「勝利を運ぶっ、鈴の音鳴らすVTuber!鈴堂うぃんだよ~~‼みんな~こんうぃん~!」
『こんうぃん~』
『こんうぃん』
『うぃんたそこんばんは~』
『あれ、今日はSDイラストなん?』
「そうなのです!今日はうぃんたそはあくまで仲良くなりたい2人の仲介人。2人の出会いを結ぶ文字通りエンジェルだからねっ!そんな2人誰だか気になるよね~?でも、もう少しうぃんたそのオープニングトーク付き合ってね~。あ、音量大丈夫?」
『了解』
『大丈夫だよ~』
『問題なーし』
『うぃんたそのトークなら無限に聞いてられる』
分かる。俺はマイクをミュートにしながら流れるコメントを見て深く頷く。うぃんたそのトークなら無限に聞いてられる。それはそう。
画面上ではSDイラストのうぃんたそが楽し気に笑ったり揺れたりしながら画面をにぎやかしてくれている。
「いやあ~、年末って感じになって来て、うぃんたそ日々てんてこまいだよ。来月のお誕生日も控えてるし、年末の年末→お正月あけおめライブもあるしね~。放送もちょっと控えめでみんなには寂しい思い、させちゃってるよね?」
『寂しいけどうぃんたそ頑張ってるの知ってるから』
『うぃんたその頑張り期間だから』
『時間あいたときに配信してくれれば問題ないやで』
『そうそう』
「そんな中でうぃんたそメインの放送じゃなくて、男同士の友情の仲介なんて……みんな言いたいことはあるだろうけれど、とりあえず今日は見に来てくれてありがとね!ゲストの2人にも、見に来てくれたみんなにも後悔させない配信にするよぉ?」
『期待してる』
『うぃんたそが居てくれるだけで十分』
『で、野郎2人は?』
『片方はどうせ秋城』
コメント欄で成り立つうぃんたそが呼ぶ男VTuber=秋城の方程式。ちょっと前なら否定できたが、最近ではあまり強く否定できなくなってきた。いや、嬉しいことだけど。俺は嬉しいけど!
「さてさて、どっちから呼ぼうかな~?でも、コメント欄見る感じ片方は把握されちゃってるんだよね~。まあ、うん、うぃんたその推しだもん仕方ない」
『やはり秋城』
『秋城からの頼みなん?』
『秋城が男友達欲しがるか?』
『あのバトマス狂いアイドルVのヲタクが?』
「ん、今回はねえ、秋城さんじゃない方の人からの発案だよ~。うぃんたそにね、秋城さんと話す場を設けて欲しいって!まあね、現代VTuberの中で秋城さんと一番仲がいいのは間違いなくうぃんたそだからね!」
『それはそう』
『うぃんたそが居なきゃ今頃秋城消えてただろうしな』
『秋城はうぃんたそに感謝しろ』
『うぃんたそマジいい子』
いや、感謝は超してる。マジでしてる。本当にうぃんたそが望むのなら何時間でも土下座でも何でもし続けるレベルだ。
「んー……じゃあ、秋城さんじゃない方からお呼びしようかな。では、改めまして秋城さんじゃない方こと……月城アールせんぱーい!」
『アールだと⁉』
『カリアたんは????』
『アールだけ????』
『アール!?!?!?!?!!』
「やあ、みんな。おはよう、こんばんは、いらっしゃい。僕の……ではないね。うぃんちゃんの館へようこそ。@ふぉーむ3期生所属、月城アールだよ」
『え、ちょ、アールは聞いてないって』
『おま、おやすみ期間中だったやんけ!』
『さっきゆったーで友達と通話するって!』
『通話(生配信)』
そうして、画面の左端に浅葱色の髪をアシンメトリーにし、西洋ファンタジーのまさにお貴族様みたいな格好をした男が現れる。
「うんうん、これから新しいお友達になる秋城くんとこれから通話をするんだよ?あ、マネージャーさんには伝えてあるから僕の独断ではないからね。暴走列車と同じにしないでね」
