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第24章 カードショップ経営ってアリですか?④



「いや、熱を入れ過ぎてしまった……」


 あれから俺は店舗の改装に勤しんだわけだが。途中でどうやらレジや元から置いてあった商品棚を動かせることに気づいた俺は最適な配置をついつい目指してしまった。


『秋城凝り性か?』

『途中から雑談枠と化してたな』

『でも画面は目まぐるしく動いてた』

『秋城ジオラマとか好きでは?』


「ジオラマとかは触ったことねえな。でも、このゲームほら、自分の店ってことだろ?できれば限界値まで理想の店目指したくね?」


 俺の言葉に納得を示すコメントたち。そんなコメントたちを見つつ、俺は口を開く。


「というかこのゲームなかなかに終わりどころが分からねえな。キリがいいがなかなかないというか」


『まあ、だからみんな延々とやってるからね』

『キリがいいのはパック開けて終わり!とか?』 

『シミュレーションゲーは無限にできるからな』

『もうそろ今日は終わりなん?』


「そうだな。時間的に?明日早いお前らも居るだろうし、俺も予定あるしな。んじゃあ、コメントで提案いただいた通り1日目に開けた箱の余り開けて終わりにするか。ショーケースのためにもパック開けなきゃだしな」


 俺はそう言いながらレジの上に放置されていた箱の中に入っているパックをするすると剥いていく。


「ちなみに初弾の最高レアってどれぐらいなん?」


『64万ぐらいじゃなかったっけ?』

『64万』 

『64』

『640k』


「逆に初弾でその値段出るのか。このゲーム無茶苦茶パック剥かれるんだろうな」


『一番剥いてるのはショップ店員だから』

『半狂乱になって』

『パチンコを回すように』

『5桁以下のカードはゴミィ!とか言いながら』


「ギャンブルは人の心を狂わせるよな!」


 まあ、初弾だし、出ない。そんな気持ちで淡々を剥いていく。はっはっはっーそうして、コメント欄を見ながら適当にパックを剥き剥きしているとコメント欄の流れが変わる。


『⁉』 

『秋城、わざとか?』

『秋城今画面見てた???』

『コメント欄見てたか?』


「え?な、なんだ……?」


 コメント欄のざわつきに俺は適当にパックを剥き続ける手を止める。


『秋城カードコレクション見てみろ』

『今凄いの引いてた』

『幸運値うぃんたそ依存だと思ってたわ』

『自力で引いてきやがったぞこいつ』


「ん、ん、ん?え、まさかぁー」


 俺がもしかしてコメント欄見てる間になんか凄い撮れ高見逃してた?マジか。俺はいそいそとパックから手を放して、カードコレクションファイルを開く。そこには————。


「おあっ⁉おおぉっ⁉は?マジか‼‼」


 虹色に輝くドラゴンのカード。視点を合わせればカードの価値64万。


「最高値じゃねえか!え、俺こんなん見落としてたのか!?!?!?!」


『てっきりわざと流したんかと』

『あまりにも無反応だったから』

『わざとじゃなかったんか我ェ!』

『流石。ただじゃ終わらない男』 


「いや、引いた瞬間に反応したかったわ。わー、うわ、わー。とりあえず、ショーケース入れるか。値段は……」


 とりあえず売れて欲しいというよりは高額カードを見に来てパックとかを買って欲しいという気持ちの90万。いやはや。


「うわ、バトマスじゃないゲームの高額カード引くとどう評価していいかなかなか分からねー」


『まあ、ルールも分からないゲームなんで』

『とりあえず光ってて高い、程度で』

『見た感じゲームのレアリティ感はロケカよりなんかな?』

『HRって感じやね』


「となるとまだまだこれからの弾で上のレアリティが出るな。お、それ考えるとここで運を使ってよかったのか悩むな」


 俺がカラカラと笑いながら言えばコメント欄も同意を示してくれる。さてさて、今日はこれぐらいで切り上げるのが丁度よさげだ。


「さてさて、んじゃあ、高額カードも引いたところで今日はこの辺で区切りよく切り上げるか」


『キリもええしな』

『最後にいいもん見たわ』

『おあとがよろしいようで』 

『秋城の抜けてるところ見れて面白かったわ、チャンネル登録したやで』 


「お、ありがとな。抜けてるところっつーか、珍しくコメント欄を追ってた時に出たからな、マージで指摘されて驚いたわ」


 そして、一旦一呼吸を置いて。


「んじゃあ、放送閉めるぞ~おつしろ~」


『おつしろ』

『おつしろ~』

『乙』

『おつしろ~~』





「ふぅ」


 放送を切って背もたれに深く腰掛ける。なんだか今日の放送は心なしかちょっぴり寂しかった気がした。いや、いつも通りの一人の放送だというのは変わらないのだが。なんだろう、ここ最近コラボばかりだっただろうか。


「ちょっと不味いか?」


 思わず苦笑を漏らす。1人で配信を回せない、はVTuberとして致命的だ。それはよろしくない。まあ、選んで一人の放送をしている訳ではなく、必要に駆られて一人になってるから、周囲が忙しそうだから尚更置いてかれたような寂しさを感じているのかもしれない。

 それに、俺もやらなきゃいけないことがない訳ではない。3D化お披露目配信記念でなにをやるかとか具体的に詰めていかなければいけないし、ノルンとパソコンが正常に繋がるかも確認しなければいけない。

 そこまで考えて、これ放送外だな、なんてまた苦笑を漏らす。


「ま、初心に戻って一人で放送回しますか」


 と言っても、直近忙しいとは言いつつもうぃんたそもセイラもその間を縫ってコラボの予定を立ててくれている。なのでその間ぐらいは一人で放送をしてみせようではないか。というか、うぃんたそは忙しい時間を縫って俺の放送も見てくれているんだ、大事な時間を使って、だ。だったら尚更いい放送にしなければいけない。


「気合い入れなおさなきゃな」


 俺は背筋をピン、と伸ばして脱力してから自分の両頬を叩いてやる気を入れなおす。

 というか、うぃんたそのためにも、だが登録者数もじわじわ伸びていっている俺を見てくれている人が増えているのだ。そんな人たちのためにももっと気合を入れて放送をしなくてはいけない。

 そう思うとどこか空っぽだった心にも目に見えない何かが詰め込まれて。俺は体の端までやる気を感じながら立ち上がるのだった。


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