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第25章 セイラと命がけのゲームってアリですか?④



「配信終了だ、お疲れ。世那」

「お疲れ~超銃口怖かった~~」


 世那の半涙声に苦笑しながら俺は水を飲む。うん、世那は今日だけでおおよそ日本人が生涯で見るであろう銃口の数を見ただろうな、と放送を振り返って思ってしまう。


「やけにリアルな銃口だったよな。俺も自分に向けてるときは冷や汗かいたわ」

「だよね~。しかも、弾が出た瞬間わかんないじゃん~え、死んだ?死んだか~~~みたいな感じで」

「嫌なリアリティがあったよな」

「それ!あと死体凄くなかった?死んだ後もびくっびくって跳ねてさ~ちょっと画面から目逸らしちゃったよね。グロ耐性0の隼人は大丈夫だった?」

「ん?視界に入れないようにしてたに決まってるだろ?」

「理解~~~」


 残念ながら俺のグロ耐性のなさは多分、鈴羽、世那と比べると大分ない。ちなみに上から鈴羽、世那、俺だ。割と情けない。


「そういえば、時間ない中今日はありがとな。お礼ではないがしっかりプリントもレジュメも取っておくから明日の昼間も頑張ってくれ」

「超助かる~隼人のレジュメ超分かりやすいんだよね~」


 そう、明日の昼間も昼間で世那はセイラの仕事である。思い返せば去年の今頃もバタバタとしていた気がして。なるほどな、なんて自分の中で改めて納得してしまう。


「年末って本当にヤバいな」

「そりゃね~。でも、隼人も今年は忙しいでしょ?」

「と言っても企業勢の忙しさには敵わねえよ」


 俺も普段の2人との雑談から聞きかじった程度でそれを実際に見たわけではないからなんともは言えないが、ボイトレにダンスレッスン、ボイス系の収録にテレビの収録……それに加えて今から1月に控えている誕生日記念グッズの手書きサインも書いているらしい。本当に鬼のような忙しさだ。


「忙しさは比べるものじゃないよー。で、3D化記念配信の内容決まってきたん?あ、ちょっと待って聞きたい気もするけれど当日まで楽しみにしたい気もする……」

「どっちだよ」


 笑いながら返せば世那の唸り声。ガチで悩んでるな。


「ん~……でも、私やすーちゃんに声かけてないってことは凸系ではないんでしょ?」

「ああ、そうだな。凸待ちも逆凸もセイラとうぃんたそぐらいしか呼ぶ相手いないし……初対面で3D化祝ってくれー!なんてやる度胸俺にはないしな」

「@ふぉーむの面々なら割とノリノリでやってくれると思うよ?」

「罪悪感で俺が潰れるわ」

「えー。ま、でも、そういうところが隼人のいいところだもんね。あ」

「ん?」


 世那が思いついたように上げる声に俺は首を傾げる。なんだなんだ。


「秋城の3Dモデル化記念配信同時視聴配信とかしてもいいかも!すーちゃんと~コラボ枠で~」

「お、日にち12月の25日にしようと思ってる前提で。聖夜にやることが秋城の3D化お披露目の同時視聴配信になるぞ。アイドルVTuberなら諸々やった方がいいことあるだろ?」


 俺は苦笑しながらツッコむ。いやいや、聖夜だぞ?クリスマスだぞ?アイドルVTuberというならライブや歌枠、ASMR配信なんか色々択があるだろう。


「ん~3Dライブはほら、年1しかできないじゃん?私今年はもう誕生日ライブで使っちゃってるし、今から申請してもクリスマスには間に合わないしね~」


 ああ、そういう。@ふぉーむも人数が増えてきた関係と機材を動かす費用の関係で3Dライブは1VTuberにつき年に1回しか権利がないって見たのはどこだったか。まあ、それじゃなくても今から申請しても申請が通らないのはそう。セットリストを考えたり、ダンスを練習する時間もないしな。


「あとは、よからぬ噂が立たないようにリアタイ系はありがたいっていうかあ」

「よからぬ噂?」

「事前に録画した放送を流してー、実は放送してないんじゃないかって疑惑?って言えばいいのかな……」

「あ、あれか。視聴者を蔑ろにしてリアル彼氏と過ごしてるんじゃないか、みたいなやつ」

「そー!」


 確かにそういう疑惑はこの時期になると毎年ネットで見る。故に、そんな噂を流されないためにはリアルタイムでやっているものを同時視聴するのは確かに頭のいい方法だ。


「……まあ、男絡みで怒るなら今年突如降ってわいた秋セイがブッ叩かれるべきなのですが」

「えー、別にいいじゃーん。秋セイ」

「いや、ファンからすればアイドルに近づく男は等しく死んでほしい存在だろ……」

「そんなに?」


 世那の驚きの声を耳にしつつ俺は椅子に深く腰掛ける。別段俺がそういう思想を持っている訳ではないが。


「まあ、見て得するわけではないが……やっぱりネット掲示板とか見るとそういうの多いな。ゆったーでは比較的秋セイも秋うぃんも受け入れられてるが……」


 完全匿名の掲示板となると秋城、割とばちぼこにdisられてたりする。主に、うぃんたそとセイラの身近なVTuberになってしまっているから。


「……注意喚起する?」

「火に油注ぐだけだな」

「あー……」


 まあ、これに関してはマジでどうしようもない。人には人の主張があって、その人の頭の中では神様のようにはたまた自分の恋人のようにうぃんたそやセイラが扱われている可能性がある訳だ。言動は規制されても、脳内は自由であるべきだと俺は思うしな。


