さて、そんなこんなの配信当日。今日はクリスマスではあるのだが、高山家はクリスマスで夕飯が豪勢になるのは24日である。25日は各々、過ごしたい人とクリスマスを過ごす、そんな習慣がある。なので、母さんはお稽古の友人たちと、父さんは釣り仲間と一緒に過ごす、と言って出かけていった。ちなみに、当然だが俺ももういい年齢なので夕飯も各々でとってくることになった。
そんな俺はコーラと昨日の残りのクリスマスチキンを自室へ運び込み———絶賛20時から配信のうぃんたそのクリスマス配信を見ながらクリスマスチキンを流し込んでいた。喉には油分がいいというしね。
「え、うぃんたそそわそわしてる?だ、だってえ!この後の秋城さんの配信楽しみすぎて……」
『まだ、10分あるから!』
『楽しみなの分かるな~』
『推しの新モデルだもんな』
『クッ、これで秋城とうぃんたそがぬるぬる絡むようになってしまうのか』
女の子とぬるぬる絡むはなにかR18的な響きを感じてしまう。それはよくない、視聴者の脳内は自由であるべきだが、俺の脳内で俺がうぃんたそに劣情を抱くのはよろしくない。まだ、鳴らすにはちょっと早い除夜の鐘を頭の中で全力で爆速で鳴らしつつ頭の中を清める。
さて、俺の配信まであと8分。俺は油でぎとぎとになった指を濡れたティッシュで拭いてから、うぃんたその配信タブを閉じる。ラスト8分はアーカイブでチェックさせてもらおう。そして、俺はノルンを手に取り、装着し、着々と画面の準備やらマイクの音量調整やら配信準備を行う。
そんな中、俺はふと思い立ってUtubeのチャンネルを開いた。
「うお……⁉」
思わず呻いた。理由は登録者数、数は98万人。100万人目前の数字に俺はついつい度肝を抜かれてしまう。こ、これはお披露目配信中に100万人……とついつい期待してしまう気持ちが生まれてしまう。だが、今ここで余計な雑念を入れてはいけない、と俺は頭を振って雑念を追い払って口を開く。
「ノルンOK、配信画面OK、マイク感度良好」
俺は久しぶりにガチガチに緊張していた。こんなに緊張する配信はいつ振りだろうか。
今日の配信は俺だけじゃない、あるにゃママ様や大地パパ様のしてくれたお仕事の発表でもある。そんな大事なところでミスる訳にはいかない。……けど、そこまで考えてこれは悪循環に入るな、と苦笑を零す。
俺はいつも通り、一瞬、全身に力を入れてふわあ、と力を抜いて脱力をする。すると、心持ち視界も広くなった気がして。俺は両肩をぐるぐると回して、最後に自分の頬をぱしん、と叩くのであった。
「おし、やるか!秋城の新モデルお披露目配信!」
そう、配信開始ボタンを押すのであった。
「こんしろ~」
『こんしろ~』
『画面暗いぞ』
『なにも見えへんやんけ!』
『新規モデルマダァ?(・∀・ )っ/凵⌒☆チンチン』
「まあまあ、順を追わせてくれー。ということで、いつもの挨拶からだ。こんしろ~、秋城の生放送、はっじまるよーゆっくりしていってね」
『セイラの枠から、こんしろ~』
『こんしろ~』
『新規モデルと聞いて』
『鈴堂うぃん:こんしろ~』
「わ、うぃんたそ。あれ、今同時視聴中では?」
『鈴堂うぃん:喋りながら打ってるよ~』
すげえ。俺の頭には高速でキーボードを打ちながら配信をするうぃんたその図がチラついて思わず笑いそうになってしまう。
「うぃんたそ変なスキル尖ってんな。というか、まだ実感ないんだが俺の配信マジで同時視聴されてる?」
『されてるされてる』
『2窓してるわ』
『うぃんたそとセイラが今雑談してるやで』
『混ざれなくて残念だな^^』
どんなときも煽りの精神を忘れない、これはお前らですわ。
「いいんだよ。今日は俺の配信を取り上げてもらっている訳だからな。んじゃあ、あまり雑談で場を繋がせるのも申し訳ないし、本題、行くか?」
『おおおおおお‼』
『ついに秋城ニューモデル!』
『ニューモデル秋城!』
『うぉぉぉぉおおお!』
「ニューモデル秋城の地方の旅館感やべえな。あ、と、その前に新しいモデルに関してお前ら……いや多分お前ら以外も見てくれてるよな。視聴者の皆さんに言っておくことがある」
『声のトーンが真剣だ』
『なんだなんだ』
『マジ城やんけ』
『なんだ改まって』
俺は黒い画面の端っこにLive2Dモデルの秋城の全身像を出す。
「前回……というか、初代Live2Dの秋城のモデルを担当してくれたママ様とパパ様なんだが、俺が活動を停止してから再開するまでの間に絵師様としての活動もモデラー様としての活動も休止していたんだ」
『まあ、結構時間経ったしな』
『20年経ってればそうなる』
『え、じゃあ今回はどうしたんだ?』
『強引な発注をして無理をゴリ押したか』
