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第27章 神モデルでお披露目配信ってアリですか?

 お坊さんも走り回る月、だから師走。そんな師走の中頃、具体的に言えば12月14日。今日は珍しく放送も休み、大学も休みな超暇な日である。

 何もないのなら休めばいいのだが、なんとなく体を動かしたくてジムで体を動かしている最中にそれは起こったのだった。



 はっ、はっ、そんな風に息を切らせながらランニングマシーンの上を走る。無論、運動のお供にうぃんたその過去配信のアーカイブを視聴することも忘れずに。ちなみに聞いているのは歌枠。画面を見なくてもなにをやっているか分かる丁度いい配信だ。


「はっ、はっ……」


 うぃんたその伸びのいい歌声に負けないように……いや、なにと競っているんだ、という話なんだが。そんな感じに運動をしていると、ぽーん、というメールの受信音が入る。


(お?この音は……)


 大学で付与されているメールではなく、秋城のメールアドレスがなにかを受信したことを察知し俺は端末を手に取る。もちろん、走りながら。

 秋城のメールアドレスに何かが来るということは秋城にとって(最近は)基本いいことである。俺はちょっとソワソワとしながら、周囲に人が居ないことを確認してメールをタップ。メールを開くのだった。メールの相手は———。


『金剛の大地05号』


「おっ」


 俺はメールの差出人の名前に一瞬体を跳ねさせる。お、これはこれは……あれか?ついに、あれか?

 ランニングマシーンと同じ速度ぐらい、いや、それ以上に心拍数が上がっていく。俺は胸を高鳴らせ……もちろん、走りながらメールを開く。


『秋城様、日ごろ大変お世話になっております。


ご依頼いただいた品の方納品させていただきます。不備等がないかチェックの方よろしくお願いいたします。


なにか不備等ございましたらお気軽にご連絡いただければ幸いです。


よろしくお願いいたします。


金剛の大地05号』


「おおおおおおお……‼」


 ついに、あるにゃママ様と大地パパ様による秋城の3Dモデルが納品された。俺はランニングマシーンとは別の要因で息を切らせながら、ファイルをタップする。

 端末はパソコンほどのスペックはないため、全展開できたりはしないが、軽く見るぐらいならお茶の子さいさいだ。

 そして、タップした瞬間———。


「おわあっ⁉」


 俺はあまりの神のようなモデルに慄き。


「へぶしっ!」


 ランニングのタイミングを崩し、顔面をランニングマシーンに強打するのであった———。



「ということで———」

「ちょっと待って!怪我は大丈夫なのかしら?」

「そうだよ!隼人、鼻の骨とか折れてないっ?」


 あれから。あまりの神モデルにテンション上がりすぎた俺は、ランニングマシーンを止めて休憩エリアに移動。速攻で鈴羽と世那のグループLEINにその旨をぶん投げた。すると、2人も喜んでくれて。同時に配信前のチェックに今日ならギリギリ付き合えると返事をしてくれたので、じゃあ夜に。ということになって今。昼間俺がどれだけテンション上がったかを前振りしたら、俺の体が先に心配されてしまったのだった。


「ちょっと鼻血が出たぐらいだ。安心してくれ」

「えー、吐き気とかは?起きてない?」

「体の動きが鈍っている感覚なんかも怖いわよ」

「大丈夫、マジ大丈夫。駄目な気配察知したら、ちゃんと病院行くから」


 俺はそんな約束を鈴羽と世那と交わしてから、Liscodeの画面共有機能を使って2人に俺のパソコンの画面を共有する。


「さて……じゃあ、秋城の3DモデルをわかVで展開していくぞ……」


 わかV。分かりやすくVTuber。という3DモデルもLive2DモデルもわかV規格で読み込めば動作を司ってくれる配信便利ソフトだ。2018年の頃に欲しかったなあ、なんて思いながら俺は手になじまない新しいソフトを恐る恐る触っていく。

 そうして、大地パパ様から納品されたファイルを改めてパソコンにダウンロードしてわかVに読み込ませる。そして、ファイルを展開すれば、プレビューモ―ドとモーションテストモードと配信モードを問われプレビューモードをクリック。

 そうして、俺はついに完全版秋城3Dモデルとご対面するのであった。


「おおおおおおおおお……!」

「わぁ……!」

「すっご……!」


 それぞれ感嘆の言葉が漏れ出る。それぐらいに完璧な3Dモデルであった。まず見て分かる部分から。あるにゃママは普段は女の子をメインに描く絵師様だ。それ故に雰囲気可愛くなる可能性を考慮していたのだが、そんなこと全然ない。元の秋城は2018年クオリティ……と言っては元の絵師様に失礼なのだが、どうしても細部に拘って動かせるほどのデータの大きさ的な余裕がなかった。だけど、現在は2039年。最新鋭の技術をこれでもか、と詰め込まれた結果———。


「え、えええ!やば、めっちゃすっご!え、え、えー!秋城ってこんなイケメンだったん⁉」


 こら、元の絵師様に失礼だろう。


「あるにゃママ、流石ね。元の絵師様の雰囲気を踏襲しつつも、秋城を現代に引っ張って来ているわ。ただのリニューアルじゃなくて、完璧なリメイクね」


 秋城ヲタの鈴羽の分析についつい頷いてしまう。雰囲気は、遠目に見ても秋城なのだが……瞳の輝きや佇まいに個性が出ている、というか。今までの秋城はやっぱりちょっと2018年、個人VTuberが出始めた時期のクオリティなので、どこかのっぺりとした没個性気味なところはあったのだが……。


「秋城らしさを消さないで、秋城の個性を磨いていく……いやほんと、とてつもねえ……!おわー……マジで依頼してよかった……!」


 最早聞こえるのは会話ではなく個人のぼやきである。俺はマウスを操作して顔を拡大する。ロン毛も赤目もそのままではあるが、こう、圧倒的に個性が出ている。なんというか、しっかりとしたカードゲームアニメの主人公のライバルみたいな顔をしている。


「ふ、私配信当日は全身公開されるまでROMっていたい気分だわ。……絶対にネタバレしてしまうもの」


 鈴羽の声が僅かに震えている。本当に興奮してくれているようで、その様子に俺は倍以上嬉しくなる。


「でも、分かるー!これ、すっごいよ!マジで凄い!秋城だけど秋城じゃないっていうかあ……えー、マジあるにゃママ神じゃん!」


 一方こちらは微妙に語彙力はない。だけど、その口ぶりにこちらも興奮が伝わってきて。


「もう本当……鈴羽も、世那も、あるにゃママ様も、大地パパ様も……この3Dモデルに関わってくれたすべての人に感謝しかねえ……!」

「もちろん、衣装も増やすのよね?」


 鈴羽が若干早口で問いかけてくる。


「ああ、新衣装も視野に入れてる。すぐは無理だがな」

「え~、この秋城なら新衣装でポニテしたり編み込んだりしてるのも見たい~えー、マジヤバ~!」


 なるほど。新衣装は髪型も変えるのも確かにありだ。女性VTuberだとショートver、ロングverとかもあったりするしな。


「えーとこれ、表情動かしたりすんのは……」

「モーションテストモードでできるわよ。早速、ノルンの出番ね」

「お、じゃあちと取ってくるわ~」



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