「お、声入ってるか~?」
『入ってるやで』
『入ってる』
『少し大きくない?』
『ちと大きいな』
「お、大きいか。俺の声ちょっと下げるな~その間にセイラもチェックしてくれ」
「任されたよ、秋城クン。星よ煌めけ!ボクが届けるみんなの願い星!星羅セイラだよ~。みんな、ボクの声はどうかな?」
俺が音量調整と格闘している間にセイラが場を繋いでくれる。
『セイちは今日も完璧』
『問題なし』
『大丈夫やで』
『大丈夫』
「うんうん、今日もボクは完璧だって~」
「お、じゃあ、セイラの方は弄らなくていいな。俺の声はどうだ?」
『お』
『いい感じ』
『ま、対面セイラならこんなもんだろ』
『これ以上はセイちに負けるな』
どうやらいい感じの音量になったらしい、俺は安堵に胸を撫でおろしながら少し声を張る。
「つーことで、こんしろ~、秋城の生放送、はっじまるよーゆっくりしていってね」
ということで今日の生配信開始だ。
「ふふふ、さて、秋城クン。今日は秋城クンの初視聴者参加型だね。自信のほどはどうだい?」
「自信か。一応、セイラとテストプレイはしたけどいまいち必勝法とかは分かってないからな……まあ、でも、視聴者が楽しんでくれればいいな、って感じだな。その上で俺が勝つ」
「最後に本音が出たね」
セイラが秋城をじとっとした瞳で見つめてくる。
『その上で俺が勝つ(キリッ』
『まあ、勝ち負けのあるゲームだからな』
『熱が入るよな』
『対よろ』
「やるからには勝ちたいからな。そういえばセイラ、今日は視聴者参加型ってことは@ふぉーむさんに許可取りしてくれたんだろ?ありがとな」
「あ、今日は許可取りなしで大丈夫だったよ。ボイスチャットオフなんだろう?それならいつも通りマネちゃんチェックのみでOKだって」
「マネちゃんさんチェックがいつも通りなのは横に置いておいて、なるほどな」
そうして、俺は一呼吸おいてから再度口を開く。
「ということで今日は『die&alive ber』をやっていこうと思うぞー。ボイチャ、ボイスチャットはこっちでもオフにしておくが、お前らの方でマイクミュートも頼んだ」
そうして、俺は秋城とセイラのモデルを両端に寄せて画面中央にゲーム画面を映し出す。でかでかと映し出されたタイトルがネオンで彩られて光っている。
「ちなみに万が一セイんちゅやお前らの声が入ったら放送が飛びます。ちゃんとオフにしておくれよ?」
『了解』
『ルールを守って楽しい放送を、だな』
『嘘をつくのはゲームでだけ』
『放送飛ぶのはやばいな』
「お前ら頼んだぞー。ということで、一応初見のお前ら、セイんちゅのためにゲームのルールも説明しておくか」
そうして俺はこのゲームのルールを語り始める。カードは4種類、ダイヤ、スペード、ハートのカードが各6枚ずつ、ジョーカーが2枚。テーブルからスートが指定されるので、裏向きでカードを出して行く、が大まかな流れだ。その中で、自分の前の人間が指定されたスートを出してない、と思ったら告発し、告発が成功したらされた側が、失敗したらした側がロシアンルーレットを行う。そして、最終的にメンバーが一人になるまで行うゲームだ。ちなみにジョーカーはなんのスートにも属してくれるまさに切り札。
「テストプレイの時も思ったけどこれ難しくないかい?」
「単純だけど、初手で引かされるカード次第で難易度変わってくるゲームではあるな」
「しょて?」
「初期手札、だな」
『まあ、慣れないうちは難しい』
『慣れてくるとまあまあ』
『二人とも初見ということは』
『今だ!やれ—————ッ‼』
「はは、お手柔らかにな。えーと、これ先にセイラとマッチングしとけばいいのか。セイラ、チャットにルームコード送るわ」
「了解したよ」
そうしてプライベートマッチのコードをセイラとのチャットに送信する。
「えーと……こうか!」
そんな言葉と共にセイラが入室する。
「よし、入室コード公開するぞ~。あ、言い忘れてたんだが、1試合終わるごとに交代制で頼んだ」
「色んなセイんちゅやお前らとマッチングするためだね。ずっと居座ったりしたらBANすることになってしまうから、ルールを守って楽しくゲームをしようじゃないか」
「おし、んじゃあルームコード公開するぞ~」
そうして、俺がコードを隠している秋城の体をずらせばそこそこ長いコードが表示される。これは時間かかるか、なんて思ったのも一瞬。すぐさま俺とセイラ以外の2人がマッチングした。
「はやっ」
「みんなやる気満々だね。そう言えば、秋城クンはアバターなににするか決めたかい?」
このゲーム、豚、兎、狼、サイ、アライグマの5種類の動物の3Dアバターが選べる。もちろん、何を選ばなきゃいけないルールなんてないのだが。
「え、豚」
「秋城クンアールクンの放送見たのかい?」
「ご名答」
何を選ばなきゃいけないなんてルールはない。だけど、このゲームの震源地である@ふぉーむ3期生の月城アールという男のVTuberが『die&alive ber』をプレイしたときに言ったのだ。「俺はヲタクだから豚を使うよ」。結果、このゲームを配信するVTuberの多くでは現在豚アバターが大流行中である。「俺も私もヲタクである」ということだな。それに俺も乗じさせていただくことにしたのだ。
『本当に手広く見てるな』
『まあ、V豚言われれば否定できんしな』
『これでアバターの表情豊かなのもズルい』
『なんだかんだ豚のアバターになるよな』
そして、俺が豚のアバターを選べば、セイラ以外の2人も豚のアバターになる。
「え、えー、ボクだけ仲間外れは嫌だけど豚アバターも嫌だなあ、うーん」
「好きに選べばいいと思うぞ。ただの流行りだしな。アイドルが豚のアバターはハードル高いだろ」
「秋城クンがボクをアイドル扱いしてくれてる……⁉」
セイラが両手で口を覆う。そんなに驚くようなことか?
「一応アイドルだしな、一応」
『本物のアイドルなんだが?』
『本物だよ、一応』
『一応な』
『本物(一応)』
「一応じゃなくても本物だからね⁉全く……!そうだね、じゃあ、ボクは兎のアバターにしようかな」
そうセイラが兎のアバターを選択すれば、小汚い豚3匹の中に現れる赤いドレスを纏ったセクシーな兎。その光景を見てついつい思ってしまうのは———。
「ヲタサーの姫だな」
『wwwwwwwww』
『言いたいことは分かる』
『囲いが豚なのも込みでなwwww』
『草』
「思ってもボクは言わなかったんだけどな!」
「はは、おし、じゃあゲームを始めていくぞーマッチングしたお二方は放送画面は見ないようにしてくれ~」
俺はそう注意を促しながらゲームスタートボタンを押す。一瞬のローディング画面の後、場面は切り替わり、お洒落なバーのテーブルで向かい合う兎と豚たち。