「ある!あるある!大丈夫だ、安心してくれ。……だけど、俺もアールさんと似たり寄ったりかもしれん」
「というと?」
「えーと、俺はずばり。アールさんのふと垣間見える戦闘民族なところが好き、だな」
「ぶふっ」
俺の言葉にアールさんのアバターが揺れて、咳き込む音が入る。おおう、大丈夫か。
『アール大丈夫か?』
『予想外だったんやろなあ』
『アールくんはお前とは違うんだけど?』
『どこが戦闘民族?』
お、アーリストの皆さんからなんか凄く不況を買っているのは分かるぞ。そうして、何度かアールさんは咳払いをしてなんとか立て直す。
「え、僕のそんな一面出てた?」
「あー、いや、俺が勝手に解釈してるだけなんだが。割とアールさん主催のコラボってバトル系多いな、と。……んで、結構ガチで勝ちに行ってて。あ、この人、生粋のバトルが好きな人なんだなあ、って」
俺がそう言えば、アールさんは「ふふふ」と上品に笑いながら顔をゆっくり赤く染めていく。そうして、両手で顔を覆うのだった。
「そこを見抜かれるなんて……なかなか恥ずかしいね。そうだね、うん、なんだろうね……お互いが本気になった瞬間の喉をひりつかせる、内側から熱くなる感覚が僕凄い好きでね」
あ、あ、あ~~~~分かる。凄い分かる。運や実力、全ての要素が拮抗した瞬間に体の中がカッ、と熱くなるあの感覚。俺も何度もCSの決勝で味わってきた。……そして、その言葉を聞いて思う。マジでアールさんと仲良くなれる気がする。
「アールさん、バトマス超向いてる。俺と一緒に強くなろうぜ」
「秋城くん……」
『え、マジでボーイズなラブが始まる?』
『見つめ合うなァ!』
『アーリストにアールくん返して』
『アールくんは戦闘民族なんかじゃないよ!(元)貴族だよ!』
あ、あ、アーリストの中でのアール像が崩壊しかかっているな……あれ、これもしかして、俺立派な営業妨害してしまっている?そんな思いで俺ははっ、と息を飲んでから口を開く。
「もしかして俺、アールさんのキャラ崩しちゃった……?」
現実の俺は口を手で覆いながらコメントを見る。そんな俺の言葉に対して、アールさんは軽快に笑うのだった。
「いやいや、あくまで僕の放送を見ての事実だから問題ないよ。はー……秋城くんに指摘されたならもう隠さなくていいと思うと肩の荷も下りたしね。アーリストのみんな、そんな僕じゃダメかな?」
『だっ……駄目じゃないです!』
『アーくんが認めたならいいよ』
『むしろ、野性味あってかっこいい?』
『戦える貴族ってかっこいい!』
お、綺麗にまとめ上げた。俺はその配信手腕に心の中で拍手を送りながら水を飲む。
「まあまあ、こういう実は……みたいなのも配信の醍醐味だよねぇ」
「そうして、戦闘民族として台パン奇声あげをし始めるアールさんとかな」
「それはまだちょっと難しいかな」
『まだ?』
『徐々にしていく気だぞ』
『綺麗なアールは今日で終了か』
『カリアたそが死ぬほど驚くだろうな』
「まあ、放送終えた兄がいきなり蛮族系にキャラ替えしてたら驚くな」
「蛮族にはならないよ?僕まだそこまではっちゃけられないからね?」
「ふ、蛮族は滲み出るものなんだぜ……?」
「も、もしかして……今も……?」
ざわ、ざわ、そんな茶番。本当にアールさんは気持ちよく茶番をしてくれるな、なんて思っていると———。
『月城カリア:兄様は蛮族……まあ、間違いではないわね』
『カリアたそ⁉』
『カリアちゃんが見てるぞ!』
『カリアちゃんが鼻で笑ってるのが目に見えるぞ!』
まさかのカリアさん登場に俺はなんとなく緩くなっていた気持ちを引き締めなおす。
「えー、カリアさんいらっしゃい。お兄様と仲良くさせていただく予定の秋城です」
