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第25章 セイラと命がけのゲームってアリですか?②

「えーと、マッチングしたのは……かき@セイんちゅさんとハロさんだね。お手柔らかに頼むよ」


 セイラの言葉に豚アバター2人が頭を下げるように何度も頷く。


「お、早速セイんちゅさんが来たか。ハロさんは表記ないけど、セイんちゅかお前らだったりするのか?」


 そう言えば、ハロさんはじっ、と俺のアバターを見た後首を振る。


「ん?違う、だと……⁉え、@ふぉーむの誰かが推しとかか……?」


 今度はゆっくり頷くハロさん。すると、セイラが声を上げる。


「ははーん、もしかして、信者の方かい?」


 セイラの問いかけに高速で頷くハロさん、もとい豚。頷いた反動で肉が揺れている。


『信者かwwwwwwww』

『今日はうぃんたそいないよ(´・ω・`)』

『お前らはマッチングしなかったかー』

『まあ、信者でも驚かないが』 


「信者の方か。……って、今うぃんたそ配信やってるぞ?」


 俺の言葉にハロさんがゆっくり斜め下に視線を逸らしていく。その豚のアバターの顔はと言えば大変気まずいと言わんばかりで。俺は半笑いで口を開く。


「まあまあ、うぃんたその裏で放送やってる俺が言えたことじゃないがな。あとでアーカイブ見ようぜ」


 そうすると、首を高速で縦に振るハロさん。そんな会話をしているうちにカードが手元に配られて、ゲームの開始が告げられる。テーブルからのスートの指定はスペード。俺の手札はハートが3枚、ジョーカーが1枚にスペードが1枚。なんとも微妙だ。最初の手番は……セイラからだ。


「お、ボクからだね。じゃあ、えー、かきさん。セイんちゅってことはボクが最推しってことでいいのかな?」


 セイラが手を止めて雑談し始める。このゲームは首を振ったり、頷いたり簡単な意思表示ならできる。ので、こうして視聴者と簡単な会話をして距離を縮められるいいゲームとして流行っているのだ。ボイスチャットをオンにしている訳ではないからNGワードを叫ばれる心配もないしな。

 ちなみにかきさんはガンガンに頷いている。これはかなり強火のセイんちゅだな。


「え、嬉しいな。物理的に足が浮足立ってしまうよ。じゃあ、そんなかきさんにボクからお願いなんだけど……」


 そう言うと、セイラは———1回に出せるカードの最高枚数、3枚を裏向きで出して言うのだ。


「告発はしない方向で……」


 セイラの兎が気まずそうに視線を逸らす。そして、次の人、かきさんにターンが回る。かきさんはセイラを見た後、俺を見て、何度か視線を彷徨わせる。


「セイラ、かきさん困ってるぞー」

「いやだって、ボクこうしないと勝てないんだってえ!これは戦略だよ!」

「いえ、それは脅迫です」


 しゅん、とセイラのアバターのうさぎ耳が垂れる。困ったようにかきさんが俺を見るので俺は笑顔を浮かべて言うのだ。


「かきさん、告発していいぞ」


『自爆ですねえ』

『やってよし』

『でも、これでスペード3枚だったら面白い』

『↑そんな策士なセイちは存在しない』 


 そうして、アバターはそんなことないのにどこか申し訳なさそうな雰囲気を醸し出しながらかきさんによってセイラが告発される。

 カードが表返る。その3枚はダイヤのカードが3枚。セイラの兎のアバターが操作に関係なく自動で机の上に置いてあるリボルバーを手に取り、己のこめかみに押し当てる。


「あ、あ、あ~~~~銃口がこっち見てるよぉ~~~怖いよぉ~~~」

「自業自得だなー」


 そうして、豚3匹に見守られながらセイラの兎のアバターが拳銃の引き金を引く。———結果はカチン、と小さいリボルバーの弾倉の回る音。どうやら即死は免れたようだ。


「は、は、は……い、生きてる?」

「生きてるな。まあ、流石に1回目だしな」

「うわ~~ん、ゲーム越しだっていうのに凄く怖かったよ~、え、これ続けるの本当?」


『銃口がなかなかリアルなんだよな』

『誰か一人になるまで続くやで』 

『頑張れセイち』

『負けるなセイち』 




 ということでゲームが仕切りなおされる。変わった点と言えば、セイラの兎のアバターの頭の上の数字が(1/6)になったくらい。これはロシアンルーレットをした回数になる。つまり、あと5回セイラがロシアンルーレットをすれば確定死……ってことになる。まあ、6回目まで弾が入ってないなんてミラクルは少ない。


「こ、このゲーム下手なホラゲーより怖くないかい?」

「まだロシアンルーレットしてないからなんとも言えんが」

「この恐怖を絶対秋城クンにも味わってもらいます」


『セイち涙目wwwwwww』

『余程怖かったんやなあ』

『まあ、日常生活で銃口を向けられることがないからな』

『さあ、セカンドゲーム!』


 そうして、手札が配られる。テーブルの指定スートはハート。俺の手札は、と言えばダイヤが2枚、ハートが2枚、スペードが1枚。うん、これはなかなか。手番は先ほどロシアンルーレットをしたセイラから。


