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第31章 カートゲームで勝ち確信ってアリですか?

 それはとある雑談配信の一幕。


「えー、あとは欲しいモノリスト送っていただいた方からのメッセージの読み上げと俺からの感謝の言葉だな。リアルギフト、電子ギフト問わずに読み上げていくぞー」


 その日は、前半はスパチャ読み……スーパーチャットを送っていただいた方への感謝の読み上げ配信を行って、後半は欲しいモノリストを送ってくれた方へのお礼を言う配信だった。

 欲しいモノリストは結構いろんなものが送られてくる。大半は、水やスリーブなど安いものに抱き合わせてお前らが本当に送りたいものが送られてくるのだが……もちろん、今回もその例に漏れず。


「えー、今年も申年ウッキィー!さんから……界隈間違えてないか?」


『これは某チンパンゲー界隈の方ですね……』 

『何が送られてきたんだwww』

『待て、リアル申年だわ、今年』

『↑ほんとだwwwwwwwwww』


 俺は言葉を区切る様に一回咳払いをすれば、届いているメッセージを読み上げる。


「えー、『拝啓 秋城様』……名前の割に礼儀正しいぞ?」


 そこから俺はやたらと礼儀正しい文章……最早俺の放送でここまで礼儀正しいと怪文書の領域なのだが。を、読み上げる。


「『私のおすすめのゲームを同封しておきました。これからも応援しています。』だそうだ。ということで、今年も申年ウッキィー!さんからはお水とゲームのギフトコードを頂いたぞ~……これはアレだな」


『アレですね』

『同封されてるゲーム一択だろう』

『なにをどうあがいてもエクストリームなバーサスが出てくるじゃねえか』

『ハッ、もしかしてこれで秋城の暴言が聞ける……?』


 まだその話題生きてたの?なんて気持ちになりつつ、俺は綺麗に梱包されたギフトカードを手元用カメラに映す。


「俺の暴言を聞くためにゲームを送ってきたんだとしたらもうそれは俺も潔く暴言を吐くわ。うん」


『秋城が諦めてる』

『でも、秋城割と視聴者から送られてきたゲームちゃんとやるからな』

『ちゃんと発狂してくれると嬉しい』

『秋城の暴言wktk』


 そうしてギフトカードを開封し———恐らく、中身のゲームはアレだろう、みたいなアテをつけつつ口を開く。


「さあ、なんのゲームが届いたかっ———!」


『うぉぉぉおおおお!』

『エクストリームなバーサスだろw』

『これで違ったら逆に驚くわ!』

『お前も猿にならないか?』 


 そしてギフトコードが映らないように台紙を取り出せば———。


「ほ?」


『お?』

『おお?』 

『マジか』

『エクストリームなバーサスじゃない、だと……⁉』


 カメラに映されたのはレディゴカート20だった。これはこれでカートゲーム系でも、VTuberの配信でも定番のゲームだ。大手の企業だとよく大会なんかが開かれてるし、勝ち負けが分かりやすく面白い。ほうほう。


「これを1人でやる配信を望まれてるのか?」


『1人でwwwwwwww』

『それはちょっと悲しいな』

『うぃんたそとか呼ぼうぜ』

『ちなみに秋城のレディゴカート歴は?』


「レディゴカート歴?QSはちょっと触ったけど、それっきりだな……マジで初心者故に視聴者参加型っつーのもなあ……」


『え、いいんじゃね?』 

『秋城、俺達と一緒に走ろうぜ』

『手取り足取りボコボコにしてやんぜ!』

『視聴者参加枠待機』


「お?お?マジか、走らせ方すらおぼつかない初心者だぞ?」


『構わんよ』

『まあ、オンに入る前に普通にチュートリアルあるし』

『それでも分からないところあったらコメント欄が教えてくれるだろ』

『レディゴカート起動したぞー』


「起動て、早いわ。んじゃあ、近々レディゴカート視聴者参加枠やるかー」




 というのが大体のことのあらまし。そして、俺は今、チュートリアルを終えて配信を始めようとしていた。

 ルールは簡単だった。コースを3周して、3週目の最終的な順位がそのまま勝敗に繋がる。その3週の間でアイテムで妨害したり、出し抜いたり……熱いバトルが繰り広げられるって訳だ。