「いらっしゃいって~秋城さんの枠じゃないからねっ?」
『カリアたそアールくんのキャラ崩壊について一言!』
『いつから見てたんや!』
『カリアたん~~~~~!』
『カリアたそ~~~~~~!』
コメント欄が突如降臨したカリアさん一色になる。おお、流石。
「カリア、見てたのか。……ついに僕の真実を暴くものが現れたよ」
「そう言われると俺が凄いことをしたかのようだな」
「真実を暴きし者秋城さんだね!」
『月城カリア:逆に今まで気づかれていなかったのね。よかったじゃない、お上手』
「カリアはどこ目線なんだい」
『月城カリア:……コメント打つのなかなかめんどくさいわね』
カリアさんのそんなコメントが届いて口を開こうとすれば、うぃんたそが声を上げる。
「お、おおおお?あ、アール先輩~リア先輩から鬼電だよ~え、これ、こっち放り込んで大丈夫?」
『まwさwかwのw』
『カリアたん乱入キチャ━(゚∀゚)━!』
『カリアたんタイピング苦手勢やからな』
『めんどければ鬼電すればいいじゃない』
「あ、えー……あ、マネくんからOK出た!カリア通話に入れて大丈夫だよ」
本当に@ふぉーむのマネージャーさん方はリアルタイムだな。
「おっけい!じゃあ、突如の乱入……月城カリア先輩ことリア先輩だよ~」
そうして、Liscodeへの入室音。うぃんたそが驚くほどの速さでSDうぃんたその隣にカリアさんのゆったーのアイコンを表示する。
「こんにちは、おやすみなさい。よく来たわね、@ふぉーむ3期生月城カリアよ。唐突な乱入に対して歓迎を感謝するわ」
「いえいえ~驚きはしたけど、大歓迎だよ~。もうなんか男二人十分仲良くなったみたいだしねえ」
「そうね。初対面で兄様の蛮族を看破してくるのはなかなかだったわ」
「ちなみにリア先輩はアール先輩が蛮族だって知ってたの?」
「24時間一緒に居るのよ?知ってるわ」
『それはそう』
『まあ、秋城で分かるなら……』
『今までよくアーリストに気づかれなかったな』
『秋城が同族の臭い嗅ぎ分けるから……』
唐突なカリアさん登場に俺の緊張ボルテージが上がっていく。俺は世那ほど初対面に強いわけではない。いや、話せない訳じゃないけどね?
「え、アール先輩の蛮族エピソードとかあったりする?」
「うぃんちゃん⁉」
アールさんの悲鳴にも似た呼びかけ、その声にカリアさんはふ、と鼻で笑って言うのだ。ああ、これ3Dモデルだったらいい嘲笑顔してるんだろうな、とか思ってしまう。
「この間のアソビワールド配信なのだけれど———」
「わあああああああ、カリア⁉それは僕への営業妨害だよ⁉」
アールさんがとてつもなく取り乱してる。なんなら看破されたときより取り乱している。
「営業妨害と言うならついさっき蛮族の妹という情報が確定した私への方が影響が大きくないかしら?」
「今、君が出そうとした情報は蛮族っぽい、みたいな状況から僕が蛮族であることを確定させるようなものだよ?」
「その言葉自体がもう駄目なのよ」
「ああああああああああああっ」
うんうん、どんなに落ち着き払ったクールなお貴族様お兄ちゃんも妹には勝てない、このパワーバランスが月城兄妹の見どころだ。でも、此処まで取り乱したのはこの放送が初めてでは?いや、俺も月城兄妹の配信全てを追えている訳ではないのだが。
『もうアールが滅茶苦茶だよ』
『アールが一日で芸人に堕ちていく』
『こんなに騒ぐアールくん初めて見た……』
『こ、これもこれで』
あ、アーリストさんが困っている。だよね、そうだよね。こんなに叫ぶアールさんいなかったよね?そんな中———。
「秋城さん……とお呼びしても?」
カリアさんが突如俺を呼び留める。お、これは俺が次責め立てられる番か?
