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第21章 自語りってアリですか?④


 そうして、デッキコーナーの前で俺がバトマスの布教活動をすること30分弱。鈴羽が無事に環境tier1デッキであるKO退化を購入してお店を後にすることになった。


「まさかいきなりデッキを買うとは……」

「そのために来たんだもの、カードショップ」


 鈴羽の行動力に俺は心の中で拍手を送りつつ、秋葉原駅の方に向かって歩いていく。


「んじゃあ、次は俺の買い物だな」

「ええ、今度は私がどの機械がいいか布教してあげるわ」

「つっても、やっぱりす、鈴羽が使ってるやつが一番いいんじゃないか?」


 いいから使っているのだろうし。俺がそう問いかければ、鈴羽は唇を尖らせて考える。


「……そうね、でも、システムバンドのどの素材がいいとか、それこそ色や形なんかの好みもあるわけだし。一概に私の使っている物が一番おすすめ、とは言えないわね」

「まあ、それはそうだな」

「結局は好みよね。此処に世那も居たら比較ができたのだけれど……」

「あれ、あ、会社から同じものを渡されている訳じゃないのか?」


 @ふぉーむと言いかけて俺は咄嗟に言葉をぼかす。秋葉原の街のど真ん中で@ふぉーむの名前を出すわけにはいかない。


「放送で使う機材に関しては、個人で選んで購入しているわ。で、後で領収書を提出して5割ぐらい返ってくる感じね。と言っても上限額があるのだけれど」

「まあ、使い心地とかメーカーのこだわりとかあるもんな……」


 それにしても5割負担でいいのは普通に羨ましかったりする。くそう、これが企業所属と個人勢の差か。


「ええ。だから、他のメンバーから聞いた感想なんかも交えて今日は機材の使い心地を教えていこうと思うわ」


 そうして、そんな会話をしているうちに今日の大本命の目的、トドバシカメラに着くのであった。



 そうして俺たちはエスカレーターで2階に上がる。そうして、鈴羽について角を2、3回折れれば、それは目の前に広がっていた。


「お、おおおお……⁉」


 結構でかい一画。VTuber向け配信用品コーナーと大々的に括られていた。そこにはゲーミングパソコンに始まり、各ゲーム機器、ヘッドフォンやキャプチャーボード、ウェブカメラなど、まさにここに来ればモデル以外はなんでも揃うと言わんばかりに様々なものが置かれていた。そんな、機材の森を抜けて奥の方。ちょっと開けた空間にモーションキャプチャーの文字と共に様々な機材が展示されている。


「ここね。ちなみに改めて慣性式でいいのよね?」

「ああ、問題ない。生憎部屋は狭いからな」


 流石にカメラを何台も設置できる広さはない。残念ながら。


「そう。じゃあ、まずは私の使っているものから———」



 割愛。鈴羽の使っている機械に始まり、誰がどの機械を使っている、他の会社だが男性VTuberはこれが多い、そんな話をしながらじっくり吟味すること数時間。途中、8階のレストランフロアで休憩を挟みつつ、俺は無事にモーションキャプチャの機械をゲットすることができた。

 会計で家に配送してもらうための手続きをして、鈴羽の元に戻る。鈴羽も買ったものを家に送る手筈にしたのだろう、荷物は一切増えていなかった。


「あー……終わった。今日は本当にありがとうな、す、鈴羽」

「ふ、いい加減呼び慣れなさいよ」

「まだ、緊張するんですヨ……あ」


 鈴羽と並んで歩いていると目に入るVR機器のコーナー。俺がなんとなく立ち止まれば、鈴羽も俺の隣に並ぶ。


「VR機器?」

「ああ、最近増えてきただろ?VRゲー。俺もそろそろ導入すべきかな、って」

「悪くない試みね。ついに世那も導入したし」

「そうそう。見た?ホラゲー見守り配信」

「……見たわ」


 なんかいま妙な間があったような。そう思いながら鈴羽をちら、と見ればVR機器を持ち上げて装着はしないも覗き込む鈴羽。


「……私もこれを買ってホラゲープレイすれば隼人が見守り配信してくれるのかしら?」

「え、俺じゃなくても同僚でも見守ってくれるだろ、天下の———」


 言いかけて止まる。いけない気が緩むとすぐこれだ。俺が口を噤んだのを見て、鈴羽は「いい子」なんて零してからもう一回口を開く。


「じゃあ、隼人は見守ってくれないのね」

「え、え、見守るというか放送は絶対に見に行くが……」

「コラボでの見守りは?」

「え?」

「コラボでの見守り」


 鈴羽がVR機器を置いてちょっと不機嫌そうに問いかけてくる鈴羽。これ、許される答え一つしかなくない?ていうか、急展開。え、どうした。うーん、でも、これ断る理由もなく手ですね。つまりは。


「俺で良ければ????」

「よろしい、これも買っちゃいましょう」

「そんな軽いノリで⁉」


 言っておくが、これもこれでそんな安いモノではない。え、俺が見守りコラボしてくれるからなんて理由でこんな大金動かしちゃうの?俺は鈴羽のフットワークの軽さに戦々恐々としてしまう。すげえ、これがオリコン1位の今を時めくVTuber、鈴堂うぃん。金持ちだ。


