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第20章 秋セイビジネスてえてえってありですか?③


 そんなこんなで何巡目かの俺のシチュエーションボイスを終えたところで、うぃんたそが声を上げた。


「およ、ちょっと待ってね~。わたあめが長いから映すの調整するね~」


 そんなとんでも長文わたあめが来たのか、流石うぃんたそ、なんて思いながら俺は場を繋ぐためコメントを拾う。


『秋城だけTCGプレイヤーあるあるで草なんだが』

『大会に一人はいるやつなw』

『バトマスプレイヤー怖い』

『↑コワクナイヨ、コワクナイ』


「大会に一人はいるけど、いても一人ぐらいって塩梅だよな。まあ、そもそも対面に対する威圧行為はNGな大会多いからそんなのに当たったら容赦なくジャッジ呼んで警告つけてやれー」

「はは、秋城クンて、全人類カードゲーマーだと思ってる?」

「……全人類までは思ってない、思って……自信なくなってきたわ」


『まあ、少なくともお前らはTCGプレイヤーの割合高そうだよな』

『そもそも秋城がバトマス系VTuberやからな』

『自信を無くすなw』

『そこは自信持っていってくれw』


 俺とセイラと視聴者でそんな会話をしていれば、画面には大きくわたあめの上部が映し出される。お、うぃんたそが見やすいように調整してくれたんだな。そこには。


「えーと、今わたあめの冒頭だけ映してるんだけど……」

「見えてる見えてる。なるほどなあ」

「これは確かに調整必要だね」


 そのわたあめの冒頭を見て俺とセイラは納得の声を上げた。


【本文秋城NG!秋城さんは目を瞑って、うぃんちゃんとセイちの声だけを聞いてください!】


 そんな文章の後に大量の改行、恐らく俺に目を瞑っててほしい本文が続くのだろう。ほう、というか。


「俺NGなのに聞くのはOKなん?」

「うん、内容は確認済みだけど……あ、セイちにもわたあめの画像送ったよ~」

「了解、ちょっと目を通すね」


 そして、僅かな沈黙。


「あれだね、今までは対信者、対セイんちゅ、対お前らみたいなシチュボだったけどこれは対秋城シチュボ」

「対俺?」


 セイラの言葉に俺が聞き返せば、今度はうぃんたそが口を開いた。


「まあ、聞けば分かるよ~。はい、秋城さん目瞑ってー。エコーかけてる間は目を瞑っててねー」

「お、おう?」


 つまりエコーをかけている間はシチュエーションボイスの真っ最中ということだろう。俺は背もたれに寄り掛かりながら目を閉じる。確認はできないが、秋城のモデルも目を閉じているはずだ。


「あ、目を瞑ったね。セイち準備いい?」

「いいよ~、でも、これ意識するとなかなかに恥ずかしくないかい?」

「うーん、割とそうでもないかも?シチュボはシチュボって割り切りがうぃんたそにあるからかなあ?」


 うぃんたそのシチュボは毎回とてつもなく甘い。俺だったらこれを演じた後床を転げまわってしまうのではないか、というぐらいに甘いものが多い。だけど、そっかーうぃんたそは割り切ってるのかーとちょっと寂しい気持ちが通過してしまう。


「あはは、そうやって割り切れるのはうぃんちゃんの強みだよね。じゃあ、そろそろ始めようか」

「らじゃっ」


 そして、数秒の沈黙のあとぷつ、と恐らく2人のマイクのエコーがオンになる。さあ、対秋城シチュボとやらの開始だ。


「秋城先輩っ、おはようございますっ」


 ほっ⁉⁉⁉⁉?!⁉?!!俺は手で口を押えて出そうになった声を飲み込む。先輩⁉


「……え、今日も元気だな?だって、秋城先輩の前だよ?元気にもなるよ~。秋城先輩に会うためにうぃんたそ苦手な早起きも頑張ってるからね」


 なんとなく頭の中にぽやん、と思い浮かぶ朝の登校風景。高校、だろうか、大学ではないよなあ、なんて考えながらヘッドフォンの音に耳を傾ける。すると、とんとん、と肩を叩くSEが入って。


「やあ、おはよう。秋城クンにうぃん後輩。今日もいい天気だね……おや、秋城クン、ネクタイ曲がってるよ?……ふふ、これで大丈夫かな?」

「あーっ、またそうやってセイラ先輩はすぐ秋城先輩にべたべた触るーっ!秋城先輩はうぃんたその秋城先輩なんだけどなっ」

「はは、秋城クンはボクのものだよ。ポっと出の後輩より幼馴染の方が強いに決まってるだろう?」


 何の強弱だ。心の中でツッコみつつ、俺は現状を咀嚼していく。……所謂学パロ設定で、うぃんたそは俺の後輩。で、セイラが幼馴染兼同級生、多分。2人ともかなり俺のことが好き、なのだろう。という設定から推測できるのは、多分、これを書いた視聴者のわたあめ主がとても秋うぃんと秋セイが好き、ということだ。

 なるほどなるほど、対秋城シチュボってそういうことね。俺はふんふん、と頷きながらシチュエーションボイスの続きに耳を傾ける。


「え、朝から喧嘩するな……まあ、それもそうだねぇ。でも、この喧嘩の原因は秋城先輩なんだよ?ねえ、セイラ先輩?」

「そうだよ、秋城クン。君がボクとうぃん後輩の告白を保留し続けて、半年……そろそろ答えを決めてもいいんじゃないかな?」


 ……え、わたあめ上の俺そんなことしてるの?俺にそんな女たらしの器量ないぞ?


「お前らのことが等しく好きだから決められない?そんなの許されると思ってるのかな?思ってるのかな?秋城先輩……」

「そうだね。気の長いボクでもそろそろどうにかなってしまいそうだ。ちなみにボクを選ぶとボクが……その、膝の上でごろごろにゃんにゃん……秋城クンにあ、甘えちゃおうかな、なんて……?」


 此処でテレるのがセイラクオリティ。自分の顔面はこれでもかとゴリ押してくるのに、世間で恋人がやるような行為を口にしようとすると照れが先に来てしまうのが乙女セイラである。


「え?あたしは……うーん……じゃあ、逆に秋城先輩は何をして欲しい?うぃん後輩は先輩が願うこと全部を叶えちゃう……だってうぃん後輩にはそれができちゃうから。だから、ね、先輩?」


 うぃんたその献身。先輩に全てを捧げちゃう系後輩、板な設定ではあるが、それ故に強く、そんな後輩を捨て置くことなんて俺にはできないっ、そう思わされる魔力のある設定だ。うぃんたそに包み込まれるゥ~~~~。

 そうして、うぃんたそとセイラにサンドイッチにされていると流れる学校のチャイム。


「おやおや、時間が来てしまったようだね。……これは走るしかないね」

「そうだねえ。あーあー、セイラ先輩との決着つけ損ねちゃった」

「いくよ?秋城クン」

「いこっ、秋城先輩っ」


 数秒の無音、ぷつ、とエコーの切れる音。俺は瞼を開けて、声を上げる。


「……後輩うぃんたその概念凄くよかったし、乙女セイラを盛り込んでくるのもよかったんだが……わたあめ上の俺最低過ぎんか⁉」


『それはそうwwwww』

『半年告白の返事を保留してるしなww』

『しかも二人分』

『その上、しっかり二人ともイチャついてる』


「俺はそんな器用な男ではない……絶対この秋城は童貞じゃねえ……‼」


 あ、ちょっと言ってて悲しくなってきた。


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