「はーい、じゃあ、早速配信の方進めていこうかな?仲良くなるのを見守る配信って言っても、ほんとうに見ているだけだとなにも起こらなくなっちゃうからね!」
そうして、SDうぃんたそが揺れ始める。
「では、まず!そうだなあ~……アール先輩が秋城さんと仲良くなろうと思ったきっかけとか聞いちゃおうかな~?」
ちなみにアールさんは3Dの体なので、普通に動くぬるぬる動く。アールさんはちらちら、と秋城の方を見てから口を開くのだ。
「そうだね……仲良くなろうと思ったきっかけって言うと難しいな。ほら、仲良くなりたいって相手の好きな箇所の積み重ねじゃない?」
「それはそう」
「なので、秋城くんの好きなところを言っていこうと思うよ」
「うぃんたそ、これ俺への公開羞恥プレイ配信だっけ?」
『秋城羞恥プレイとか誰得』
『↑決まってるだろ?うぃんたそ得だよ』
『アールの天然なところが出てるなあ……』
『男女問わず何人が羞恥プレイに合ってきたか』
なるほど、これはうぃんたその仕込み。なんて勝手に思う。マジで思ってるだけ。
「秋城さんを辱める配信はそれはそれでやりたいけど、今日は違うんだな~。でも、アール先輩の考え方は素敵だよね。好きの積み重ね、って」
SDうぃんたそが目を閉じて頬をぽっ、と赤くする。
「じゃあ、アール先輩の秋城さんの好きなところ聞いちゃおうかな~?」
「そうだね……まず言うなら、真剣なところかな」
『真剣』
『ほう』
『その心は?』
『真剣……なんですか……?』
「うん。どんな配信にも全力投球で、真っ直ぐやっている感じがするのが僕は結構好きだったりするよ。輪っかフィットとかもう本当に全力ギリギリまでやっていて……カリアと一緒に楽しく視聴したよね」
まさかのカリアさんまで一緒に見ている事実にちょっと顔がデレっとしてしまう。嬉しい。
「あとはね、バトマスガチプレイヤーなところが好き、かな?」
『バトマスガチプレイヤーだとアールくんに好かれるの⁉』
『バトマス始めます』
『@ふぉーむにバトマス流行の兆しアリ?』
『秋城のせいやん』
どうやら、アール側の視聴者……アーリストさんたちも集まり始めたらしい。信者たちにはなかったコメントも目立ち始める。
「これは僕の考えなんだけど、なにかのガチでいることって実はかなりの努力が必要なことだと思うんだよね。だから、それを生前……ん?今も生きてるから生前は可笑しいな……」
「えーと、転生前、かな?」
ナイスアシストうぃんたそ。
「あ、そうだね。転生前からガチでバトマスやってて、転生後もガチでやってるって凄くかっこいい、と僕は思うんだ。……だから、僕は秋城くんに……」
俺に?俺がそう首を傾げれば、秋城の方を向くアールさんと見つめ合う形になる。
「バトマスを布教されたい」
『主題もしかしてこれか?』
『バトマスを布教されたい』
『ま、まあ、見てる分には楽しそうに見えるもんな』
『アールくんバトマス始めるの???』
「えー……布教ってどの程度希望ですか?」
俺は思わず眉間の揉みほぐしながら問いかける。ついつい口調も敬語だ。
「CS?とかに出て勝ちたいかな」
凄くキリッとした顔で言うな。
『ガチやんけ』
『思ったよりやる気あって草』
『いい雰囲気の話どっか行ったが』
『@ふぉーむ内にバトマスが蔓延る』
「もしかして俺踏み台?」
「……違うよ!」
「今間があったよな⁉」
「いやいや、秋城くんのことも純粋に好きだよ」
ふと思うけど、アールさん結構軽いノリで好きとか言ってくる。これ割と俺が異性だったのならときめいてたんだろうな、と俯瞰しながら考えてしまう。
それはそれとして。俺が声を上げるより先に声を上げたのはうぃんたそだった。
「まあまあー、秋城さんが好き、と秋城さんにバトマス布教されたい、は並行できるから。……で、アール先輩。秋城さんは踏み台なんですか?」
ずもももももも、SDうぃんたそが拡大されてアールさんに圧をかけていく。
「いやいやいや、流石に違うよ。仲良くなりたいのは本気だし、踏み台とか粗雑なことをする気はないよ。秋城くんのことは好きだよ?」
だが、大きくなったうぃんたそは更にアールさんに圧をかける。
「秋城さんのことはうぃんたその方が好きなんですけどぉ?」
おおう。それ言い始めたら収拾がつかなくなるぞ。
『うぃんたそどうしたいんだwwww』
『先輩に圧をかけるなwwwww』
『まあまあ、セイラと違って相手は男だ』
『アー秋とか節操ないことしないだろ』
「……秋城さぁん、アー秋ある?」
ブラックうぃんたそからの問いかけ。これに頷ける人間はいないだろう、いや、そもそも頷かないが。
「っび、BLはちょっと……」
俺の答えに、大きくなって圧をかけていたSDうぃんたそが元のサイズに戻る。そして、ニパッと笑うのだった。
「なら問題ないね!アール先輩、私と一緒に秋城さんにバトマス布教されようね!」