「そういえば、ハロさんはうぃんちゃんが最推しなのかい?」


 ゆるゆると始まる雑談。ハロさんはセイラの問いかけにこくこく、と頷いた。


「ボクのことは?2番目に好き?」


 ハロさんが首を振る。


「え、3番目?」


 ハロさんが首を振る。


「え、え、……5番以内に入ってる?」


 静かに目を逸らすハロさん。そして、俺をじっと見る……これはもしかして……。


「秋うぃん固定派閥の人、なのか……?」


 俺の問いかけに、首を全力で縦に振るハロさん。なるほど、秋うぃん固定派か。え、今日うぃんたそ居ないけど……。


「え———‼秋セイは⁉秋セイもいいよねぇ⁉」


 目を逸らすハロさん。どうやらハロさんの中で秋セイは〝ない〟ようだ。


『秋セイないのになんで今日来たんwwww』 

『うぃんたその放送いけwwwwwww』

『やっぱり秋うぃんだよねえ』

『これはもしかして、秋城が浮気しないよう監視しに来てるのでは……?』


「なるほど、浮気防止の監視か……え、そんな姑みたいな理由で?」


 俺がハロさんの方を見ればハロさんはにやっと笑うのであった。マジか。


「ぐっ、ぐぬぬぬ~~~~絶対ハロさんに勝って秋セイもいいって認めさせてやるんだからね!」

「はは、タイム見ろ~」


 そうこのゲームは一応一人の手番が20秒でそれを越したら追加のロシアンルーレットになる。


「あっあっあっ、ちょ、まっ」


 セイラがいそいそとカードを1枚出す。ふむ、1ターン目に1枚。これは疑うにはちょっとリスクが高いな。そうして、かきさんがどのカードを出すか悩んでいる間に俺が今度は雑談を振る。


「かきさんはセイラ凄い強火推しみたいだけど、もうセイラしか見ねえ!みたいな強火なん?」


 俺の問いかけに凄い勢いで首を縦に振るかきさん。すげえ、こんだけ強いファンがいるなんてこれはこれで羨ましい。


「ほうほう……もしかして俺が質問するよりセイラに声かけられたい?」


 俺がそう問いかけると、目を逸らしながら静かにこく、と頷くかきさん。うん、正直でよろしい。


『素直だなあ』

『でも、推しが声かけてくれたら嬉しい』

『セイちあまり視聴者参加型やらないしな』

『強欲にいけ』


「だとよ、セイラ。ほら、セイんちゅなんだから手厚くかまってやれ~」

「それはもちろんさ。さあ、かきさんはどんなボクがお好みかな?……いやでも、そんなの決まってるよね、かきさんが好きなのはきっと……イケセイち」


 そして、そんなセイラの言葉を受け流すようにかきさんがカードを2枚出す。おう、強気だな。そしてハロさんの手番に回る。


「かきさんのお望みはイケセイラじゃないそうだぞー」

「こんなイケてるのに⁉ボクと言ったらやっぱりこの強い顔面!かっこいい言動じゃないのかい⁉」


『自分で言うな』

『残念なイケセイラ』

『黙ってれば完璧とはこのこと』

『でも、強火のセイんちゅって言うなら……』 


「強火のセイんちゅって言えば、なんかあるのかい?」


『乙女セイち』

『乙女』

『でも、故意的な乙女は違うんだ』

『ゲームやっててふと出る乙女なところがいいんだ』


「なるほど。かきさんはたま~に偶然出る乙女セイラが好きなのかい?」


 セイラの問いかけにぶんぶんと更に首を縦に振るかきさん。まあ、分からないでもない。たまに出てくる乙女セイラには俺も萌えの感情を芽生えさせていたしな。


「うーん、でも、わざとやると違うんだろう?ファンサしてあげられないの少し悔しいな」


 そうして、ハロさんがカードを1枚出し手番は俺へ。


『まあ、でも言うて推しとテーブル囲めてるだけでも』

『推しに名前呼んでもらえてるしな』

『十分ファンサにはなってるんじゃね?』

『むしろこれ以上はないだろw』


「え、かきさんは名前呼ばれるだけで嬉しいかい?」


 セイラの問いかけにそりゃもう高速で首をぶんぶんと縦に振るかきさん。首が捥げそうだ。


「よかった、じゃあ、改めて。かきさんいつも応援してくれてありがとね」


 そうセイラが微笑みながら言った瞬間であった。かきさんの動きが止まる。……そして、頭の上に表示される回線切れのマーク。


「あ」

「え、かきさん⁉」


『逝ったwwwwwwwwww』

『推しに名前を呼ばれて本望だったんだろうな』

『唯一の自分に向けたありがとうだからな』

『セイんちゅとして本懐を遂げたかきさん』


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