なくなるだろう。だが。
「いや、殺されてももう一回転生するが?……それはそれとして、うぃんたそ。それはファンサの領分を超え過ぎだ……そんなことしてもらったらヲタクとしての俺が俺を殺してしまう……」
『厄介ヲタクめ』
『当たり前だろ、調子乗るな』
『此処で調子に乗らない秋城好き』
『秋城許すまじ』
「えー、でも、うぃんたそ秋城さんの最推しで居たいよっ、推し変されたくないっ!」
「秋城クンはボクに推し変するんだろう?さあ、ボクに身を委ねて……」
お、段々盤面がぐちゃぐちゃになってきたぞぉ。俺は灰色の脳細胞をなんとかかんとか回し、このカオスを収める方法を探る。いや、まあ、一つしかないんですけどね、はい。
「だーかーら、推し変はしませんっ。俺は永遠のうぃんたそ推しです‼うぃんたそ命」
ということで、変らない俺を示し続ける。俺の推しは一生変わりません。
「ぐ、ぐぬぬぬ……でも、ボクは諦めないからね‼いつでも推し変はウェルカムだよ」
「さっさと、セイちは諦めてね~秋城さんはうぃんたそ最推しなんです~」
勝ち誇ったようにない胸を張るうぃんたそと悔しそうに歯茎を見せるセイラ。まあ、定期的にぶり返す推し変論争はこんなところで、放送の本題に戻さねばだ。
「じゃあ、そろそろ本題に戻すぞ~えーと、セイラで一巡したから、次は俺か?」
「そうだねぇ。じゃあ、次のわたあめ貼るね~」
そうして、わたあめシチュエーションボイス配信は過熱していく。
「あ、シャッフル。デッキ立てないでください。横入れしないでください」
俺はひたすらカードゲーマーなら1回は言ったり言われたりしたことがあるようなセリフを擦り倒すことになり———。
「え?祠壊しちゃったの?……そっかあ、でも、大丈夫だよ。声かけたのがうぃんたそで大正解!うぃんたそが守ってあげる‼」
うぃんたそはと言えば、そもそも@ふぉーむさんでのシチュエーションボイス企画に数多く出演していることもあり、なかなかの演技力で様々なシチュエーションを演じ———。
「ふ、ボクと一緒に居られるんだ、そのことを光栄に思うといいよ」
セイラは———、乙女セイラ、イケセイラ、バラエティセイラを主に使い分け、全てのファン層に分け隔てなくその声を届けていた。