「ま、俺は気にせずコラボするがな。実際需要はある訳だし」

「それな。セイんちゅを大事にしない訳じゃないけどぉ……でも、それで異性コラボ切ってたら@ふぉーむ内でもお仕事できなくなっちゃうし」

「それ考えると、男女取り扱いつつ今まで派手な炎上がなかった@ふぉーむさんマジで凄いな」


 それも別段男女で強く区切っている訳でもなく、ゆるゆると男女のコラボは普通にやる。でも、炎上はない。


「え、でも、3期生のとき一回話題にはなったよ」

「あー、月城兄妹のときな」


 @ふぉーむ、3期生所属に月城兄妹というVTuberがいるのだが。デビュー当初はマジで一瞬物議を醸しだしたVTuberだった。なんで物議が醸し出されたか、それは年齢設定が成人済みだったにも関わらず兄妹なので一緒に住んでます~みたいな設定だったからだ。当然、兄妹じゃなくてカップル系の何某だろうという疑惑までかけられた。


「まあ、でも一瞬だったろ。ギリ炎上にならないぐらい」

「ギリギリね~。カリアちゃんがバシッと言ったのでかかったよね」


 月城妹の方、月城カリアさんがあまりにも疑惑を投げつけ続けられたのにぶちぎれて、わたあめで意見を募り初回配信でわたあめを言葉で切り続けるというとんでも配信をしたのだ。今思えば、よく許可したな@ふぉーむ。という配信だった。


「アレでカリアさんのファンも増えたって聞くしな」

「そ~。やっぱり強い女性ってキャラは一定数ウケるよね~」


 初回のカリアさんのインパクトに負けて兄の方、アールさんの影がちょっと薄かったのは別の話。


「んで、マジで俺の3D化記念同時視聴すんのか?というか、@ふぉーむさんに怒られない?」


 俺はうぃんたそやセイラと関わってはいるが、@ふぉーむさん所属ではない。ここ、マジで大事である。俺のせいで世那が怒られるなんてことになったらマジで胃痛で俺が死んでしまう。


「許可取りはこれからするー。まあ、何か@ふぉーむの機材を使うわけでもないし?いいか駄目か聞いてみるだけだしね。その上で許可出たらすーちゃん誘ってみる!」

「おう、そこら辺しっかり頼んだ」


 マジで、マジでしっかり。となると、だ。


「……もしかして、かなりの凄い人数が俺の3D化記念配信を見に来ることになるのか」

「少なくとも普段の放送の比じゃない人数が見てるだろうね~」


 ひぃ。かなり久しぶりのかーなーり緊張する放送になるかもしれない。そして、多分行動次第では俺のwikiの新たな1ページになる。そう思うと手の落ち着きが無くなってくる。


「やべ。手震えてきたわ」

「はやっ!そんなんじゃ持たないぞ~?」

「元はと言えば世那が同時視聴するかも、なんて言い出すからだからな?」

「だってやりたいし」


 通話の向こうで世那がてへ、という風に笑っているのが想像がついた。あくまで想像。そんな世那の顔を想像していれば、現実の世那がおずおずと切り出してきた。


「もしかして……同時視聴迷惑だったりする?」

「え」

「あー、いや、隼人の心の負担増やしちゃってるかな、って……」


 そんな世那の気遣い。勢いで動きつつ、後からでも気づいた気遣いはしてくれる。そんな世那のいいところに俺の頬は自然と緩んだ。


「は、いや、むしろありがたいわ。現金だけど、同接数増えるのは嬉しいしな」

「そう?ほんと?無理してない?」

「ないない。マジで嬉しいわ」


 嘘偽りのない本音だ。マジで現金な話をするのなら同時接続数が増えれば、多分チャンネル登録者数も増加が見込める。これは嬉しい。そして、何より世那が、鈴羽が、見守っていてくれる、その事実がなによりも嬉しくて心強いものだ。


「そっか。頑張って許可取るから、隼人……ううん、秋城も配信頑張れ!」

「おう」


 世那とそんな会話をしているとヘッドフォン越しに聞こえる端末の受信音。


「およ?ちょっと確認するねー」


 そんな世那の声に適当な返事をしつつ、俺も自分の端末の画面を見れば———母親からの風呂に入るの、入らないの、の鬼LEINを確認してしまいついつい眉間に皺が寄ってしまう。まあ、仕方ない。いつまでも保温モードにしておくとガス代爆上がりだ。俺が母親に入る旨の文章を作っていると世那が帰ってくる。


「お母さんに明日も忙しいことを心配されちゃった……今日はもう落ちます……」


 しょぼん、とした世那の声。ついつい忘れて俺と話し込んでいたのだろう。


「いや、俺も話し込みすぎたわ。悪いな」

「ううん、全然。隼人と話してると、明日も頑張ろうって思えるから」

「そんなんで頑張れるならいくらでも話してやるよ。別日にな」

「約束だかんね?ぜぇーったい」

「はいはい」

「んじゃあ、おやすみ。隼人」

「うい、おやすみー」


 テロン、そんな音と共に通話が切り上げられる。ふう、配信が終わってから大分長く話し込んでしまった気がする。明日もあるっていうのに世那には悪いことをしちまったかもしれない。

 そんなことを考えると、端末のLEIN通知が鳴り響く。見なくても相手は分かった———母親である。俺は盛大なため息をついて、自室から飛び出れば、階下に向かって叫ぶのであった。


「いま!入るって!」



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