「え、あ、はい」
「私のことは気軽にリア、と。で、先ほどのことについてなのだけれど———」
ごくり、唾を飲む。どんな罵倒が飛んでくるだろうか。
「とてもいい仕事をしたわね。最高よ、あのクールぶったイケメン(笑)の皮をよく剥いだわ。私とも是非仲良くしてくれるかしら?」
あ、すっごい機嫌よさそう。というか、カリアさん……リアさんお兄さんのことを今イケメン(笑)って、言ったなあ。(笑)がついてたなあ。これはどう返せばアールさんにもリアさんにも角を立てずに済むか考えていると。
「ちょ、ちょちょちょ————!リア先輩⁉リア先輩も秋城さんと仲良くしたいなんて聞いてないんだけど⁉」
「まあ……私も最初はスルーしようと思ってたのだけれど、あまりにも愉快なことをしてるから」
また、鼻で笑う声が入る。マジで3Dモデル表示がないのが悔やまれるな、絶対いい顔してるだろうに。
「あの、顔だけで祭り上げられた兄様の素顔が暴かれるなんて最高じゃない。本当に、本当に、最高だったわ」
ニヤァ、そんな風に笑っているリアさんの3Dモデルが頭にチラつく。リアさん、所謂ゲス顔と呼ばれる顔が死ぬほど似合ってるんだよな。目が死んでいるのもあって。
「で、でも、秋城さんと仲良くなる必要あるかなー?」
「あるわよ。兄様が気を抜くということはポカが増える、ということだもの。それとも、私が秋城さんと仲良くすると不都合でも?」
「……あ、秋城さんの周りに女の子が増えちゃうぅう……!」
「あら、思ったよりガチ恋なのね。安心なさい、兄様も込みで人も吸血鬼も等しく私の前では玩具よ」
『んぉぉおおおブヒィィィィィイイ』
『カリア様が降臨したと聞いて』
『ブヒブヒ、カリア様の玩具でしゅぅぅううう』
『カリア様ァアアアアアアアア』
お、カリ豚の皆さんが降臨している。一瞬でコメント欄がブヒブヒ言い始めた。というか、聞きつけるの早いな。
「豚たち、うぃんのチャンネルがBANされるようなコメントをしたらブラックリストに入れるわよ?自粛なさい」
『かしこまりましたカリア様』
『人間に戻りますカリア様』
『我らは玩具ですカリア様』
『豚であり玩具ですカリア様』
凄い統率力。とても色濃い。
「まあ、兄様と秋城さんが仲良くしているのなら私たちは私たちで仲良くしましょう?」
「あ、秋城さんに変なモーションかけないでよー?」
「余程状況が面白くない以上しないわ。馬に蹴られたくないもの」
というか、うぃんたそ俺の周りに女性VTuberが増えること気にしてるのか。えー、どんなに関わる人が増えても最推しがうぃんたそであることは変わりはないんだけどな、なんて思いながらも頬がゆるゆるとする。うん、可愛い。そんなことを思っていると、アールさんが声を上げる。
「おや、そろそろ時間の様だよ。うぃんちゃん」
「え、あ、ほんとだ。えー、こほん。じゃあ、改めてアール先輩、秋城さん。仲良くなれたかな?」
うぃんたその問いかけに、秋城とアールさんは一瞬視線を合わせて口角を上げるのだった。
「もちろん」
「俺はもう心の友だと思ってるな」
「ええっ、早くないかな?……まあ、秋城さんの友達が増えるのは喜ばしいけどぉ……!て、言ってたらキリがなくなるので枠閉めちゃうよ~?」
『無限にぐだぐだ絡んでてほしい』
『これはこれでいい味が染みてるな』
『アールがぶっ壊れた回だった』
『カリア様~~~~~~!』
「じゃあ、行くよ?せーのっ」
「「「「おつうぃん~~~~~!」」」」
『おつうぃん~~~』
『おつアール!』
『ブヒィィィィィィィィィイイ』
『おつしろ~』