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第31章 カートゲームで勝ち確信ってアリですか?②


「いやー、他のVTuberってすげえわ……」


 カーブを曲がるために体を左に寄せ、右に寄せ、アイテムボックスからきのこを引けばついつい体は前のめりになる。


『いきなりどうしたwwww』

『レディゴカート難しすぎたか?』

『もしかして:レースゲー苦手』

『待て待て、秋城の言い分も聞いてやろう』


「今な俺……全然コメント欄読めねえんだあああああうわああああああ」


 そう他のVTuberは割と気軽に、カートを走らせながらコメントへの返事をしていたり、なんだったら雑談までしているのを見ることはある。見ることはあるが……。


「俺にはできねえわ!すまん!お前ら!しばらく俺のひとりごと配信になるわ!」


『秋城のひとりごと』

『なんかあったな昔の小説で』

『秋城に推理とかできなさそう』

『ネー』


 なんかコメントが流れていくが……レースについていくのに必死でそれどころではない。俺は名前の分からん鎖につながれた鉄球やらたらこ唇の植木鉢なんかを必死に避けながら必死にレースへ食いついていく。


「うわあああああ、ぜってーカート性能ちげえだろぉぉおおおお」


『秋城、何事にもtier1は存在してな』

『差があるに決まってるだろ』

『ノッシーが今のところtier1』

『秋城の絶叫配信の会場はこちらですか?』


「なんかお前ら色々言ってくれてるけどありがとな!全然読めねえ!」


 本当に申し訳ない。申し訳ないけど、読んでいる余裕がない。本当にすまん。そんなこんなで無難な28位ゴール。最後の最後に3連きのこを引けたので、それで最後は捻じ込みました。


「ふぅー……レディゴカートむっずかしいな……」


『そこそこコツいるからな』

『もうニキコメント読める?』 

『話しかけろーお前らー!』

『秋城、コメ返しながら走る練習な^^』


「コメント返しながら走る練習ゥ⁉無理だろ、まず普通に走って上位4分の1目指すわ……いや、マジで1位耐久しながら雑談するVTuberの方々を今日尊敬したわ……」


 具体的に上げるのならうぃんたそとリアさん。2人とも何気ない雑談をしてコメントを拾いながらレースも勝つ、マジで凄いVTuberだ。ちなみにだがセイラはレディゴカートは弱かったりする、俺以上アールさん以下という微妙な塩梅だ。


「さて、2レース目行くぞー。1レース目出た奴らは退室してくれな~」


 そう促せば、宇宙に次々とパージされていく、1週目で俺と共には知ってくれたお前ら。宇宙に飛んでいく様は少しシュールだった。そうして、入れ替わりに次の29人が入って来てくれる。


「おー、次のお前らよろしっ……」


『どうしたwwwwww』

『救急車ですか?消防ですか?』

『秋城、心停止か?』 

『秋城?おーい』


「いや、すまん。すまん……えー……」


 これはなんと言ったらいいか。2週目の面子の中に楪羽という名前のアバターが居て。あれこれもしかしなくてもうぃんたそ……もしかしなくてもオフのうぃんたそ……。


「リア友に似た名前の奴がいてな、珍しい名前だから動揺しちまった」


 という体で。うぃんたそのオフアカウントの名前を全体公開するわけにはいかない。


『どいつだ⁉秋城のリア友!!!!』

『炙り出せ!!!』

『とりあえず、ギャンブラーセイちじゃないのは分かる』

『秋城のリアルを吐かせろ!』


「いや、リア友ここに居たら驚くわ」


 多分居るんですけどね!リア友って言われるとうん?ってなるけど!多分、うぃんたそなんですけどね!え、ていうか、なんで最近にしては珍しいオフアカウント?普通にうぃんたそで来ればよくない?……とか思いつつ。まあ、うぃんたそにはうぃんたそなりの何かがあるのだろう。俺はそう思いながら、再びコースをおまかせ、で選ぶ。今度選ばれたのは。


「レディゴサーキット、お、なんかこのゲームの代名詞のようなコースか?」


『オーソドックスなサーキット』

『変なギミックはないな』

『その分腕が出るんだよなー』

『ショトカも少ないしな』


「腕が出るのか……」


 それは俺が勝てるか怪しいな。いや、勝ちは目指すが……。現状の俺は何故負けたかを把握できていない、それができない以上成長はまだ遠いだろう。


「えーと、2秒でAボタンだったな?」


『せやで』

『押しすぎるとスリップ、押さないと減速しちゃう』

『押しすぎず、押さなすぎず』

『推しごとにも言えるな』


「はは、推し過ぎず、推さなすぎず、か。肝に銘じておくぜ」


 そうして、俺込み30名がレディゴサーキットに転送される。

 お、さっきと違って凄いちゃんとしたサーキットって感じだ。まだ見える範囲だけだが、タイヤが詰まれていたり、広告看板みたいなのが置いてあったり。


「子供の頃に連れてかれたサーキット思い出すな」


 それは遠い昔の記憶だった。前世の父親が趣味がカーレースを見ることで。それによく連れてかれたものだ。

 そんな感慨に耽っていると、全員の読み込みが終わったのだろう、カウントダウンが始まる。ちなみに今回は28番目スタートだ。俺はカウントダウンが2になった瞬間に強くAボタンを押して。

