そして、来たる週末。
俺はといえば、あの報告の日の翌日急いでウニクロに行き、新しい洋服を調達したのだった。冬服がないわけではないのだが、鈴羽と2人で出かけるというのだ、極力身綺麗な格好で行きたい、そう思ったから。
そして、全身新しい洋服に身を包んだ俺は秋葉原駅電気街口の駅にくっついたショッピングセンター・ラトレの入口横に立つ。此処は毎回来るたびに違うアニメのラッピングがされていて見ていて飽きない。……それにしても、だ。
「……やっぱそうだよな?」
トドバシカメラは昭和通り口の方が近い。電気街口だと真逆もいいところだ。だけど、指定されたのは電気街口だった。なんでだ、なんて首を傾げる。……まあ、もしかしたら鈴羽がトドバシ行く前に寄りたいところがあるのかもしれない。俺はそう自分を納得させながら、端末を開く。見ると、1分前ぐらいに鈴羽からLEINが来ていて。
そのLEINを開こうとタップしようとした瞬間であった。
「隼人」
呼ばれて顔を上げれば———そこには今日も凄く決まっている鈴羽の姿。オーバーサイズ気味な厚手の上着とふわふわに巻かれた髪の毛がマッチしていて。……でも、スカートはミニで脚を出しているのを見て、少し寒くないか心配になったりもして。でも、トータル凄い可愛い。
「ごめんなさい、待たせたわね」
「いや、電車の都合で少し早く着いただけだから。気にすんなー」
そうそう。なんだったら時間的にはまだ集合時間前だし。俺は鈴羽をガン見するのも失礼な気がして、努めて不自然じゃないように視線を逸らせば、鈴羽が口を開く。
「あら、今日は褒めてくれないのね」
ちょっと残念そうに視線を伏せる鈴羽。俺はもう秋から冬に移り変わる時期だというのにじっとりと手に汗を掻きながら手を何度か握り鈴羽に向きなおる。
「いや……その、凄く可愛い、です……」
「そう、それならよかったわ」
ふにゃり、と嬉しそうに微笑む鈴羽の姿。そんな姿がまた可愛くて、俺はヲタク特有の所謂萌えを感じながら口を開く。
「そ、そういえば、なんで電気街口?トドバシ行くなら昭和通りの方が近くね?」
残念ながら声は裏返ったし、視線は途中で逸らしたり、と俺は全然格好がつかなかった。無念。
「そうね、隼人がいるのだし、トドバシに行く前に行ってみたいところがあるから、かしら」
「行ってみたいところ?」
秋葉原の電気街口に鈴羽みたいな女の子が行くところがあっただろうか。電気街口方面にあるモノなんて、コンカフェとゲームセンター、カードショップにあとはヲタクグッズの中古販売店ぐらいしか想像がつかなかった。というか、実際にそれぐらいしかない。
「カードショップよ。デジタル版に触って、今のバトマスも少し見てみたくなったの」
「え、マジ⁉」
まさか、デジタル版をやってくれるだけでなく今のバトマスにまで興味を持ってくれるなんて。俺はまさかの展開に心の中でガッツポーズをする。
「マジよ、大マジ。でも、その、1人で入るのはカードショップって勇気がいるのよね。だから、隼人に案内してもらいたくて」
「モーマンタイ。そう言うことなら喜んで案内させてもらうわ」
まあ、実際鈴羽の言っているように、これは男性女性問わず、カードショップはなんとなく入りにくいらしい。でも、そんなところに勇気を出して行ってみたい、と言ってくれているのだ。それはもう案内をするしかないだろう。というか、これを機に紙のバトマスにももう一回触ってくれたら尚更嬉しい。
「んじゃあ、行くか。あ、店が狭いところばかりだからそこは頭に入れておいてくれ。えーと、……ってそんな気負っていくところじゃないな」
苦笑を浮かべる。折角行きたいと言ってくれているのに、細かい御託を並べてその気持ちを萎えさせてはいけない。俺はヲタク的早口にストップを入れる。
「あ、でもこれだけ」
「あら、なにかしら?」
「……たまに異臭を発するやつは居ます」
残念ながらこれはいる。ネタでカードゲーマーが臭いって言うのは鉄板だが、ネタにできないくらいガチなのもたまにいる。俺が真剣な顔で言えば、鈴羽はきょとんと、したあとフ、と笑う。
「よくゆったーで見るやつね。……あれ、もしかしてガチなのかしら?」
「ガチです。なので、変な臭いがしたら察してくれ……耐えきれなかったら言ってくれれば出るから」
「大丈夫よ、……多分」
そうだよなあ、多分、としか言えないよなあ。
「まあ、行ってみるか。とりあえず」
「ええ、じゃあ、案内よろしく」
「おう」
そうして、鈴羽と肩を並べて秋葉原の街を歩く。俺にとってしてみれば電気街口は俺の庭、と言えるぐらいには来ているところではあるが、鈴羽からすると物珍しいらしい。話を聞いてみれば、昭和通り口のトドバシには行くが、電気街口はからっきしならしい。
「こんなに狭い区間にゲームセンターが何件もあって食いあわないのかしら」
「それな。でも、何故か潰れないんだよなー」
なんでだろうね。俺も流石にゲームセンターがあることは知っているが、ゲームセンターはあまり入ったりしないからよく分からん。
「これ、ネットで見たことあるわ。二郎系ラーメンの有名店よね……」
「そうそう。す、鈴羽は二郎系とか食べれる人?」
「食べたことないわね。ラーメン自体あまり食べないというか……」
「まあ、確かにイメージがないな」
うぃんたその放送を聞いていても、外食の話題でよく聞くのは肉系だし、家ではラッシュご飯というお話だし。そもそもラーメン自体あまり食べないのだろう。
「……あまりオタクの街って感じがしないわね」
「まあ、あまりにも外国人が増えすぎてな。カードゲーマー1割、コンカフェ系3割、外国人6割が俺の体感だな」
「隼人も行くのかしら、コンカフェ」
「入ったことすらないな」
残念ながら。俺のCSやらなんやらの友人たちには常連もいるそうだが、俺はあまりコンカフェには興味が湧かなかった。