とりあえずうぃんたそが笑顔になってくれたようで何より。俺は胸を撫でおろしながらアールさんに問いかける。
「ちなみにアールさんのバトマス歴って?」
「3ヵ月ぐらいかな。それもデジタル版バトマスだけどね。リアルの方はノータッチだね」
ふむふむ。俺が頷いていると、一呼吸おいてアールさんが喋りだす。
「元々カードゲームをやるってことに憧れがあったんだけど、あまり周囲に熱量をもってやっている人がいなくてね……そこに秋城くんが現れた、これはチャンスじゃないかい?」
あー、言いたいことは分からないでもない。非TCGプレイヤーからたまに聞く、カードゲームをやっている人かっこいい、みたいなやつだ。頭よさそうに見える、とかも聞いたことはある……が、実際はそんなことない。えー、夢見させたまま始めさせるのは詐欺くせえなあ。
「その、憧れをへし折るようで恐縮なんだが……かっこいい?まあ、スマートに勝つ人種も居るけど、大抵は割と泥臭いからな……?」
「望むところだよ」
「あと、最初は割と勝てない。負ける」
「それはデジタル版で思ったね。3ヵ月粘ってやっとダイヤ帯まで行けるようになったし」
ダイヤ帯、それはデジタル版バトマスにおける最高ランクの1個下のランクだ。そこまで到達しておけば、とりあえずシーズンごとに貰える報酬は最大量貰えるランクである。
『割としっかりやりこんでる』
『アールくん配信外でもやってる勢だからね』
『というか秋城やけに慎重だなw』
『秋城緊張しすぎ~』
「ダイヤ帯まで一人で行けるはなかなか凄いな」
正直その器量があるのなら普通に一人でもガツガツCS行って勝てる気が……そんな気がしないでもない。
「正直ダイヤ帯まで行けたのは秋城くんのおかげだよ」
「え?俺?」
なんかやったっけ?え、でも、アールさんと関わるのは今日が初めての筈……?それとも俺がうぃんたそにしたアドバイスがアールさんに伝わってたりするのか?
「ん?ん?ん~~~~?なんでだ?」
俺が頭を捻っていればアールさんはくすり、と上品に笑うのだった。
「うぃんちゃんのバトマス配信の1回目の時、秋城くんが「とりあえず、優勝デッキパクっておけば丸い」って言ってて、その通りやったら上がれたんだよね」
「あ~……言ったなァ、俺」
『コピーデッカー秋城が誰かの役に立っている』
『まあ、至言だよな』
『集合知に勝るものなし』
『こうしてコピーデッカ―が増えていく』
「僕はどちらかというとうぃんちゃんみたいにゆったりとバトマスを楽しむというよりかは、がっつり勝ちたくてね。コメントにもある通り、まさに至言だったよ」
なんだろう。割といろいろな心配をすることなくバトマス布教していい気がしてきた。だって言ってることが大体蛮族と書いてカードゲーマー。
「なんかそれ聞いて、俺アールさんと無茶苦茶仲良くなれる気がしてきた」
「うん。僕としてはオフでCSで会うぐらいの仲になりたいな」
「終わったら麺行くか」
「行くね~」
男2人でドッと笑う。おう、これはマジで仲良くなれそう。
『すぐカードゲーマー麺屋行く』
『CS終わりはラーメンだよなァ!』
『それか肉』
『CS?っていうのに出るとアールくんに会えるの?』
そう男同士じゃれ合っていると、SDうぃんたそが苦悶の表情を浮かべ始める。
「お、うぃんたそどうした?」
「秋城さんに友達が増えるのは嬉しいんだけど~、うぃんたそも誘って欲しい。せっかく、KO退化も買ったし」
お、なんか分からんがうぃんたそのバトマスをやる気が上がっている。これは嬉しい。
「それならとりあえず、練習として。僕とうぃんちゃん相手に秋城くんに二面指ししてもらおうか」
「ほわ⁉」
『えぐいハンデつけていくな』
『頭ごちゃごちゃになるやんwww』
『まあ、でも、丁度いい?』
『初心者?×2だしな』
「や、ややや、やってやらァ!……というのがVTuberとしての返答でバトマスプレイヤーとして返答するならうぃんたそとアールさんで対面してるのを俺が横から口だす方が上達速度早そう」
『ガチの秋城、ガチ城』
『効率を求めるなwwwww』
『効率厨じゃねえかwwwww』
『秋城ってやっぱり秋城』
「うぃんたそは異議なーし!KO退化でアール先輩ぼこぼこにしちゃうよぉ!」
「僕も異議はないよ。強いて言うならデッキ選びに付き合って欲しいぐらいかな?」
「じゃあ、アレだね。秋城さんとアール先輩とうぃんたそでもう一回秋葉原だね」
話がまとまっていく。おおう、野郎とオフで遊びに行くとか高校の時以来じゃね?俺が顔をにやけさせていれば、SDうぃんたそが俺の頭上を飛び回る。
「秋城さんニヤニヤしてる~じゃあ、そんな秋城さんにも聞いちゃおうかな?ずばり、秋城さんのアール先輩の好きなところは?……あるよね?」
心配そうに聞いてくるうぃんたそ。