「軽くないわよ?推しがコラボしてくれるのだもの、買わない理由はないわ」

「いやいやいやいやいや……そんなん買わなくてもいくらでもコラボするって……」

「いくらでも?」

「……は、言い過ぎだな」


 流石に俺のリアルの予定も挟まって来てしまうのでいくらでも、は言い過ぎた。でも、鈴羽が、うぃんたそが望むのなら俺はいくらでも駆け付けたい。その気持ちは嘘ではなかった。というか、推しに望まれてるんだぜ?断れるわけがねえ。


「最後の最後に締まらないのが隼人ね。かわ……なんでもないわ」


 可愛いって言いかけましたね?なんだろうなあ、言われて悪い気がしないのが尚更質が悪い。


「んで、俺は買わなくてもコラボするけど……」

「まあ、それとは別件で買うわ。社内で流行る兆しがあるものは早々に押さえておくにこしたことがないもの」


 それはそう。この間のセイラの見守り配信の際、セイラがうっかりお漏らしした、他の@ふぉーむ社内のVTuberたちがプレイする兆し。そういうのは敏感に拾っておくことにこしたことはない。もしかしたら並走とかやるかもしれないしね?


「おう、ちなみにどれ買うん?」

「とりあえず、こだわりとかは抜いて最大手のロキュラスの新型機かしらね?こういうのは初心者がマイナー機を使おうとすると事故が起こるものって定石があるもの」


 それはそう。最初はとりあえずサポートが手厚い大手メーカーのモノが一番安心できるだろう。


「じゃあ、ちょっと買ってくるわ。自販機コーナーのベンチで座って待ってて頂戴」

「あいよ」


 そう言って鈴羽が購入札を一枚手に取ってレジへぱたぱたと走っていく。俺は鈴羽に指示された通り、自販機コーナーでカフェイン飲料を買い、それを片手にベンチの端っこに腰かける。そして、空中を仰いで今日一日を振り返って思い至る。


(……今日鈴羽むっちゃデレてくれてない?)


 え、ずっとこんなんだったっけ?なんか今日無茶苦茶距離が縮まっている気がする。俺は記憶が捏造でないことを願いながら今更ながら震えている手でカフェイン飲料缶を開ける。……傍から見たらカフェイン中毒者のソレである。

 そうしてカフェイン飲料に口を付ければ、喉を伝う冷たい感触に思考がクリアになっていく。……そして、クリアに思い出す鈴羽の拗ねた顔。

 ———コラボでの見守りは?

 放送を見守ってほしいのではなく、コラボで見守ってほしい、そんな鈴羽の要望が意地らしくて可愛くて、此処が人目のないところだったら俺は胸を押さえて蹲っていたかもしれない。

 というか、いきなりどうしたんだろう。なんか俺鈴羽の好感度が上がるようなことしたっけ?いや、そもそも好感度が上がった結果なのか?どっきり?どっきり?と思考が忙しなく動く。それぐらい今日の鈴羽は距離が近かった、ドキドキした。


(あー、……普通の男だったら此処で勘違いするよなあ)


 そう、あくまで鈴羽は俺を、秋城を推してくれているだけなのである。だから、そこに不純なものを俺は持ち込みたくなかった。だから、このドキドキは間違いなのだ。そう思うと、浮足立っていった俺の気持ちも収まっていって。


「隼人っ」


 ぱたぱたと駆け寄ってくる鈴羽に「おかえり」なんて言葉をかけてからカフェイン飲料を飲み干し、その缶をゴミ箱に捨てる。そして、端末を一瞬チェックすれば、世那からメッセージが来ている。


「世那、もうすぐつくみたいね。私たちも向かいましょう?」

「だな。えーと、夕飯の待ち合わせは……」

「昭和通り口の改札。此処からならすぐよ」


 そんな会話を交わしながら、俺たちは秋葉原駅に戻るのだった。



「隼人~~~すーちゃぁん~~~‼」


 そう駆け寄ってきた世那は俺と鈴羽の間にするり、と入り込み俺たち2人と腕を組む。俺、世那、鈴羽のサンドイッチだ。


「終わった~~~~終わったよ~~~マジ超会いたかった~~~」

「お疲れ様、世那。今日は……無事そうね」

「超無事。今日はあまり体力系じゃなかったからね~。すーちゃんと隼人は機材買えた?」


 俺と鈴羽の腕をぶんぶんと振り回しながら世那が問いかけてくる。


「おう。とりあえず、ノルンにしたわ」

「あーねー!男Vの定番じゃん~やっぱり耐久性?」

「だなあ、シリコンだと引きちぎりそうで」

「隼人の腕はどんなゴリラ握力なのかしら」


 そんな会話をしながら、一旦世那に手を放してもらい、俺は店までの地図を出す。ちなみに世那は鈴羽にべったりである。カップルか。

 そうして、俺たちは目的の焼肉屋さんまで向かうのであった。


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