舞台は綺麗に整地された無人島。そこに無人島開拓プランを購入した主人公が降り立つところからゲームは始まる。島に降り立つのは主人公込みで1人と2匹なのだが……今回は島の入口でセイラが待ってくれているという風になっていた。そこから、テントの位置を決め、その日は親睦会を込めたキャンプファイヤーをやってゲーム内の端末を受け取り、チュートリアルは終わる。
さあ、此処からが自由行動。ビバ、無人島開拓だ。
「で、これって何をゴールにするゲームなんだ?」
「え、ゴール……?」
セイラが首を傾げる、それと同時にコメント欄のコメントの量が増える。
『ゴールというゴールはないかな』
『スローライフをするゲーム』
『強いて言うなら借金返済がゴール?』
『自分が満足したらゴール』
「ほうほう、……ちょっと待て。借金返済?」
緩い感じのゲームの中に似つかわしくない単語を発見して俺が反芻すれば今度はセイラが人差し指をたてて言うのだ。
「うん、借金返済。さっき秋城クン、たぬ太郎からテント貰っただろう?」
「え、もしかして……アレ金取られんの?」
「うん。で、テントの借金返済が終わったら文字通り家を建てられるんだけど……強制なんだよね」
「え?」
借金返済し終えたら強制で新しい借金抱えさせられるってマジですか?え、それは悪徳商法もいいところなんじゃないでしょうか。
『テントぐらい無料にして欲しいよな』
『こうしてたぬ太郎にカモられていくんやで』
『ちなみに、家の増築を限界にするまでカモられる』
『このプランを購入した時点でたぬ太郎の手の中なんやで』
ひえええ。恐るべしたぬ太郎。
「つまり、セイラはたぬ太郎の回しものであったと……」
「いや、違うよ⁉ボクは純粋な気持ちでアニマルの森を勧めてるからね?」
「実際は?」
「いや、本当に。純粋に勧めてるだけだよ⁉」
ほんとか~?なんて思いながらもその言葉を飲み込む。そして、俺はふむ、と一呼吸おいてから座りなおす。
「で、セイラがさっき言ってた初期じゃ絶対持ってないアイテムってなんだ?」
「あ、それはね」
セイラのアニマルの森内のアバターがごそごそと自分のポケットを漁り始める。そして、ぽん、と地面に置かれる……星印の入った麻袋。
「これを拾えばいいのか?」
「うん、そうだよ~。あ、Xボタンで持ち物一覧開いて、詳細を確認できるよ」
『ああこれは……』
『カリアたその配信で見た光景』
『純粋な善意程怖いものはないよな』
『震えろ、秋城』
コメント欄の様子になんだ、そんな危ないものなのか?と疑問を抱きつつ、恐る恐る麻袋を拾う。そして、セイラに教えてもらった通りアイテム一覧を開く。そして、麻袋にカーソルを合わせて、麻袋を開くコマンドを選択すれば———。
「はい?」
唐突に俺の所持金表示が600万エルになる。ちなみにエルはこのアニマルの森の通貨の単位らしい。
「ちょ、セイラさん……?」
思わずさん付けをして震えながらセイラを見れば、セイラがキラキラとした笑みで言うのだ。
「とりあえず、たぬ太郎の借金返済して少し余るぐらいのお金だよ」
セイラの朗らかな笑み。この笑みに悪意や企みがないことはなんとなくわかる。そして、同時に俺の脳内によぎる……3Dモデルの時の一件。おおん、今回はリアルマネーじゃないからそんなに怖いものではないけれど。なんかこう、セイラに貸しを作るととてつもない肥大化して返ってくるのだということを今、知った。6年近い付き合いがあって、今思い知った。
「なん……?なんでえ……?」
『秋城壊れちゃった』
『まあ、いきなり600万エルは頭バグるわな』
『とりあえず、じゃないんだよなあ』
『あのカリア様ですら引いた行動だからな』
「え、だってボクの布教したいものを布教されてくれたからだよ。それならボクは全力でサポートするまでさ!」
とりあえず。セイラの主張に俺はドン引きしつつ、600万エルを麻袋形態まで戻して、それをセイラの足元に投げつける。
「セイラは布教をゴリ押しすればいい、そう思ってないか?」
「違うのかい?」
「全然違うッ!というか、ゴリ押しするにしてもこう……あー……セイラ。このゲームの楽しいところは?」
俺の問いかけにセイラが顎をもって悩み始める。
「うーん、アニマルたちとコミュニケーションを取ったり、徐々に発展する島に一喜一憂したりかい?」
「お前が金を渡したら発展が徐々に、じゃなくなるだろ」
セイラがハッ、と顔を上げる。
『やっぱりこれチル配信じゃないな』
『まさかのセイち、お説教される』
『これも、秋城の愛———!』
『駄目なことは駄目と言ってくれる愛だね』
「つ、つまり、ボクが楽しんでもらいたい、とお金を渡していたのは逆効果だった、ってコトかい……!?」
「いや、たまにそういう援護が嬉しいっていう人間もいるかもしれないが……。俺は却下だ。やるなら自分で島を発展させてぇしな」
俺がそう言うとセイラがしょぼしょぼとした全体的に悲しそうな表情を浮かべながら600万エルを拾う。
「え、でも、お金を渡す以外にボクは一体どうやって援護すればいいんだ……!」
「普通に地道な稼ぎ方教えてくれよ。なにをそもそもどうやって金を稼ぐかも分からない素人なんだから」
「なるほど、それなら……うん、任せてくれたまえ!」