「しとらんわ。元のママ様とパパ様とは連絡も取れなかったよ。でも、連絡は取れなくても、もう俺のことなんて忘れ去っていたとしても改めて元のママ様とパパ様にはお礼を言いたい。本当に、ありがとうございました……いや、これからもちょいちょいモデルは使うと思うんだが……」
なんか話の流れがこのモデルをもう使わない、みたいな流れになってしまった。俺は気を取り直して、仕切りなおすように2回手を鳴らす。
「なので、察している人もいると思うが……今回、ママ様とパパ様が変わります」
『⁉』
『なん、だと……』
『つまり、精神だけじゃなく体もついに転生する、と……?』
『♰秋城転生♰』
「いや、名前変える訳じゃないし、転生ってほど大仰なものではないんだが……まあ、半転生ぐらいに思ってもらえれば」
半転生、いや、転生した気持ちは一切ないんだけどね。
「つーわけで……ママ様とパパ様の発表だ!」
『うぉぉおおお!』
『そういえば、以前あるにゃ様が放送に来てたよね?』
『ま、まさか……』
『うぃんたそとおそろの可能性があるのか……?』
お、察しがいい。俺はそんなコメントを見てにやり、と笑ってしまうぐらい愉快な気持ちになりながら口を開く。
「ふっ、まずはママ様からだママ様はっ———!」
一拍置いて。
「あるにゃママ様だ————ッ‼」
『こいつwwwwwww』
『本当にうぃんたそのママに頼んでやがるwwww』
『マジか』
『秋城とうぃんたそが兄妹……?いや姉弟……?』
ということで、黒い画面の右端にママ様の文字と共に、あるにゃママ様のゆったーのアイコンを張り付ける。
「えー、これはアレだな。以前、8月ぐらいか?幕開け配信のマジで直後にわたあめ配信をうぃんたそとやったときに頂けたコメントを頼りに、ガチ依頼しました」
『あるにゃ:ええイケメン描かせていただきやした』
なんだろう両手をすりすりと擦り合わせている絵面が見えてしまう。
『これはパパ様の期待値もすげえ上がるぞ……』
『秋城如きに勿体ない』
『あるにゃママの野郎絵(ゴクリ』
『秋城美少女になる?』
「美少女にはなってないんだな~これが。マジで、あるにゃママ様の普段の美少女系の絵と違ってとてつもなくイケメンになっている。かっこよすぎて俺は半日ぐらい限界ヲタクしてからあるにゃママ様に返事だした」
『あるにゃ:メールの文面からもヲタクが漏れ出てたよん』
『秋城ェ……』
『メールでぐらいヲタク隠そうな?』
『滲み出るヲタク』
「いや、お前らも見たらそんなこと言えなくなるからな?マジで。ということで、ママ様はあるにゃ様。そして、パパ様だが……」
ごくり、と生唾を飲み込む。そして。
「……金剛の大地05号様だ————ッ!」
『大地パパ⁉』
『セイちのパパやんけ!』
『とてつもない2人にタッグ組ませたな⁉』
『依頼料とんでもなさそうだな……』
「えー、大地パパ様とのご縁なんだが……こっちは表での絡みみたいなのはないな。裏でセイラ経由で紹介していただいたんだ、その旨は本当にセイラに感謝」
『金剛の大地05号:お仕事貰えた俺も感謝』
『セイちが珍しく感謝を集めてる』
『年に1回のセイラが感謝を集める日か?』
『つまり、秋城とセイラも兄妹……?』
「というか、あるにゃママ様も大地パパ様も見てくださってるのか。本当にその節はありがとうございました。しつこいぐらいメールでもお礼を伝えたと思うんですが……本当にどれだけ感謝してもし足りないです」
『あるにゃ:いえいえ、これでママとして秋城のファンアート描き放題できるね! 10000円』
「赤スパ!?!?!ちょ、スパチャしなくても拾うんでマジで普通にコメントしてください……!」
『なんか赤いスパチャ飛んで行ったなあ』
『秋城から貰ったお金を秋城に返しているだけでは?』
『あるにゃママのファンアート描き放題ってことはえげつないR18な秋城が見れることになるのか』
『どんな秋城でも俺はいいねしてやんよ』
「あー……だが、俺を描くことであるにゃママ様が満足してくれるなら……俺はどんな醜態でも受け入れるぜ!」
『あるにゃ:どんな醜態でもって言った?』
「あ、加減はしてくださると」
思わず声が震えてしまう。あるにゃママのファンアートは健全なものはそれはもう凄い可愛いのだが———R18はえげつない。あの天下の歌姫うぃんたそですらとんでもない姿にされたのだ。本当に手加減なしで描かれたらとんでもないことになってしまう。
『大地パパ:じゃあ、俺は秋城のモデルで絶対に秋城がしないポーズを』
「いやいや、ノらなくていいんですよ⁉大地パパ様⁉」
本当に俺を見てくれている人たちは俺を辱めることに余念がない。くう。
「と、無限に俺がイジられてしまうので、そろそろお披露目配信の本題、新モデルをお披露目していこうと思うぞ~」