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第22章 秋城の逆人生相談配信ってアリですか?


 駅から徒歩十数分。

 ついたのはちょっとこじんまりとした個室焼き肉店だった。こじんまりとしているが、その手の……ちょっと大衆店に行くのが憚られる人たちご用達のお店らしい。

 そんなお店に臆することなく、世那も鈴羽も入っていくため、俺もついていくことになる。


(お洒落な店だ……)


 間接照明が淡く店の廊下全体を照らしている、所謂、いい雰囲気というか……俺には縁遠い店というか。普通に緊張するというか。そう俺が、店をきょろきょろと見回しているとくい、と袖を引っ張られる。そして、そのまま視線を下ろせば鈴羽が俺を見上げている。


「緊張してる?」

「……少し。慣れないわ、やっぱり」

「ふふ、慣れるまで連れまわしてあげるわ」


 間接照明でいい感じに照らされる鈴羽。薄暗い中で、瞼の上のラメがきらきらして一際目を惹いた。



 まあ、緊張すると言っても個室で3人になってしまえば空気は緩んでいくわけで。俺たちは着こんだコートを脱いで、店のタブレットを順繰りに回していく。そして、飲み物とお通しが届けば———。


「じゃあ、えー……隼人の3D化を祝して?」

「なんで疑問形なんだよ」

「祝して!KP~~~~‼」


 そうして、各々グラスを軽くぶつけていく。ちなみに、お通しはクリームチーズの入ったキムチ。……それを見て、これは、と思い俺は声を上げる。


「世那、お通し食えそうか?」


 世那は、辛いモノが苦手である。セイラとしてバラエティに出ているときはなんとか食べているみたいだが……私生活ではピリ辛程度でも避けているぐらいだ。


「んー……甘いキムチに賭けて一口だけ食べてから隼人に渡すか考える」

「了解」


 そうして、俺が近くにいるときは駄目そうなら俺が食べてしまうのが恒例だった。俺と世那のそんな会話を鈴羽が驚いたような目で見てくる。


「す、鈴羽?」

「……あ、その。距離感近いわね」

「そうか?残飯処理してるだけだろ?」

「……そう」


 鈴羽が鈴羽のグラスに入った、なんだっけ、ギブソン……?というカクテルに口を付ける。そんな姿も大人っぽいというか様になって、そんな鈴羽に見惚れていると、世那が声を上げる。


「隼人、ごめん、やっぱ無理ぃ……」


 一方、世那は俺にクリームチーズのキムチを差し出しながらこのお店のオリジナルノンアルカクテルだといういちごのカクテルをそれはもうカクテルを飲む速度とは思えない速度で消費する。余程辛かったんだろうな……。


「あいよ」


 俺は世那からクリームチーズのキムチを受け取って、それに箸をつける。


「お、美味い」


 口の中に放り込めば、キムチの刺激をクリームチーズがまろやかにしてくれて。これはいい酒のアテだな、なんて思いながら俺はコークハイを流し込む。すると、こんこん、と扉がノックされる。それに鈴羽と世那が対応してくれる。


「お肉来たよ~」

「さて、早速焼いていきましょうか」


 そうして、焼肉パーティーが始まったのだった。



 お肉をひとしきり食べて、一旦休憩、なんてなったころ。唐突に世那が声を上げる。


「そういえば」


 俺と鈴羽が世那の声に首を傾げれば、世那はマドラーで飲み物をかき回しながら口を開く。


「隼人って元々秋都って名前だったん?」

「え……?」


 冷めた焼肉が箸先からタレの器に逆戻りする。世那が口にした名前、それはまごう事無く、俺の前世の名前だった。いや、別段隠す情報でもないのだが……。


「……なんで、俺の前世の名前を……」


 いや、うん、本当に隠すような情報でもないのだが。それでも、自分が話していないことを言い当てられるとえも言われぬ感覚がしてしまう。


「あー、やっぱりそうなんだ……。うーん、これはちゃんと話さないとだなあ……」

「ん?ん?」


 世那がグラスをテーブルに置いて両腕を組んでうんうん、と唸る。話さないと?なにを?疑問符が俺の頭の中を埋め尽くす。


「勿体ぶるわね」

「勿体ぶってはいないよ?ただ、どう話したものか……うーん……端的に言うと秋城のアカウントが消えかかっているお話というか」

「「え?」」


 俺と鈴羽の声が重なる。え、え、なんで?なんで俺のアカウント消えそうになっているんだ?しかも俺の知らないところで?えー?

 焼肉どころじゃなくなった俺は静かに箸を置いて世那の言葉に耳を傾ける。


「ちょっと長くなるんだけど聞いてくれる?」

「それは構わんが……」

「ついでに、……秋都さんのお話にも触れることになるんだけど」

「いや、それも構わないが」

「ちょっと待って」


 鈴羽が片手を上げる。


「それ、私が聞いていい話かしら……?その、隼人のとても個人的なことかもしれない話をするわけでしょ?……私、一回出た方がいいんじゃ」


 鈴羽はちょっと焦った表情で言う。こういう時に好奇心より先に配慮が来る、鈴羽の心遣いに胸が温かくなった。———が、廊下で待っているわけにもいかないだろう、そうなってくると必然的に店外で待つことになる訳で。そんな寒いところで鈴羽を棒立ちにさせておくのは俺が罪悪感でやられてしまう。

 ま、聞かれて困る前世での行動なんて……俺の夜のおかずコレクションの具体的な内容ぐらい?なので、まあ、そんな話にはならないだろう。


「いや、鈴羽さえ苦痛じゃなきゃ俺は聞いてくれて構わねーよ。秋城のアカウントが消えかかってる、は鈴羽としても気になる話だろ?」

「……それはそうなのだけれど。いえ、構わないと言われてるのだから、これ以上は野暮ね」


 鈴羽は自分を落ち着けるようにカクテルに口を付けてから、椅子に座りなおす。


「じゃあ、話すよ?……これは、先週末のお話なんだけど———」


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