「いまいち不安だがな……」


 マジで初心者過ぎてCPU相手にもギリギリの辛勝しかできなかった。そんな人間が人間相手にしてまともな勝負ができるのだろうか。


「あ」


 でも、そこまで考えて思い至る。これは配信でまともなゲームどうこうじゃない、と。これはみんなで楽しむゲームなのだ、と。

 そう思うと俺の肩の力は自然と抜けた。


「じゃあ、いつも通り配信を始めていくか!」




「こ~ん~し~ろ~、声届いてるか?」


『こんしろ』

『問題ないべ』

『久しぶりにレディゴカート立ち上げたわ』

『こんしろ~』


「問題ないようだな。秋城の生放送はっじまるよー。ゆっくりしていってね。っつーことで、レディゴカート視聴者参加型配信だ。お前ら、準備はできたか!」


『もちろん!』

『はよ部屋コード晒せ』

『甲羅で秋城ボコ殴りにしたる』

『秋城を合法的に殴れると聞いて』


 お前らのノリノリな感じが伝わってきてついつい俺も気分がよくなる。でも、ボコボコにされそうなのはマジなんだよなあ。


「あ、一応他のVTuberの方々に則って配信上のルールだけあるからそこだけ説明させてもらうぞー。公平なゲームをするために、俺への集中砲火、俺が来るまでゴールを待つ行為、その他特定の人物への粘着は辞めてくれなー。配信に乗りたいって気持ちがあるかもしれないが、それは抑えてくれると助かる。あ、あとアレか。1回プレイしたら退室してくれなー」


 一応ね。念のため、ルール守れないやつは居ないとは思うけど。


「ルールを守って楽しいゲームをしような」


『はーい』

『チッ、今回は狙わないでおいてやるよ』

『なんだかんだで秋城の言うことに従ういい視聴者』

『ルール概要欄に貼っておけば?』


「それはそう。ちと貼ってくるわー」


 そう宣言すれば、俺的至上最高の速さでタイピングを済ませ、概要欄を更新。すたこらと配信に戻る。


「で、レディゴカート内のルールはよくありげな感じ。ここら辺俺はよく分からないから、大手さんのルールそのまま引っ張ってきた感じだな。えー、150cc、アシストなし。全アイテム、キャラ、乗り物OKの、全ステージ選択可能だ。これで大分お前らにも自由が利くはずだが?」


『せやね』

『お、いいんか?秋城に有利なルール設定しなくて』

『おじいちゃん、アシスト入れなくて大丈夫かい?』

『おじいちゃん、俺が代わりに走ろうか?』


「俺が代わりに走ろうかは最早俺の配信じゃなくなるだろ。あ、アシストも考えたけど、フェアじゃねぇなって思って外したわ。まあ、壁に激突でもしたら笑ってくれー」


 そう言いながら、俺はマッチのための部屋に入る。部屋は広大な宇宙、その中に一人だけぽつん、と俺のアバターが立っていた。ちなみに頭上には数々のサーキットの選択画面。その数なんと200種類。QSの頃から無茶苦茶増えている。


「じゃあ、部屋コード貼るぞー」


 そうして、俺は画面上部に表示されるように部屋コードを張り付ける。そうして、待つこと一瞬。

 わらわらと集まってくる総勢29名のお前ら。画面の中がぎちぎちだ。


「お、マッチングできたようだな。じゃあ、お前らコースを選んでく……お、うぃんたそじゃん!よく似てんなー」


 そう、似ている。本物のうぃんたそではない。あくまでアバターの外見をうぃんたそに寄せて、それっぽくしたファンアカウントだ。ちなみにうぃんたそは配信ではだいてんしだいしょうりというアカウントを使っている。大天使 うぃんってことですネ。


『やはりお前らの中に信者が……』 

『うぃんたそに勝たせるべきか、偽物としてボコすべきか』

『名前が秋城さん♡なのがこれまた』

『信者ではなくカプ厨かもしれん』


「特定の人物への集中砲火は禁止なー」


 一応、念のためお前らに釘を刺しながら、俺は30人がみっちり入った画面を見る。うん、ぎちぎちだ。


「あ、やべ。俺がステージ選んでなかったわ」


『あとニキだけやぞwwwww』

『はよえらんだれ』

『無限に始まらんわwwww』

『うぃんたそ待たせんなって』


「うぃんたそ待たせるはまずいわな」


 そう言いながら俺はステージをおまかせ、で選択する。いや、うん、一切何も把握してないから何を選んでも同じというかなんというか。そうして、30人が選んだステージの中から選ばれたのは————。


「ビーチガーデン?」


『ほうほう』

『レディゴの敵キャラたちが多くいるコースやな』

『ここ途中でショトカ変わるんだよなー』

『2週目だけショートカット変わるから注意やで』


「いやいや、まずショートカットの位置を把握してねえって」


『把握しろ』

『ガチで走れ』

『ショトカぐらい覚えろ』

『やる気あんのかお前!!!!!』


「初心者だって言ってるだろォう?」


 そんなこんなで総勢30人がビーチガーデンに転送される。俺は30人の最後尾だった。


「おおう、いきなり一番後ろか……」


『あまりスタート位置は気にしなくても』

『最初のスタートダッシュだけ遅れるな』

『2秒でAボタンやで』

『ほらほら』


「ん?え、2秒で⁉」


 その瞬間、GO!の文字が画面に映ると同時に、周りの面々が飛び出していく中。


「おわあ⁉」


『ちと早かったな』

『アクセルふかしすぎやで』

『あるある』

『俺もやったことあるw』


 俺のカートだけスリップしてしまう。そうしてかなり取り残されてのスタート。俺はかなり焦りながらも、なんとかコースを走っていくのだった。



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