こんなところでも引き合いに出されるセイラェ。……そう、今日の配信は@ふぉーむ3期生の美麗元貴族の吸血鬼兄妹、現在は@ふぉーむで労働中の月城アールさんとのコラボである。まあ、正しくはwithうぃんたそというか。うぃんたそが架け橋になってくれるというか。
事の発端はちょっと前。うぃんたそもセイラも激務になるほんの少し前である。うぃんたそこと鈴羽から「11日にコラボの予定を組めないかしら?」そんなLEINを貰ったことがきっかけだった。そこで、俺と話してみたいVTuberがいること、コラボもしてみたいこと、うぃんたそはその仲介であること。概要を聞いた俺は、緊張しつつも是非!なんていう心持ちだった。
そうして、俺は鈴羽から相手方のお名前なんやらを聞き、「え、こんな大物が?」なんて心持ちになりつつ、今日を迎えるのだった。
その相手が月城アールさんである。なんて呼べばいいのかはまだ未定だ。
「アール先輩なかなか放送ではお久しぶりだねえ。配信外では結構お顔見てる気がするけど」
「そうだね。主に@ふぉーむの第3会議室でうぃんちゃんのことは見てる気がするよ。配信だと……半年ぶりぐらいか」
「@ふぉーむサマーライブ2039が多分配信……配信って言っていいのかは置いておいて、みんなの前で話したのが最後かなあ?」
ゆるゆると@ふぉーむのお話になっていく。当然と言えば当然なのだが、@ふぉーむには男のVTuberが居るわけで。当然ながら会話をするわけで。でも、それを目の当たりにすると心の柔らかいところを爪で引っかかれているような気持になるのは秘密である。なんというか、心が痒い。
「さて、こほん。今日はアール先輩直々のお願いで、秋城さんに時間を取ってもらって2人の親交を深めている様子を生温か~く見守っていくよお!じゃあ、秋城さんもお呼びしようかな?秋城さーん!」
うぃんたそからの呼び声に俺はミュートにしていたマイクからミュートを外す。そして、丁度秋城のアバターが右側に配置されたところで俺は軽く息を吸い込んで口を開いた。
「こんしろ~うぃんたその枠での生放送、はっじまるよ~ゆっくりしていってね。ということで、秋城の方秋城だ」
『秋城の方』
『秋城の方秋城』
『頭が混乱するぞ……?』
『出たな、秋城』
「えーと、今日はうぃんたそ越しにアールさんに呼び出された訳だが……あれ、そもそも俺アールさんって呼んでいいのか……?月城さん……?」
「いやいや、縮めた距離はそのままで、ね?アールさんでも、アールでも、アーくんでも好きに呼んで欲しいな」
「アーくんはちょっと……」
『アーくん(秋城の声)』
『じゃあ、秋城はアキくん?』
『BL配信じゃないっすか……』
『貴族と転生者……web小説かな?』
「ちなみに、僕はなんとお呼びすれば?コメントに従うとアキくんになる訳なんだけど」
「アキくんはちょっとキツいな」
「分かるな~」
というか、アキくんという呼ばれ方だと頭の中に加耶子がチラついて微妙に気まずい。いや、これは俺の都合なんだけどね?
「まあ、無難にさっきみたいに秋城くんとか呼んでもらえれば。俺はアールさんって呼ぶわ」
「分かったよ、秋城くん。さて、じゃあ一回会話の主導権を主催してくれたうぃんちゃんに戻そうかな?」
『うぃんたそ忘れてただろ?』
『ここうぃんたその枠だからな???』
『野郎2人の枠じゃないからな?』
『うぃんたそに感謝しろ』
当然なんだが、信者の方々の俺達への風当たりは若干きつい。いやまあ、うぃんたそを見に来ている人たちがほとんどだからね!仕方ないね!