 GO!そんな文字と一緒にサーキットに飛び出した。走り出しは順調、トップ層ではないが中間のだんごが出来上がるゾーンに入り込むことに成功した。


「おおおおお、これはいい滑りだしじゃね?」


『初心者にしては悪くない』

『むしろいい方?』

『まずまず』

『蹴散らしていこうぜ!』


 そうして一回目のアイテムボックス。出たアイテムは———赤い甲羅(1個)。


「お、これは半端な知識があるぞ!追尾するんだろ?確か!」


『せやで』

『でも、甲羅は防御に使った方が』

『いけ————ッ‼投げろッ———!』

『当てたれ———ッ!』


 そうして、勢いよく俺は赤い甲羅を射出。それは俺の目の前を走るカートに当たり、俺はそいつを追い越して順位を上げる。

 現在、13位。だけど、此処まで来ると上も上手い人たち、なかなか出し抜くことは叶わなくて。


「くっ、うううううっ」


『頑張れ頑張れ』

『むしろ、よく頑張ってるよ』

『いけ!あと一人ぐらいは抜かせる!』

『なかなかうまく噛みついてるなw』


「うぉおおおおお!」


 そして、2週目1個目のアイテムボックス。拾ったアイテムは緑の甲羅(1個)だった。


「ああああああ、ぐっ、これは……」


 これがカードゲームをやる場だったら笑いながら「ゴミィ!」とか言わなくはないのだが。いや、そういうノリもありなのは分かっている分かっているが。

 そんな葛藤の中、このゴミもとい緑の甲羅を投げ捨てようとして気づく。


「ン?……なんだあれ?」


 目の前を走るうぃんたそ……いや、楪羽が甲羅をカートの後ろにつけている。


「カートの後ろに甲羅?」


 俺は思わず理由が知りたくてちらり、とコメント欄を見れば。


『アレが防御』

『飛んできた甲羅とかを弾くのに使う』 

『Lボタン押しっぱなしでやるんやでニキ』

『離しちゃダメだぞ』


「助かる!お前ら!」


 お前らに教えてもらった通り、Lボタンを長押しすれば俺のカートの後ろに甲羅がぴとっ、とつく。これで1回攻撃を防御できるなら覚えておいて損はない技だ。

 俺は新しく覚えた技に得意げになりながら目の前を走る楪羽を追い抜かそうとAボタンを強く押し込む。

 その瞬間だった。楪羽のカート後部から勢いよく射出される赤甲羅。その甲羅はガードされていない俺のカート前面部を勢いよく殴打し———。


『ああっ!』

『ガードを披露しつつ、ガードの効かない場面を教えてくれる』

『あいついいやつだな』

『飴と鞭だな』


「あああああああああああッ!」


 俺のカートはすっころび、その間にも何人かに抜かされて楪羽は走り去っていくのであった。ちなみに順位は18位まで落ちた。

 もう無理かと思った最終3週目、だけど、俺はそれでも順位を15位まで戻していた。


「冷静に、冷静に行こうな……!」


 と言っても順位は半分だし、もうこれでゴール目指すだけでもいいんじゃね?と思わなくはないが。だけど、それは面白くない。いけるところまでいくのが配信者だろう?


『まあまだアイテムワンチャン』

『リラー引ければ10位ぐらいまで行けそう』

『さっきの人今トップ走ってんな……』

『スターでもええんやで』


 そして、3週目の2個目のアイテムボックス。出現するアイテムは———。


「弾‼‼‼‼」


『弾wwwwwwwwwww』

『確かに弾丸っぽいと言えば弾丸ぽいが』

『リラーな』

『お、これは10位前後行けるのでは?』


 そして、そのアイテムを使用すれば。


「おおっ、おおおっ⁉俺の操作に関係なく走るぞ、コイツ……!」


 そして、黒い弾丸となった俺のカートは次々に様々なお前らをごぼう抜きにしていき———。


「うぉぉおおお、ゴール!9位!」


『おめでとう!』

『2回目で9位はやるじゃん』

『あれ、リラーのおかげでは?』

『秋城の実力なくね?』


「全くもってその通り……」


 コメント欄で言われている通り、これは運よくリラーとやらを引けたからたまたま勝てた戦いであって。序盤中盤は頑張ったが、最後は俺の力ではない。そう言われると不完全燃焼な気もしてしまうが。ちなみに1位は楪羽であった。アレは間違いなくうぃんたそ。


「まあ、それでも勝ちは勝ちだろ!途中でプレミしても勝てばそれは勝ちだからな!」


 気を取り直して。


「じゃあ、2週目のお前ら退室してくれなー。ガッチャ、いいレースだったぜ」


 そう言えば宇宙に放出されていくお前ら。そしてそれと入れ替えに3週目のお前らが早くも入ってきて。そんなに順番待ちしてくれていたのか、と嬉しくなる。


「そういえば、段々慣れてきて周りを見る余裕が生まれたのだが……お前らが曲がるときにドリフトしたのを見たんだが、あれってどうやるんだ?」


『ああ、気づいたのか』

『スティック内側に傾ける』

『出るか出ないかは運』

『たまに秋城もできてたよ』


「マジ?俺ドリフトできてた?」


『できてた』

『意図的ではなかったのかw』

『お、上手いことやってんなーって見てた』

『無意識ドリフト』


 ほうほう。ということはプレイをしつつ、ドリフトを出す感覚を掴むだけなのか。俺は無自覚に凄い技を繰り出したweb小説の主人公みたいな気持ちになりながらカフェイン飲料の缶を開ける。


「カフェイン飲料飲むぞー」


 そうして、ごくり、と口の中を潤して、次のゲームのためにコース選択・おまかせを選択するのであった。



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