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第30章 アニマルの森でチル配信ってアリですか?④

「エモもてえてえも意図的に作り出すものじゃないと何度言えば……」


 俺が額を押さえれば、画面の中のセイラはちょっと寂しそうな笑顔を浮かべて。おおう、顔がいいだけあってそんな表情を浮かべるだけでちょっと格好がついてしまうのが凄い。俺にはできない芸当だ。


「ボクってさー、ちょっと突っ走りすぎて仲良くしてもらいにくいじゃないかい?」


『自覚はあるのねwwww』

『でもそこがセイちのいいところだしなあ』

『まっすぐで、一生懸命なセイち俺は好きよ?』

『でも、最近はマシになってきている感』


「そんなボクに堂々とビシビシと色んなことを言ってくれて、一切引かないで接してくれる人って割と少なくてさ。だから、それをやってくれる人がボクを好いてくれたら……それって凄く幸せなことなんじゃないか、ってボクは思うワケ」


 うーん。


「だから、ボクは秋城クンの最推しになりたい、って思うんだ」


 これをなんかいい話風に終わらせることはできる、できる、が。それは俺じゃない気がする。あくまでセイラが求めているのは素の俺の最推しだ。そこを不誠実に答えてはいけない。だから。


「俺の最推しはうぃんたそ。残念ながらそこは変わらねーな」


 俺のその言葉に口をとがらせて眉を下げるセイラ。


「そこは変わらねーけど。でも、こうしてコラボする態度にうぃんたそと差をつける気はねーよ」


 これは本当。ヲタクの俺の最推しは間違いなくうぃんたそ、それは心の……いや、魂の奥底から思っている。だけれど、推すことと接する態度を変えることは別だ。いやまあ、そりゃ多少なりにもノリというものがあるからノリが変わることはあるが。


「うぃんたそもセイラも平等に仲良くしていきたいと思ってるぜ、俺は」


 うぃんたそだから、尊く扱うとか。セイラだから粗雑に扱っていいとかそんな風に思うことはない。だってそもそも、VTuberとか推しとか以前に俺ら同じ人間だぜ?俺のそんな言葉に、セイラはふ、と憑き物が落ちたような笑みを浮かべる。そして———。


「つまり、ボクにも平等に可愛いって言ってくれるってコト……⁉」

「なんかそれは違いますよネ?」


『いい雰囲気を自分で壊していくゥ!』

『ちょっといい雰囲気だったのになー』

『でも、負けイン感が否めないのはある』

『秋セイてえてえ……』


 ったく。いい雰囲気づくりに乗ったわけではないが、それなりに付き合ったというのに自分から空気を壊していくな。そんなことを思いながら、自分のキャラの釣り竿の浮きが沈んだ瞬間にAボタンを押す。そして、キャラが釣り上げたのは———。


「お、見たことないやつだ。えーと」

「えええええええぇぇええ⁉デメニギスだよ⁉秋城クン!」

「で、デメ……?」


 唐突に知らないカタカナ言葉で殴られた俺はちらり、とコメント欄を見る。


『15000エル』

『今回の大目玉』

『おめでとうー秋城』 

『冬に釣れる一番高い魚やな』


「お、おお。一番高い魚か、お、おお、こんなあっさり釣れるのか……!く、前知識がないとリアクションしにくいな!」

「え、やったね!というか、もう余裕で家建てられるぐらいエル溜まってるんじゃないかい?」

「そんなにか~?とか言って、テント代支払ったら霞みたいなエルしか残らないオチ絶対あるぞ」


 とか言いつつ、たぬ太郎の元へ走り換金を済ませる。現在、42000エル。そして、たぬ太郎にテント代の返済をする旨を伝えれば、たぬ太郎から伝えられる「5000エルだよ!」という言葉。


「え、ということは……」

「残り37000エル!結構残ったじゃないか!」

「で、次のローンの返済が……」


 たぬ太郎の言葉を進めていくうちに家を建てる~みたいな話の方向性になっていく。そして、拒否権なしにテントがあった位置に俺の家が建つことになる。そして、次の請求額。


「98000エルか。……なんだこの微妙に手が届きそうで届かない金額」

「値段設定が絶妙なんだよね。まあまあ、アニマルの森ならいくらでもボクが付き合ってあげるからゆっくり返済していこうじゃないか!」


『セイちこういう開拓ゲー好きだもんね』

『オノクラの@ふぉーむサーバーとかものめりこんでたしね』

『さあ、秋城がどれぐらいガチってくれるか』

『セイちが楽しそうで何より』


「あー、オノクラのセイラは確かに凄かったな。そう言う企画じゃないのに24時間配信やったり」

「ついついのめりこんでしまうよね。こう、目に見えて自分の成果が確認できるのは嬉しいものがあるじゃないか」


 ふむふむ。まあ、そういう人も世の中にはいるよな。俺は対戦ゲーで熱くなる方がのめりこんでいくが。だけど、24時間やり続けられるかと問われると微妙で。やはりそう言う点セイラは凄い。


「さて、じゃあ、秋城クンの家の建設予定も立ったし、今日は此処までかな?」

「お、もうそんな時間か」


 横目に時計を確認すれば10時に触りかけていて。おおう、時間が経つのが早い。


「さてさて、秋城クン。アニマルの森はどうだったかい?」

「俺が絶対選ばないチョイスだな、って言うのは思ったな。あ、でも、つまらないとかそういうのじゃなくてな。たまにはこう勝ち負け・クリアを考えずにのほほんとゲームするのもアリだな、とは思ったわ」

「うんうん、それは好感触だった、ってコトだね。ボク、とても嬉しい」


 歯を見せてにっ、と笑うセイラの笑顔が眩しい。絶対に言わないが、セイラの笑う姿に何とも言えない安心感がある。


「とりあえず、目標は借金返済しきることだなー家の増改築以外にもどうせできることあるんだろうし」

「そうだね。たぬ太郎商店を開いたり、ハリネの洋服屋さん、博物館なんかも開けるようになるから全然できることはあるかな」


『住民も増やせるしね』

『素潜りなんかもできるようになるよ』

『むしろ、借金完済の道中でいろいろできるようになる』

『きつ次郎のことも忘れないで上げて~』


 ほうほう。マジで自由度高いなアニマルの森。


「とりあえずゆったりと進めていくわ」

「とりあえず、24時間耐久でゆったり?」

「どこがゆったりだ。いきなりハードモードさせんな」


 ゆ、油断も好きもありゃしねえ。でも、アニマルの森24時間……何故だろう、なんとなくできる気もしてしまう。不思議なゲームだ。


「じゃあ、今日は此処までだね。じゃあ、いつもの挨拶行くよ?せーのっ」

「「おつセイラ~~~~」」


『おつセイラ~~~』

『おつセイち~~~!』

『おつセイラ!』

『おつしろォ!』



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